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第八話  草花の話  





「全集 6」
草花の話
254 ペ-ジ


シャクヤクは婥約(しゃくやく)と美しいからこの名を得た,と『本草』にみえる。ラテン名パイオニアから,英語でペオニーときた。ギリシャの古伝に,医王エスクレピオスの弟子パイオン,この草を日の神の母に授かり,地獄王プルトンのきずを療じた。医王これをねたんでパイオンを暗殺したところ,地獄王恩返しに,その体をシャクヤクにして,伝えたという。また,この草は月から出たので夜は光り,これを植えた家を守って悪鬼を追い,その根を少し頸に掛けると魅せられぬと信じた。今も英国のいちぶで,その根で作った数珠(じゅず)をおびた小児は,歯がはえ易く,ひきつけをおこさぬという。 ・・・・・




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萱草(かんぞう)は,その苗を食えば楽しんで憂いを忘れるとあって,一名,忘憂また忘草,それから日本でワスレグサという。『今昔物語』に,紫苑をみれば思うことを忘れず,ゆえに嬉しいことであれば紫苑を,憂いある人は萱草を常にみよ,とある。ギリシャの旧説に,アフリカに棗(なつめ)を常食する国あり,他国の者それを食うと,全く世間と心配をわすれていまう。オジッセウスがトロヤ役果てて帰る途中,この所に立ち寄って,軍兵この棗を食うて故郷も知る人も忘れしまうを懼れたそうだ。 ・・・・

(大正十五年七月二十五日-二十七日『大阪毎日新聞』




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by yojiarata | 2014-07-20 08:38
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