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中東・トンネル作戦    旧約聖書に描かれたイスラエル



ご隠居さん 旧約聖書だなんて,何が始るの。


***



マ 落ち着いて聞いてよ。


君も知っての通り,イスラエル と イスラム原理主義・ハマスの闘いが深刻になりつつあるよ。アメリカがイスラエルに武器供与しているしね。これは,今に始まったことではないけど。

イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」 (イラクとシリアのイスラム国 (英語: Islamic State of Iraq and Syria,略称: ISIS とよばれているよ )との戦争にもアメリカが参入したしね。アメリカの北部イラクへの爆撃で,困った状態になりつつあるよ。


CNNのニュースを見ていた時,ちょうど,イスラエルのネタニエフ首相が登場し,ハマスも ISIS も 同じ木から生えてきた枝だといっていたよ。ISIS は,アメリカ人の記者の処刑の写真を公開したようだけど,怖いよね。



【エルサレム共同】

ガザ侵攻の死者60人超 多数の地下トンネル発見


1) ロイター通信は19日,イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの地上侵攻後の死者が,パレスチナ側で子どもを含めて65人で,イスラエル兵の1人と合わせて66人に達したと報じた。8日の軍事作戦開始後では,300人以上が死亡している。


2) イスラエル軍は18日,ハマス戦闘員らをイスラエルに侵入させるために掘られたとみられる多数の地下トンネルを発見したと明らかにした。地元メディアが報じた。


3) パレスチナ・ガザ地区では,ほとんどの国境検問所と空港,海域がイスラエルによって封鎖され,人々の出入国や物資の輸出入が厳しく制限されている。街は内戦やイスラエルによる攻撃で荒廃し,利用できる農地も限られていて,食料や物資の不足が深刻な状態となっている。


4) この窮状に立ち向かうためにガザの人々が考案したのが,エジプトとの間に地下トンネルを掘り,それを使って物資を密輸する方法。現在,ガザ地区にはこうした「密輸トンネル」が数百本あると言われ,建築資材や食料,医薬品,衣服,ガソリン,パソコン,家畜,自動車など,ありとあらゆる物資の調達ルートとなっている。


5) しかし,大半のトンネルは大人ひとりがやっと通れるほどの狭さで,いつ崩れてもおかしくないような粗末な造りだ。坑内では崩落事故や火災が起きるほか,イスラエル軍の空爆に遭うこともある。


イスラエル側は,トンネルを見つけては,破壊したと言っているよ。これまでに破壊されトンネルは,その数50以上だそうだ。



この部分を書いているとき,NHKの文化講演会の講師・笈川先生の「ダビデの町」の話が耳にとまったんだ。3000年も前のダビデ,ソロモン親子の時代のイスラエルを記述した 『旧約聖書』 のなかの「ダビデの町」の件です。 笈川先生の講演会(全13回,現在,進行中)については,あとでまとめて紹介します。

旧約聖書には,ダビデの町 について,次のように記述されているよ。


紀元前10世紀,ダビデ王によって支配された街の地下遺跡。19世紀の後半から発掘作業が進められ,第一神殿時代の建物や遺跡,発掘物などが見学できるようだよ。

中でもよく知られているのが,最も新しく発掘されたウォーレンの縦穴です。この穴は,もともとは泉の水をくみ上げるために作られた水道システム。また,ダビデ王がエブス人を襲撃する際にここから兵を送り込んで戦いに勝利したといわれているんだ。

地下にトンネルを掘って,物資の輸送,兵隊さんの敵地への進行は,旧約聖書に記述されているように,紀元前から行われていたんだ。

この地方の土地は,基本的には,砂漠がもとになっているから,地下トンネルを掘りやすいんだろうか。



*



それはどうだかね。そんなことより,ご隠居さん,今頃になって,キリスト教に改宗しようとでも思ってるの?

冗談は止めてください。 それに,旧約聖書は,キリスト教とは,直接関係ないよ。関係があるとすれば,ダビデの子孫が,聖母マリアの亭主だということだろうね。

蛇足ながら付け加えると,旧約聖書は,エルサレムの過去から現在までを書いた,半ば物語,半ば(不完全な)歴史書のようなものです。普通の本のように,頭から,順番にかかれていないし,書いた人間のバイアスもかかっているし,読むときには,注意が必要だよ。

イスラエルの神の呼び名は,ヤハウェ。旧約聖書が書かれたヘブライ語は,母音を使わないから,4個のヘブライ文字にあたる

YHWH

と書くしかないんだ。一体,どのように発音するかは,今となっては,誰にもわからないんだよ。


旧約聖書は,言ってみれば,立派で分厚い将棋盤と思えばいいんじゃないでしょうか。ユダヤ教も,キリスト教も,イスラム教も,この将棋盤の上で展開される宗教活動なんだ。ユダヤ教にとっては,旧約聖書だけ。だから,旧約という言葉はありません。単に聖書です。キリスト教には新約聖書,イスラム教にはコーランがつながるんだ。

1辺が1km ,すなわち,面積 1平方キロのエルサレム の 旧市街には,16世紀以来,ユダヤ教徒,キリスト教徒,イスラム教徒が押すな押すなとひしめき合っていて,摩擦が絶えないんだよ。現在に至るまでね。


