今日は一転,大上段に振りかぶってきたね。それに,「巻の2」と仰いますが,「巻の1」は,ご隠居さんのブログでは見てないような気がするよ。 あれからもう4年になるかなぁ。2年近く時間をかけて ”取材” した資料をもとに, 荒田洋治『日本の科学行政を問う 官僚と総合科学技術会議』 (薬事日報社,2010) を出版しました。 文部科学省などにも,友人を通じて送ったんだ。友人は,文部科学副大臣などに渡したと言っていたけれど,古井戸に石を落としたように,予想通り,何の反響もなし。鳩山総理(当時)にも郵送しただけど,「結構な品物を有難う」と印刷された領収書(葉書)が送られて来ただけ。私がスタンフォード大学で客員をしていた1970年代の初め,彼氏も,どこかの学部に留学していて,知らない仲じゃないんだ。 こんな調子で,執筆の効果はゼロに近かったんだけれど,興味をもってくれた友人が何人もいたよ。 今日また,意見を述べたくなったので,「巻の2」としたんだ。主な理由は,2014年4月14日の総合科学技術会議で,論文執筆に関わる倫理問題が取り上げられたためです。 昨日の朝日新聞・朝刊 (38 社会面)に,次の記事が載ったよ。 【研究論文の問題が相次いでいることを受け,安倍晋三首相は14日に開かれた総合科学技術会議で,不正の予防や事後の対応策について検討するよう指示した。 安倍首相は「研究不正の頻発は研究開発力の基盤をむしばむもので大変遺憾。個別事案への対応だけでは不十分」と指摘した。同会議は,研究現場の実態を調べ,不正が起こる背景や,防止に向けて各省庁や学界の役割などを検討する。】 内閣府傘下の総合科学技術会議のことは,名前は聞いたことがあっても,中身は知らない人も多いと思うから,「巻の1」の私の著作の目次を再現します。ここに,私の言いたいことはすべて書いてあるよ。 総合科学技術会議は,議長が総理大臣,何人かの ” 学識経験者” から成る議員がいるんだ。議員は,議長が自らの意のままに選ぶんだから,どうなっているか想像できるでしょう。 ちなみに,議員は時々,追加や交代があるようだから,現在を知るために,今年3月の会議の議事録(案)[次の月に案として提出されて,会議の承認を得る]を次に引用するよ。すべての資料は,内閣府のウェブ・ページに公開されています。 第118回総合科学技術会議議事録(案) 1.日時 平成26年3月12日(水)17:26~17:45 2.場所 総理官邸4階大会議室 3.出席者 議 長 安倍 晋三 内閣総理大臣 議 員 山本 一太 科学技術政策担当大臣 同 菅 義偉 官房長官 同 新藤 義孝 総務大臣 同 麻生 太郎 財務大臣 同 下村 博文 文部科学大臣 同 茂木 敏充 経済産業大臣 (松島 みどり 経済産業副大臣代理出席) 議 員 久間 和生 常勤 同 原山 優子 常勤 同 小谷 元子 東北大学原子分子材料科学高等研究機構長兼大学院理学研究科数学専攻教授 同 中西 宏明 株式会社日立製作所代表執行役執行役社長兼取締役 同 平野 俊夫 大阪大学総長 同 大西 隆 日本学術会議会長 臨時議員 甘利 明 経済再生担当大臣 同 稲田 朋美 規制改革担当大臣 4.議題 (1)成長戦略のための新たな研究開発法人制度について (2)独立行政法人科学技術振興機構の業務方法書、中期目標・中期計画の変更について (3)独立行政法人日本学術振興会の業務方法書の変更について 5.配布資料 資料1-1 世界最高水準の新たな研究開発法人制度の創設に向けて 資料1-2 特定国立研究開発法人(仮称)の考え方について(案) 資料2 独立行政法人科学技術振興機構の業務方法書、中期目標・中期計画の変更について 資料3 独立行政法人日本学術振興会の業務方法書の変更について 参考資料1 特定国立研究開発法人(仮称)の対象法人候補について 参考資料2 第117回総合科学技術会議議事録(案) 第118回総合科学技術会議議事録(案)によると,安倍議長,下村議員が,つぎのように発言しておられます。 【安倍内閣総理大臣】 本日から,新しい有識者議員として,小谷元子議員に参加をして頂くことになりました。そして中西議員,平野議員には引き続き議員をお願いしたいと思います。皆様のこの最強の布陣で,内閣のイノベーション政策を強力に進めていきたいと思いますので,宜しくお願いします。 今日は,2つのことを申し上げたいと思います。 研究開発成果の最大化を目指す新たな研究開発法人制度について,イノベーション政策や行革といった様々な角度から議論を重ねてまいりました。本日,その中核を担う特定国立研究開発法人について,考え方を決定致しました。 今後は,関係閣僚が一体となりまして,研究開発法人改革の法案の国会提出に向けて,しっかりと対応して頂きたいと思いますので宜しくお願い致します。 そして革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の公募が,いよいよ始まりました。