岸は53歳にして,再復活した。 岸が戦争犯罪人をまぬかれた経緯については,いまにいたってもナゾ解きが出来ていない。 当時,誰もが岸は有罪とみていた。戦時日本の寵児だった岸を,戦勝国が犯罪者リストからはずはずはない。岸もそれを覚悟していた。少なくとも周囲にはそう映ったのである。岸の一人娘,洋子(49歳,安倍官房長官夫人)も, 「巣鴨に行くときには,私どもはもう帰ってこないもしれないと思っておりました。父もその覚悟で行ったようでした。」 と20年9月15日,山口県熊毛郡田布施村(現田布施町)の実家から父親が連行された日を回想した。 【田尻の著書】 117ページ-118ページ,52ページ 【荒田注 ここに登場する安倍官房長官は,当時の岸内閣の官房長官を務めた,岸の女婿・安倍晋太郎氏である。】 満州問題では22年暮れ,満州で岸に仕えた椎名悦三郎(78歳,元満州国政府産業部鉱工司長,現自民党衆議院議員)も,東京・市ヶ谷の米検事局に8回も呼び出しを受け,岸の容疑について尋問を受けている。 ・・・・・ 帰国後の岸は,商工次官に栄進し,16年10月には東条内閣の商工大臣,商工省が軍需省に改変されたあとは国務大臣・軍需次官(軍需大臣は東条首相の兼務)のポストにあった。満州時代を含めて岸が戦争遂行の中枢にいたことは疑いようがない。 にもかかわらず不起訴になったのはなぜなのか。井野の見解はこうである。 「米国が岸だけを特にどうこうしようとしたのではない。米国は天皇を戦犯にしたくなかった。そのためにトルーマン(大統領)は苦心した。東京裁判のキーナン検事に相談して,キーナンの 『戦争を指導した人は戦争犯罪人だが,単に戦争に賛成したにすぎない人は戦犯にならない。国際法上そうなっている』 という意見をいれた。 戦前,農商務省で岸の4年先輩だった井野碩哉(86歳,第二次岸改造内閣の法務大臣,現新宿ステーションビル会長)は,・・・・・ 東条内閣では農林大臣をつとめ,岸と一緒に逮捕されていた。井野は巣鴨拘置所を21年秋に出ている。 井野の証言 ― 「ほかのひとたちにくらべてあまり出所が早かったので,私は間違って出されたのではないかと思ったほどだ。・・・・・岸の釈放が私より2年おくれたのは,戦争責任の問題だけでなく,満州の問題と捕虜虐待の疑いを持たれていたからだ,という話を聞いたことがある」 岸は関東軍と深く結びつき,軍部との人脈を広げることに熱心だったが,満州の土地にも人にもほとんど愛着を示さなかった。岸にとって,満州は経営と統治の対象であり,次のステップへの足場であっても,なじむ場所ではなく,いわんや骨を埋める気などなかった。 【太田の著書】 443ページ サイパン島の守備隊全員が玉砕した昭和19年初夏,東条内閣は瓦解した。 打倒東条という「国家のためという大義名分」を掲げた岸は,戦犯逃れることはできないまでも,連合軍から大きなポイントを稼ぐため,走り回った。 その結果,東京裁判において,「東条内閣をつぶした岸信介」は,不起訴となった。一方,星野直樹には終身禁固刑が言い渡され,巣鴨プリズンにおいて服役した。 半世紀に及ぶ政治歴の中で,岸が幾度かの危ない橋を渡りぬけ,東条戦時内閣の商工大臣,軍需次官をつとめながら,戦争犯罪人の重罪をまぬがれることに成功し,今日でもなお政治的影響力を保持している超人的なタフネス,計算しつくされた処世術。 【田尻の著書】 12ページ 東京裁判でも検事がさんざん調べたが,あるときを境にピタッと止んでしまった。大陸の阿片を調べれば調べるほど,英国が深く絡んでることが白日の下に晒されてくることに,アメリカ側が危惧したからである。実際,阿片戦争(1840)以来,今次大戦まで,中国人を阿片漬けにして,骨とカサカサの皮膚だけにしてしまうイギリス国家挙げての謀略を,表に出すわけにはいかない。裁判で標的にするのはアメ リカ の 国益上,得策でないという判断があった。 【太田の著書】 328ページ
by yojiarata
| 2014-10-15 10:47
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