いずれの記事も好評を博しました。 腫瘍は,地理的にはある国の一部でありながら,独立を主張し,その国の憲法を全く無視して勝手気ままに行動して勢力を拡大していく “革命自治政府” のようなものです。 人の身体の至るところから がんが発生します。しかし,はっきりといえることがあります。それは,結合組織や支持組織などからも,がんは発生するけれど,ほとんどのがんは身体の表面を覆っている上皮組織から発生するという経験的事実です。すなわち,身体の “表面” は,がんの多発地帯なのです。 つぎのような仮想の実験を想像してください。 体内の組織に触っても傷つけないように注意して作った細くて軟らかいプラスティックの長い棒を口からそっと差し込んでみます。この棒は食道から,胃,小腸,大腸,肛門を通って身体の外に出ます。すなわち,食道から肛門にいたる消化管の上皮組織はすべて身体の表面です。 肝臓細胞も上皮細胞すなわち表面です。お酒が過ぎると,胃液や胃の内容物と一緒に,胆汁を吐きます。肝臓細胞が口につながっているからです。人の身体からは尿も出れば,汗も鼻水も出ます。体液が出てくるところは,すべて表面です。 似たような状況を想定すれば,子宮頸部,子宮体部の上皮組織はいずれも表面であることが理解していただけるでしょう。子宮体部の上皮組織を形成する子宮内膜は,生理のたびに剥がれ落ちて,血液とともに体外に流れ出ます。 別の例を挙げれば乳管です。母乳を作る乳管細胞が乳頭を通って外に繋がっていなければ,おなかを空かせた赤ちゃんの口に母乳は入りません。肺の上皮組織も表面でその機能を発揮します。酸素を取り込み,二酸化炭素を吐き出すためには,肺胞の表面が口,鼻につながってなければなりませんから。 実質とストローマ 上皮組織は,たとえば胃では粘膜上皮組織として,消化酵素の分泌などに関わっています。このように,ひとつの塊となって,生きていくための機能を発揮する細胞の集団を “実質” とよびます。 一方,結合組織は身体が出来上がっていく過程で生じた細胞間の空隙を埋め,身体を支える役割を果たします。ここで注意していただきたいのは,上皮細胞には,自分自身の活動を支えていくために必要な酸素と栄養の補給路が備わっていないということです。このため,上皮細胞の生存に必要な酸素と栄養は,結合組織に大量に存在する血管によって供給されています。 結合組織は “間質” あるいは “ストローマ” と総称されます。以後,ストローマを用いることにします。ストローマは,実質が心おきなくその使命を実行するために用意された,普遍的かつ必要不可欠な組織です。 強調しておきたいことは,“上皮のあるところにストローマあり” ということです。すなわち,上皮とストローマはつねに一組のセットとして考えるべき存在です。“基底膜” によって隔てられた “上皮” と “ストローマ” の関係は,正常組織の場合であっても,悪性腫瘍の組織であっても概念的には変わりはありません。 組織の空隙を埋め,実質を支え,実質を構成する細胞に血管を通じて酸素,栄養を供給する働きをするのがストローマです。たとえてみれば,登山する部隊(実質)の食料などを備蓄してそれを支える役割を受け持つのがストローマです。 “癌”と“がん”と“ガン” 現在,書籍,新聞などでは,“癌”と “がん”と “ガン” という風に,漢字と平仮名と片仮名を見かけます。言語学的に根拠はないと思うのですが,平仮名で “がん”と 書くと,癌と肉腫の両方を含むということになっているようです。 “国立がんセンター” は,癌という字を使わず,あえて平仮名で“がん”と書いています。以前,大塚にあった“癌研”(財団法人癌研究会癌研究所)では,漢字の “癌” を使っていました。癌研は,吉田富三先生が所長をしておられた頃から,癌には肉腫が入らないから困るといって,気にされていたということです。片仮名の “ガン” は病理の専門家は使わないようです。 良性と悪性 良性と悪性は,言葉の上では明確に区別がついているといえばついているのですが,現実的には必ずしもそうとも限りません。良性にもいろいろな種類があり,良性腫瘍が悪性化することもあります。さらに困ったことに,組織全体をみると,一部が良性,一部が悪性という場合さえ知られています。当然といえば当然ですが,生物の理解の難しい点です。 がんの特徴を直感的に理解するには,がんと炎症を比較してみるのがよいと思います。炎症は,日常生活でも何となく使われているのですが,医学の定義は必ずしも明確ではないようです。赤くなって,熱をもち,燃えるような感じがすることから,ドイツ語でも英語でも,燃えているという意味の言葉を使います。このため,日本語でも,漢字の “炎” をあてることになったのでしょう。 炎症は肺炎,腹膜炎,虫垂炎,腱鞘炎などのように炎という語尾で終わっているもののほかに,炎とは関わりない名前でよばれている結核,梅毒などの伝染性の疾患にも認められます。我々が遭遇する病気の多くが炎症を伴います。結核や梅毒の病巣が,初期の段階から全身に拡がっていく有様は,がんの場合と驚くほど似ています。がんも炎症も,病気の舞台が同じ人体であることを考えれば,当然といえば当然です。 がんの治療には,外科手術,放射線療法,化学療法が用いられます。しかし,がんが進行してしまった場合,少なくとも現在では,化学療法が最後の “命綱” です。身体の方々に散らばってしまったがん細胞を殲滅するには,相手の居場所を特定して行う外科手術,放射線療法は無力だからです。
by yojiarata
| 2018-02-09 22:00
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