ご隠居さん 国本武春って誰なの? 知らないか。では,廣澤虎造はどうでしょうか。正確には,二代目 廣澤虎造だけど。 名前は,何となく聞いたことがありますね。 ![]() 2013年4月12日のブログに次の記事を載せました。 森鷗外と永井荷風 流行歌と浪花節 荷風の日記(断腸亭日乗)には,次の件があります。 昭和9(1934)年。 正月廿一日。 晴れて風あり。空には雲多し。正午ラヂオの浪花節聞え出したれば今日は日曜日なり。 ・・・・ 七月廿五日。 くもりてまた俄に涼し。気候不順なること驚くべし。・・・・・ 鷗外先生は ・・・・・ 浪花節は宴席に於てもこれを聴くことを好まず,屡其の曲節の野卑にして不愉快なることを語られたることあり。・・・・・ 今日浪花節は国粋藝術などゝ称せられ軍人及愛国者に愛好せらるゝと雖三四十年まえまでは東京にてはデロリン左衛門と呼び最下等なる大道藝に過ぎず,座敷にて聴くものにては非らざりしなり。・・・・・ 現代の日本人は 藝術の種類 にはおのづから上品下品の差別あることを知らず。三味線ひきて唱ひまた語るものは皆一様のものと思へるが如し。・・・・・ 今夜鷗外先生も地下に在りてラヂオの浪花節をきゝ如何なる感慨に打たれ給うや。 どうも,荷風先生,師とも神とも仰いだ鷗外先生に大変気を使っておられるようだ。事実,荷風はこんなことを書いている。 大正12(1923)年 六月十八日。 ・・・・・ 夜森先生の渋江抽斎伝を読み覚えず深更に至る。先生の文この伝記に至り更に一新機軸を出せるものの如し。叙事細密,気魄雄勁なるのみに非らず,文致高達蒼古にして一字一句含蓄の味あり。言文一致の文体もここに至って品致自ら具備し,始めて古文の頡頏することを得べし。 この時,荷風45歳。”転げまわって絶賛”という感じである。 我が家の近くに蓄音機屋さんがあってね。店の主人は,新しいレコードが出るたびに,黙って置いていくんだ。レコードは,浪花節だったり,流行歌だったりしました。子供のくせに,私がやたらと浪速節や流行歌を知っていたのは,そのせいです。 父親が,親戚・縁者をよび集め,家族全員とともに蓄音機を取り囲んで,廣澤虎造の新しいレコードを聴くんです。三味線と囃子詞にのせて張りのある節回しで語られるドラマは,子供心にいまも記憶にあります。 ![]() 我が家では, 藝術の種類 など考えたこともない近所のおじさん,おばさんが廣澤虎造の新しいレコードに夢中になっていました。 うつせみの 人の宿命は 花火とおなじ 芸術の何たるかなどどうでもよいおじさん,おばさん達が涙を流して聴いているんです。そして,私は改めて,浪花節はなんと素晴らしいかを実感しました。 虎造の後,浪花節が衰退していくのを身をもって体験しながら,日本人の心の故郷もいえる浪曲界をまた再び元気にし,若者の心を掴もうと担って走りまわっていたのが国本武春さんでした。将来を大きく期待されたんですよ。虎造の後は,彼しかいないってね。 2013年9月20日のNHKのラジオ深夜便(ラジオ第一放送、午前4時からの放送)【 明日への言葉 甦れ 廣澤虎造 】の第二部を録音して,武春さんの話を1時間にわたって聞きました。 今聞き直しても,素晴らしい番組ですよ。国本武春さんの意気込み,熱気が,電波に乗って伝わってきてね。 武春さんは大変意欲的で,文化庁による援助を受けて,アメリカのテネシー州の大学に留学し,一年にわたって学生たちと一緒にアメリカ中を演奏旅行してまわり,日本に戻ってからも,新宿や原宿のバーに出演,三味線をベースにした新しいタイプの浪曲を唄って,多くの若者の共感を得ました。 その国本武春さんがいなくなってしまったんですよ。さっき,駅で別れたばかりなのにという感じなのに。悲しいね。 つい先日,NHKテレビで,【 英雄たちの選択「藤田嗣治“アッツ島玉砕”の真実」】をみました。(12月17日) 戦前,フランスに渡った藤田嗣治は,大変な努力の末,本場の画壇で成功を収めたんだけど,戦争へ傾くと,帰国。軍の要請を受諾し戦争画を制作しました。その作品の中で,1943年(昭和18年)に藤田が描いた「アッツ島玉砕」は大きな社会問題を引き起こすことになったんだ。この問題には賛否両論があって,藤田は辛い経験をしたようです。 最後には,フランスの田舎に自分の家(お墓)を建ててひっそり暮らし,そして亡くなったんだ。日本人としてね。一人ポツンと過ごしながら,浪花節を聞いていたそうですよ。番組で,高橋源一郎さんがそう仰しゃておられました。 浪花節こそ日本人の心の故郷にあるものなんではないしょうか。 追悼 国本武春(1960年11月1日 - 2015年12月24日) 享年五十五
by yojiarata
| 2015-12-30 16:00
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