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第六話  砂糖 と 塩





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「全集 2」
601ページ
砂糖と塩
越前の飯降山(三号一八二頁)


・・・・・ むかし支那帝,群臣に,人の命を続くるに何が一番大切の物ぞと問うた時,よく進んで対(こた)えたる者二人のみ。一人は塩,他の一人は砂糖最も必要と申す。そこで,帝みずからこの二物を嘗(な)め試みると,塩味が糖味に劣ったから,塩最も必要と答えた賢人を海に沈めた。爾後永々天気悪く,少しも塩採れず,帝ここにおいて大いに困り,砂糖よりも塩の大必要なるを了(さと)った。一日食に臨んで塩なきを歎(かこ)ちおると,多少の塩が案上(つくえのうえ)に降った。その日がちょうど五月一日だった。それかま毎年この日に,かの塩を讃めて海に沈めらた賢人のために海上を祭式をおこなうに,櫓を動かすごとに,「ピロ」と呼び,太鼓と鉦(かね)でこれに応ずるが恒例で,ために塩常に乏しからず。「ピロ」とは件(くだん)の賢人の名だ,とある。

・・・・・ 『公事根源』に,高辛氏の悪子,五月五日船に乗って海を渡る時,暴風で溺死し,水神となって人を悩ます。ある人五色の糸もて粽(ちまき)をして,海に投げ入れしに,五色の蛟竜となる。爾来海神が船の禍いすること止んだ。往昔支那にかようの伝説あって,それより排竜など行事も生じたものか。





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by yojiarata | 2014-07-20 08:35
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