ご隠居さん 今日は話がどのように進むんでしょうか。 大変真面目な話だから,そのつもりで聞いてください。 朝日新聞の夕刊に,「人生の贈りもの」と題する記事が,月曜日から金曜日まで5回の連載分を一組として,毎週掲載されているよ。さまざまな分野で活躍しておられる方々へのインタビュ-で,面白いものが多いね。 私が最近(といっても,ひと月近くも前になるけど),とくに興味をもったのは,5月19日-5月23日に連載された登山家・重廣恒夫さんへのインタビュ-記事だよ。とくに,第1回は,登山とは縁がない私にも,強烈なメッセージとして伝わってきたよ。 以下,記者の一問(*)一答(重廣)の抜き読みです。 * エベレストを世界で初めて北壁から登り,日本人で初めて世界第2の高峰K2の頂に立ちました。隊長としては世界5位のマカルー東稜(とうりょう)の初登頂を指揮。1970年代から90年代にかけ,ヒマラヤで活躍しました。 重廣 73年にエベレストの南西壁に挑戦してから95年のマカルーまで,懐が深い会社のおかげで,ヒマラヤばかり13回。5年近く山にいた計算になります。 ほとんどが,自分たちで登攀(とうはん)ルートを切り開き,大人数で荷上げを繰り返し,キャンプを数百メートルずつ上に伸ばし,最後に数人が頂上に立つ極地法という登り方です。隊員時代は登頂者に選ばれたいと努力したし,隊長になってからは,山頂にたどり着く人数をいかに増やし,安全に下山させるか,戦略を考え抜いた。「登頂しない登山」の喜びもかみしめました。 * 参加したほとんどの登山隊で登頂者に選ばれています。 重廣 極地法で登頂者に選ばれるのは巡り合わせです。僕は登山家として特別強いわけではない。要領もよくない。鈍重です。ただ諦めない。そして,最終キャンプで風雪に閉じ込められても,下のキャンプで待機する隊員に対し,「食料や燃料を途中まで上げてくれ。こちらも下りていく」といった,状況に合わせた解決策が提案できる。それが強みかもしれません。 * 8千メートル峰の登山は死と隣り合わせです。 重廣 これまで国内外で400人以上と一緒に登りましたが,うち60人はその後,山で亡くなりました。僕は人より怖がりで臆病で慎重です。凍傷で指を失うこともなく,生き残っている要因かなと思います。 * 三浦雄一郎さんがエベレストの最高齢登頂記録を更新し,お笑い芸人が8千メートル峰に挑む。ヒマラヤ登山が盛んです。 重廣 僕たちの頃と決定的に違うのは,いま盛んなのはガイド登山だということ。エベレストで一般的な南東稜ルートは,ベースキャンプから山頂までほぼ全行程にロープが張られ,食料や装備,酸素はシェルパが担ぎ上げてくれる。700万円を払って誰でも参加できる公募隊に加わり,シェルパのサービスを受けながら頂上まで「連れて行ってもらう」 のです。 エベレストの初登頂は 53年です。その27年後,僕は107人目として頂上に立ちました。今は年間数百人が登頂します。国内も同じです。日本百名山など有名な山に登山者が集中している。旅行会社が企画するガイド登山が全盛です。 僕はアウトソーシング,人任せの時代と呼んでいます。登りたい山を見つけ,ルートを調べ,体を鍛え,必要な装備を選び,技術を身につける。それぞれの段階に登山の喜びとだいご味があるのに,自ら放棄し,業者に丸投げする。世の流れとはいえ残念です。 ここから先は,私の個人的意見です。 三浦雄一郎さんは,エベレストの最高齢登頂記録を更新したというんだけど,下山に当たっては,ヘリコプタ-を使ったそうだね。素人の私も,「下り」はより困難で,重大事故が多発していることを聞いているよ。 ともあれ,重廣さんの仰るように,エベレストなど宣伝価値のある山の登山は,単なる登山ではなくなってきたことは確かだね。広く一般にいえることだけど,サッカーであれ,体操であれ,あらゆる分野で,スポーツが単なるスポーツでなくなってきたこともまた確かですよ。トレーニングの道具一つをとってみても,お金がかかることは認めざるを得ないよ。2020年のオリンピックにも巨額の予算が必要だそうだし。 いまや,オリンピックで金メダルを取ると,新聞の片面全部を使って,その選手が契約してる会社のコマーシャルが,その選手の顔の巨大な写真と共に出る時代だよ。昔は,アマチャ-とプロをどう分けて考えるかなど議論していたけれど,今ではそんなことを言う人はどこにもいないよ。 難しい問題だね。 重廣恒夫(しげひろ・つねお) 1947年,山口県生まれ。66歳。岡山理科大卒。アシックスに勤めながら,8千メートル峰4座に登頂した。日本山岳会関西支部長。 長年の登山のためか,脊柱管狭窄症 せきちゅうかんきょうさくしょう を患い,身長は4センチ縮んだそうだよ。
by yojiarata
| 2014-06-15 22:35
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