ご隠居さんが映画少年だったことは,承知しています。だから,原節子さんが登場されるのも,よく分かります。ですけど,「原節子とドリアン・グレイ」というのは,妙な取り合わせですね。ドリアン・グレイは,オスカー・ワイルドが書いたただ1篇の長編小説に登場する永遠の美少年ですよね。 君の言っていることに何の間違いもありません。 ご隠居さんの話は,逆噴射することがあるから,そのつもりでお話を伺うことにします。では,お願いします。 空襲で焼け出されて,母親の実家に居候していたころ,『わが青春に悔なし』と書かれた巨大な看板を見たんだ。原節子さんがドーンと真ん中に描かれ,その横に藤田進氏が並んでいました。私が中学に入学した頃のことです。 『わが青春に悔なし』(黒澤明監督作品,1946年10月29日公開) これが,私が原節子さんの存在を知った最初です。町の映画館まで,一里の道を走ったよ。中学生は,中学生なりに,なるほどと思いながら観たことを覚えているよ。もう一つ覚えているのは,『悔いのない青春』を過した人間など,この世に存在しないと「臍曲り」のことを書いた映画評論家がいたことです。世の中には,色んな人がいるもんだな,と思った記憶があるよ。 ともあれ,この一件が,映画少年・荒田洋治の原点の一つであることは確かだね。 余計なことかもしれないけれど,この映画は,GHQが奨励した「民主主義映画」の一つだそうです。 ご隠居さん それで,これから先,話はどう進むの??? そう急がないで,話をゆっくり聞いてください。 NHKのラジオ 深夜便 で,石井妙子さんが,最近執筆された『原節子の真実』(新潮社,2016)についてインタビューされているのを聞きました。3年かかって,足で集められた資料をもとに執筆されたと聞き,早速,近くの区営図書館で借りてきて読んだよ。 これまで知らなかったことが山のように書いてあります。説得力のある,大変な力作です。 278ページに,こんなことが書いてあるよ。 【 原節子とは何だったのかと聞かれたならば,私は,迷わず「日本」と答えたい。戦後七十年にあたる年の,終戦の日を見届けて,九十五年の人生に終止符を打った。それもまた,実に彼女らしい最後ではなかったか。・・・・・ 】 私はただの映画少年で,物書きでも何でもないけれど,私が同じ質問されたとしたら, 【 美と青春と老い 】 と答えるね。 ここで,2014年1月16日に書いた私のブログ 『ドリアン・グレイの肖像』美と青春と老い を一読下さい。 なお,『ドリアン・グレイの肖像』は,文庫本(新潮社,光文社)として,現在でも入手できます。 『原節子の真実』の表紙に使われている原節子さんの写真を見てください。これまでに誰もが見て知っている,例えば『青い山脈』(今井正監督作品,1949)で見る ”にこやかな” 彼女とは,雰囲気がまるで違います。「美と青春,そして私に言わせれば,老いへの恐怖」を意識している写真ですよ。 これで,私が何故,『ドリアン・グレイの肖像』を持ち出したか理解していただけるでしょう。本の表紙の原節子さんの肖像を眺めているうちに,若い頃の自分の美貌に酔いしれていた ドリアン・グレイ のことがふと頭に浮かんだのです。 ______________________________________________________________ これまで書いてきたことと直接には関係がないんだけど,付け加えておきたいことがあります。「老い」と共に,最後まで女優を続けられ,極めてレベルの高い作品を遺された「美人女優」を一人だけ知っています。田中絹代さん(1909-1977)です。日本映画史上,特筆すべきことです。 『楢山節考』(木下恵介監督作品,1958)では,鬼気迫る演技で,観るものを圧倒したよ。なにしろ,山に捨てられる老婆を,自分の歯を4本折ってまで演じきったんだからね。 『サンダカン八番娼館 望郷』(熊井啓監督作品,1974)の演技でベルリン国際映画祭最優秀主演女優賞を受賞しています。 以上の2作品には,キネマ旬報賞(女優賞)が贈られています。 田中絹代さんは,1970年,紫綬褒章を受賞されました。努力は報われるよね。少なくとも,そう信じたいね。
by yojiarata
| 2017-03-06 22:06
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