第十話  桃太郎伝説





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桃太郎伝説について書くよ。


「全集 1」
『十二支考』491-524ページ



犬に関する民俗と伝説
 

524ページ

桃太郎の話は,主として支那で鬼が桃を怖れるるという信念,それから「神代巻」の奘尊が桃実を投げて醜女を却(しりぞ)けた譚などによる由は古人も言い,また『民俗』一年一報,柴田常恵君の説に,田中善立氏は福建にあったうち支那にも非凡の男児が桃から生まれる話あるを聞いた由で,その話を出しおる。それらは別件として,ここにはただ桃太郎が鬼が島を伐つに犬を伴れ行ったという類話が南洋にもあることを述べよう。タヒチ島のヒロは塩の神で,好んで硬い石に穴を掘る。かって禁界を表示せる樹木を引き抜いて守衛二人をころし,巨鬼に囚われた一素女を救い,また多くの犬と勇士を率いて一船に打ち乗り,虹の神の赤帯を求めて島々を尋ね,毎夜海底の妖怪鬼魅と闘う。ある時,ヒロ窟中に眠れるに乗じ,闇の神来たって彼を滅ぼさんとす。一犬たちまち吠えて主人を寤(さま)し,ヒロ起きて衆敵を平らぐ。ヒロの舟と柁(かじ),並びにかの犬化して山と石になり,その島に現存すというのだ(一八七二年ライプチヒ板,ワイツおよびゲルラント『未開民史』(ゲシヒテ・デル・ナチュルフォルケル)六巻二九〇頁)。

(大正十一年二,三,四,十二月『太陽』二八巻二,三,四,一四号)




「全集 2」 南方随筆
桃太郎伝説

282-283 ページ

桃太郎伝説



上記の記事に追加するべき文を引用する。

・・・・・ 桃太郎が犬つれて鬼が島を攻めた話にも,諸国に多い,忠犬,主を寤増して殺された話にも,似たところがある。タヒチ島は日本とはよほど隔たりおるが,神話や旧儀に日本上古の事物と似たことが多い。しかし,予はこのゆえに,ただちに桃太郎の鬼が島攻めはタヒチから日本へ移ったとも,日本からかの地へ伝えたとも即断するものでない。篤(とく)と調べたら,他の諸国にも多く似た譚があるのであろう。また以前あって今絶えたのもあろう。

(大正三年九月『郷土研究』二巻七号)



「全集 5」
日本及び日本人
488-489 ページ

童話桃太郎



桃太郎の童話が,「神代巻」の話尊桃実を投げて醜女を却(しりぞ)けし譚や,西王母の神異談や,道教に桃よく邪を駆るとする説に因縁あり。詰まるところ,桃を神霊の物とする支那思想より出たということは,大正二年五月の『民俗』に柴田常恵君が述べられ,代議士田中善立氏が泉州で聞き取った類話二則をも挙げられた。桃の原産地は支那とも西アジアとも見立て得る理由あって,学説今に一定せぬ(『大英百科全書』一一板,二一巻)が,桃よく鬼を駆るという信念は日本,支那のみに限らず。インドでも石榴や桃樹の下に施食すれば鬼神懼れて食い得ずといい,フランスでも目明しが巡邏中,ある園の桃三を取り食うと家に帰って激しく腹痛す,さては鬼に中(ア)てられたと悟り,巫男に頼むと,その桃の葉三枚を枕下に敷いてくれてからたちまち安眠す,そこへ鬼が来て戸を敲き,吾身苦痛に耐えず何とぞその葉を除きたまわれと嘆願するので、葉を取り去ると快癒して去ったという。





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by yojiarata | 2014-07-20 08:41 | Comments(0)
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