ポリウォーター伝説再訪  STAP 細胞に想う   巻のⅤ





ジャック・ベンベニスト 小保方晴子 イグノーベル賞



まず,1935年生まれのフランス人のジャック・ベンベニスト (Jacques Benveniste) について書きます。子供の頃から,天才少年ともてはやされていたそうだよ。


ベンベニストは,ホメオパシーの根拠となるような論文を Nature に投稿し,同誌に掲載されました。事実であれば,大変な研究だけど,後に反証実験が行われ,ベンベニストの実験には再現性がないということが確認されています。


ポリウォーターのあと,さまざまな「驚異の水」が登場しました。雪を溶かしてつくった水が,やけどに対して驚くべき鎮痛効果,治癒効果を発揮するとの説,同じく,雪からつくった水に構造の記憶があるとの説はその例です。10-24-10-30モル (!) の濃度の抗IgE血清が好塩基球の脱顆粒活性を保持しているとする研究結果を,ジャック・ベンベニストが Nature に掲載しました。もしも事実であれば,例えばタンパク質が,水の中に存在した事実を,水が記憶しているのかも知れないという点で大きな反響をよびました。


ちなみに,ジャック・ベンベニストによるこの説は,雑誌 Nature (1991)に掲載されました。ベンベニストは,Nature に論文を掲載することに異常な執念を持っていたようだね。

君は,このベンベニストという人は,なんて変な人だねというかもしれないけれと, NatureScience などに心を奪われ,ただそのことだけを生きがいにしている人は,その辺 にゴロゴロ いるよ。


Nature, Science に論文を出せば出すほど,仕事が素晴らしいと考える風潮が,とくに,日本では顕著だね。困りましたね。日本は研究の後進国だということを自分で認めたようなものだからね。


古い話になるけど, 南方熊楠 (1867-1941)は,Nature に50編以上の論文を掲載しているからね。南方熊楠のおじちゃんは,自分が Natureに何編の論文を書いたかなんて,全集で見る限り,どこにも書いていないよ。



1991年 ベンベニスト イグノーベル賞を受賞



君は,イグノーベルについて聞いたことがあるでしょう。イグノーベル賞は,現在では,食べ物のことや,何だか憎めない,愉快なことに与えられるようだけど,ベンベニストの頃は全く違ったんだ。


ベンベニストは,1991年,第1回のイグノーベル賞(化学)を受賞したんだ。ベンベニストの場合は,強いて言えば,ポリウォーターのように,真実か,真実でないかのすれすれが問題になっていたんだ。

その意味では,今回の小保方事件も,ベンベニストの頃のイグノーベル賞と肩を並べると言えるのではないでしょうか。真面目なサイエンスについての議論と言えなくもないんだ。STAP 細胞・世紀の大発見説が,マスコミのワイドショウに取り上げられるしね。

何だか,終わったような,終わらないような,後味の悪さが,口の中に,苦く残っているしね。


Nature は追試チームを編成してデータを集め,その結果を誌上に掲載しました。こうして,ポリウォーターに比べてきわめて短時間のうちに事態は収束したんだ。ここでも,サイエンスに対する西洋民族の姿勢について,さまざまなことを学ぶことができるよね。


私自身は,今回の小保方事件 (自殺騒動などを含めて) に,ベンベニストの 引き起こした 「水の記憶」 事件の残像を見るような気がしています。


*



水には,(正確には,水溶液には),未知の可能性が秘められています。しかし,われわれがなすべきことは,慎重な実験にもとづく真面目な議論であることはいうまでもありません。実験の再現性など,中学生でも知っている当たり前のことを当たり前とすることなく,丹念に実験デ-タを積み上げて,先に進まねばならなりません。新たな可能性の開拓は,いかにも退屈な辛抱強い化学の努力の延長線上にしかないのです。Cavendish,Lavoisier をはじめとする偉大な先人が残した化学の教えは今も生きています。


「ポリウォ-タ-」 はいつの世にもあります。われわれは,この教訓をないがしろにしてはなりません。メディアに翻弄され,ファッションと化した研究は研究でなくなります。そして,真実は,つねに,誰にも理解できる単純明解なものです。




つづく

by yojiarata | 2015-01-03 21:12 | Comments(0)
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