ImPACTは,安倍政権のイノベーション政策の看板施策と位置付けています。総合科学技術会議において強力に推進をして頂きたいと思います。 【下村文部科学大臣】 現在,内閣府の主導の下で,新制度を具体化する為の法案の作業がなされておりまして,法律には,昨年末の閣議決定に盛り込まれた法律事項や関係大臣間で合意された事項が着実に法定化されることが必要であると思います。 加えて,「研究開発成果の最大化」を第一目的とした世界最高水準の運営が可能になるよう,制度的な見直しや財政的な支援の充実等が重要であり,文部科学省としても,関係府省と協力して,その実現に向けて,全力で対応していきたい。 なお,特定国立研究開発法人の対象法人については,今後,科学技術イノベーション政策の動向等を踏まえ,必要に応じて見直しを行うこととされていることは,先程お話がありましたが,現時点で基準を満たさずとも,対象となるポテンシャルのある法人が他にもあることは,関係閣僚間でも異論がなかった訳でございまして,この見直し規定に基づき,そのような法人が選定される道筋を早急に明らかにしていくことも必要ではないかと思います。 また,先般来のSTAP細胞に係る論文の問題についてでありますが,引き続き理化学研究所において調査が進められているところでございます。研究活動は,研究者が高い倫理性をもって誠実かつ謙虚に責任をもって遂行することが原則であります。 今回の特定国立研究開発法人の選定要素として,法人のマネジメントやリスク管理が挙げられていますが,そのような観点から,理化学研究所の今後の対応について文部科学省としても注視するとともに,必要に応じて指導するなど,真摯に受けとめて対応してまいりたいと思います。 総合科学技術会議( 第119 回)議事次第 を見ると,次のようになっているよ。 総合科学技術会議(第119回)議事次第 日時 平成26年4月14日(月) 17時35分~18時15分 場所 総理官邸4階大会議室 議事 (1) 科学技術イノベーションを創出するための環境整備について (2) 科学技術イノベーション総合戦略改定案の構成(案)について (3) その他 (4) 最近の科学技術の動向 資料 資料1-1 日本再興のためのイノベーションシステムの改革に向けて(概要) (PDF形式:152KB) 資料1-2 日本再興のためのイノベーションシステムの改革に向けて~飽くなき「挑戦」と、知の衝突による「相互作用」が織りなすイノベーションの連鎖~(有識者議員提出資料)(PDF形式:211KB) 資料1-3 「日本再興のためのイノベーションシステムの改革にむけて」の資料集 1(PDF形式:222KB) 2(PDF形式:433KB) 3(PDF形式:495KB) 4(PDF形式:477KB) 5(PDF形式:351KB) 資料1-4 我が国のイノベーション・ナショナルシステムの改革戦略(概要)(PDF形式:219KB) 資料1-5 我が国のイノベーション・ナショナルシステムの改革戦略(PDF形式:195KB) 資料2 科学技術イノベーション総合戦略改訂版構成(案)(PDF形式:79KB) 資料3 研究不正問題への対応に向けて(意見)(有識者議員提出資料)(PDF形式:254KB) [字体,色は筆者による] 資料4 最近の科学技術の動向「持続的発展を見据えた分子追跡放射線治療装置の開発」(北海道大学大学院医学研究科教授 白土博樹氏説明資料) 1(PDF形式:469KB) 2(PDF形式:410KB) 3(PDF形式:498KB) 4(PDF形式:410KB) 5(PDF形式:504KB) 6(PDF形式:488KB) 7(PDF形式:427KB) 参考資料1 科学技術イノベーション総合戦略のフォローアップについて 1(PDF形式:864KB) 2(PDF形式:470KB) 3(PDF形式:575KB) 別添1 1(PDF形式:498KB) 2(PDF形式:432KB) 3(PDF形式:496KB) 4(PDF形式:476KB) 5(PDF形式:251KB) 別添2 1(PDF形式:402KB) 2(PDF形式:449KB) 3(PDF形式:495KB) 4(PDF形式:444KB) 5(PDF形式:430KB) 6(PDF形式:496KB) 7(PDF形式:418KB) 8(PDF形式:444KB) 別添3 (PDF形式:277KB) 参考資料2 第118回総合科学技術会議議事録(案) 第119回の議事録には, 研究不正問題への対応に向けて(意見) が掲載されているよ。全体は, 総合科学技術会議( 第119 回)議事次第 のなかの「資料3」を見ていただくことにして,項目と記事の一部を次に列挙しておきます。 (研究倫理の遵守) 1.近年、我が国の科学技術の研究開発の現場において,研究不正事案が少なからず発生していることは,極めて遺憾である。 ・・・・・ (研究者と研究組織の責任) 2.本来的に,研究者は他の職業と比べて,高度な学術的知識や専門的能力を背景に,研究活動内容・範囲の決定や時間・設備・資金の利用等を自らの判断に任されるなど,自由で独立した活動環境が確保されている。また,研究者がその自由な発想を追求し情報発信することは,尊重されねばならない。 ・・・・・ (研究不正の抑止に向けて) 3.研究不正の抑止に向けては,科学技術の研究現場の実態をよく見極めた上で,3つのレベルで対応のための仕組みづくりに取り組むべきである。 ・・・・・ (科学技術イノベーション推進への決意) 4.研究不正事案の頻発は,断じて許すことはできないが,しかし,これを理由に科学技術推進の足取りを聊かも緩めることがあってはならない。安倍内閣は,イノベーションに我が国の未来への活路を求めて,科学技術イノベーション政策を強力に推進している。この決意と努力を決して無駄にしてはいけない。 また,研究不正への対応が,正鵠を射ぬ内容であったり研究活動に度を超えた管理や制約を課すことにより,研究者の自由で独立した研究環境を破壊したり,チャレンジングな研究活動を委縮させるたりするような,「角を矯めて牛を殺す」ものであってはならない。特に,若手研究者が果敢に挑戦を行う機会を奪ってはならない。 (より良き研究開発環境の整備に向けて) 5.なお,今般のSTAP細胞論文の研究不正疑義をめぐっては,国民の科学技術への期待や関心が大きいが故,巷間議論が白熱しているが,様々な論点が錯綜したまま議論されている面が一部にあることを懸念する。すなわち,①研究論文の不正行為の有無の問題,②STAP細胞の存在に係るサイエンスとしての問題,③理化学研究所のガバナンスや対応の問題,④研究開発活動のあり方や責任所在の問題,⑤科学技術イノベーション政策の問題,の論点が混在したまま,議論や批判が行われているように思われる。 今回の事案を契機に,国民がもう一度科学技術に対する信頼と期待を取り戻せるよう,これまで述べてきた基本的な考え方に即して,冷静で建設的な検討を行うことにより,研究不正の防止及びより良い活力に溢れた研究開発環境の整備を図り,我が国の研究開発力の強化につなげていくことが必要である。 平成26年4月14日 総合科学技術会議議員 内山田 竹志 大西 隆 久間 和生 小谷 元子 中西 宏明 橋本 和仁 原山 優子 平野 俊夫 終わる前に,次の諸点を指摘しておきます。 1) これまでに引用した議事録などは,実際には,頭の良い「官僚」が書いたものだと思います。この種の文書に特有な言葉使いから明瞭だよ。 2) 議長配下の議員の名簿を見ると,現役の方はほとんどおられません。会社の要職などについておられたかもしれませんが,サイエンスの現状と将来を議論する総合科学技術会議の仕事を果たせるとは思えないよ。それに,現役の先生といっても,何故,議員に選ばれたかは,全く不明です。何しろ,議長と官僚たちが勝手に決めるんだからね。 3) 政府の活動の裏にあって,政府を動かしているのは,官僚だけど,そのことを端的に示しているのが,官僚たちが 「ポンチ絵」 と呼んでいる紙切れです。ある官僚に聞くと,先生方に物事を手っ取り早く理解していただくには,これが一番だと言っていたよ。 これが,総合科学技術会議の実態です。これで,論文執筆に関する倫理の問題が解決すると,議長さんは本当に思っているんだろうか。 「日本版NIH」を始めることも話題になっているようだね。外国の真似ばかりして,日本のサイエンスに将来があるとでも思っているんだろうか。議長は,あの広大なキャンパスで,膨大な数の高いレベルの研究が行われているのを,全くご存じないんじゃありませんかね。 4月14日の安倍首相動静は,新聞の「首相動静」によると,次のようになっているよ。つまり,40分程度,総合科学技術会議に出席していたようだね。 5時37分,総合科学技術会議。6時20分,稲田行政改革相。38分,東京・赤坂のANAインターコンチネンタルホテル東京。宴会場「プロミネンス」で,自民党麻生派のパーティーに出席し,あいさつ。7時5分,公邸。菅,加藤,世耕,杉田正副官房長官らと会食。 この日の安倍議長について,新聞は次のように報道しているよ。 【研究論文の問題が相次いでいることを受け,安倍晋三首相は14日に開かれた総合科学技術会議で,不正の予防や事後の対応策について検討するよう指示した。 安倍首相は「研究不正の頻発は研究開発力の基盤をむしばむもので大変遺憾。個別事案への対応だけでは不十分」と指摘した。同会議は,研究現場の実態を調べ,不正が起こる背景や,防止に向けて各省庁や学界の役割などを検討する。】
by yojiarata
| 2014-04-17 22:20
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