もし,これ以上興味があれば,次の本を読んで下さい。

山本七平 『聖書の常識』 (文藝春秋,1999年,第二刷) [山本七平ライブラリー⑮]

目から鱗が落ちることが,そこここに書いてある素晴らしい著作です。ちなみに,「目から鱗が落ちる」という表現は,広辞苑第六版によると,

新約聖書の使徒言行録(9章)

に由来するそうだよ。下に,該当部分を引用しておくよ。確かに,広辞苑に書かれている通りだね。


*



新約聖書 使徒言行録 9章から


9:10 さて,ダマスコにアナニヤというひとりの弟子がいた。この人に主が幻の中に現れて,「アナニヤよ」とお呼びになった。彼は「主よ,わたしでございます」と答えた。 9:11 そこで主が彼に言われた,「立って,『真すぐ』という名の路地に行き,ユダの家でサウロというタルソ人を尋ねなさい。彼はいま祈っている。 9:12 彼はアナニヤという人がはいってきて,手を自分の上において再び見えるようにしてくれるのを,幻で見たのである」。 9:13 アナニヤは答えた,「主よ,あの人がエルサレムで,どんなにひどい事をあなたの聖徒たちにしたかについては,多くの人たちから聞いています。 9:14 そして彼はここでも,御名をとなえる者たちをみな捕縛する権を,祭司長たちから得てきているのです」。 9:15 しかし,主は仰せになった,「さあ,行きなさい。あの人は,異邦人たち,王たち,またイスラエルの子らにも,わたしの名を伝える器として,わたしが選んだ者である。 9:16 わたしの名のために彼がどんなに苦しまなければならないかを,彼に知らせよう」。 9:17 そこでアナニヤは,出かけて行ってその家にはいり,手をサウロの上において言った,「兄弟サウロよ,あなたが来る途中で現れた主イエスは,あなたが再び見えるようになるため,そして聖霊に満たされるために,わたしをここにおつかわしになったのです」。 9:18  するとたちどころに,サウロの目から,うろこのようなものが落ちて,元どおり見えるようになった。そこで彼は立ってバプテスマを受け, 9:19 また食事をとって元気を取りもどした。


口語訳旧約聖書(1955年版),口語訳新約聖書(1954年版)


ちなみに,

「するとたちどころに,サウロの目から,うろこのようなものが落ちて,元どおり見えるようになった。そこで彼は立ってバプテスマを受け, 9:19 また食事をとって元気を取りもどした。」

の件は,手元にある英語版では,次のようになっている。


Immediately, something like scales fell from Saul's eyes, and he could see again. He got up and was baptized, and after taking some food, he regained his strength.

The Holy Bible, New International Version
Published by Zondervan
Grand Rapids, Michigan, 49530, U.S.A.
609 ページ


石黒マリーローズ 『聖書でわかる英語表現』 (岩波新書,2004年)

も,読んでほしいね。英語を通して,聖書のことが理解できるように,易しく書かれています。どちらかというと,キリスト教,つまり,新約聖書に重点がおかれているけど,旧約聖書にも充分配慮されています。




*



付録



このブログを執筆するにあたって,「NHKラジオ第2文化番組」


歴史再発見

聖地エルサレムの歴史

ひとはこの国に何をもとめたのか



に大いに触発されました。講師は,笈川 博一・元杏林大学教授。



この番組は,先月の7月1日(エルサレムとはいかなる町なのか)に始まって,9月23日(イスラエルとアラブの相克)の全13回,毎週火曜日の20:30から,21:00までの30分。

「イスラエルとはどんな国で,ユダヤの人々はどんな歴史を生きてきたのか」について興味深く語られます。


笈川先生は,1942年東京生まれ。東京教育大学文学部卒業。同大学大学院修士課程修了後,イスラエルのヘブライ大学に留学。その後,同大学で教鞭もとり,25年にわたって滞在。その間,時事通信社通信員、NHKエルサレム通信員等を経て1995年帰国。杏林大学教授に就任。2012年退職。専門は古代エジプト言語学,現代中東学。


この講演は,日本の大学を卒業してからは,何十年にも亘って,イスラエルで好奇心と共に修業を積まれた笈川先生でなければできません。

少なくとも小生には,絡まった毛糸の紐のように,理解が困難なイスラエルからパレスティナにつながる3000年以上に亘る歴史の流れを,ストンと理解することがこれまでどうしても不可能だったのです。これまで,何度聴いても,何度読んでも,すぐ忘れてしまって,あとに何にも残らないんだよ。

その理由は,小生が,ものごとの本質を全く理解していないからですよ。

だけど,笈川先生の話を録音して,何度も聴いているうちに,頭の中が整理されてきました。

笈川先生の話は明解だよ。枝葉の部分が切り落とされているからね。だけど,この作業は,この問題を,徹底的に理解している人でなければ,できません。

それに,笈川先生の話は,ユーモラスで何とも面白い。語り口は,私が,語りの師匠と仰ぐ五代目古今亭志ん生さんを彷彿とさせるよ。

世の中,「易しいこと」を難しく話す人は多いんだけど,「難しいこと」を易しく話せるひとは,少ないよ。難しいことを易しく話すには,笈川先生のように膨大なバックグランドをもってなけれはならないよ。

ともあれ,笈川先生には,大感謝ですよ。


君にも是非,聴いてほしいよ。






by yojiarata | 2014-08-14 22:43
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