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ポリウォーター  アイス・ナイン  STAP細胞



ご隠居さん 何だか真面目なことをしゃべりだしそうな表情だね。

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理研の割烹着のお姉さまが火元になった火事が,世界中に飛び火して収まらないでしょう。この件は,あっちでも,こっちでも取り上げられているから,書くのは止そうと思ったんだけど,何となく気になるので,少し別の角度から書くことにしたんだ。良かったら読んでちょうだい。


君は覚えているかどうか知らないけれど,池田亀鑑の平安朝文学を書いていた時,丁度,あの事件が起こったんだ。それで,何だか不吉な予感がしたので,そのブログの終わりに,次の文章を付け加えておいたよ。君は読んだかい。

この頃は,自然科学の世界でも,とくに若い連中がタレントのように走り回っているね。

商売になりそうだとなると,マスコミが待ってましたと騒ぎ立てるから,

本人もその気になって,調子に乗って,有ること,無いことを喋りまくるんだ。

池田亀鑑のような,静かな学者を大事にしない国は,

いくらお金があっても,滅びるよ。


2014年2月11日記






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すぐ前のブログで,カート・ヴォネガット「猫のゆりかご」 (1968)について書いたの覚えているでしょう。

原子爆弾の開発を目指すマンハッタン計画に関わった,ノーベル賞受賞者のフランシス・ハニカーと彼の3人の子供たちの物語だよ。ハニカーは密かに,恐ろしい アイス・ナイン を作り,子供たちに分け与えるんだ。

広島に投下された原子爆弾について," The Day the World Ended " と題する本を出版するための取材をしている ” 私” が,狂言回しとなって,物語が進行するんだ。

「猫のゆりかご」が出版されてから 8年後に,ロシアのデリャーギンが,後に ポリウォーター とよばれることになる特別な「水」を発見したと発表し,世界中の科学者を驚かせたんだ。

デリャーギンなる人物は,自分を宣伝して売り込むことに熱心だったようだね。イギリスの重鎮,バナールと交わした会話などが,すぐ後で紹介する Felix Franks "Polywater" に再現されているよ。割烹着のお姉さまも似たような傾向があるんじゃないの。

ポリウォーターの信憑性を巡っては,多くの研究者を巻き込んで,さまざまの議論が交わされたんだ。最初のうちは,高名な化学者,物理学者が,踊りを踊って,次々に肯定的なコメントを発表したんだけれど,その後,様々な実験が積み重ねられ,ポリウォーターは,ガラスの容器から溶け出した微量の混入物質(シリケート)を含む” ただの水" だということが実証されたんだ。つまり,世の評判を得ることが先行し,科学するために求められる こころ を忘れたんだね。


”ポリウォーター事件” の 一部始終については,2011年5月のブログ ポリウォーター伝説 I - V に詳しく書いておいたから,この際,ぜひ読み返してほしいよ。

ともあれ,発表から数年の後,ポリウォーターはこの世から消えました。世界中の研究者が発表した約500編余りの論文が後に残ったよ。

Felix Franks の " Polywater " は,ポリウォーターに関するまとまった著作としては,世界で唯一のもので,内容も素晴らしいんだ。大学関係の図書館にもあまり置いてないよ。私は捜索の過程で,大阪大学蛋白研に所蔵されていることを知り,高木敏夫教授(当時)にお願いして,コ ピーを取らせていただきました。

その後は,ネットで,2冊(ハード・カバー版 と ペ-パ-・バックス版)を入手し,今は,私の最重要図書に分類して大事に使っているよ。

ポリウォーター  アイス・ナイン  STAP細胞_a0181566_156266.jpg

(The MIT Press, Second Printing, 1982)



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”STAP 細胞事件” に関連した事柄が,山のように報道されているでしょう。そして,これらの記事を読めば読むほど,50年以上も前に世界を騒がせた ” ポリウォーター事件 ” の顛末とあまりにもよく似ていることが気になって,改めて,Felix Franks の著書を精読したんだ。

私は,細胞生物学の完全な門外漢だから,” STAP細胞事件 ” の全貌の解明は,理研の研究者や,外部の中立な研究者に任すしかないけれど,研究の経緯,その成果の発表の仕方など,” ポリウォーター事件” とそっくりだね。

Felix Franks は,その著書のPrologue に,「猫のゆりかご」の 22 MEMBER OF THE YELLOW PRESS の冒頭部分を2ページにわたって引用しているんだ。読んでほしいよ。さすがは,Felix Franks だね。


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” 私” と,原子爆弾の開発に関わったノーベル賞受賞者のフェリックス・ハニカーが研究していた研究所の副所長との対話を以下に再現するよ。アイス・ナインを作ったのはハニカーだよ。不治の病に侵されていたハニカーは,それを使って自死するんだ。

対話は,” 私” の質問

"There is such stuff?" I asked.

で始まるよ。この後,水を 「とけない氷」に固めてしまう ” アイス・ナイン ” なんてものが,本当にこの世に存在するのかについての問答が始まるんだ。

著者ヴォネガットの真意を,よりよく理解してほしいので,原文の英語のままで引用するけど,じっくりと,腰を落ち着けて読んでちょうだい。

"And suppose that there were one form, which we will call ice-nine, a crystal as hard as this desk - with a melting point of 130 ºF And suppose that one Marine had with him a tiny capsule containing a seed of ice-nine, a new way for the atoms of water to stack and lock, to freeze. If that Marine threw that seed into the nearest puddle ・・・・・ ?"

"The puddle would freeze?" I guessed.

"And all the much around the puddle?"

"It would freeze?"

"And all the puddles in the frozen muck?"

"They would freeze?"

"You bet they would, and the United States Marines would rise from the swamp and march on."

"There is such stuff?"

"No, no, no, no ・・・・・ if you'd been listening to what I have been trying to tell you about pure research men, you wouldn't ask such a quetion. Pure research men work on what fascinates them, not on what fascinates other people"


副所長さんは,アイス・ナインなど存在するものかと,怒るんだけど,実際は,ハニカーの3人の子供が密かにもっていたアイス・ナインによって世界が消滅するんだ。だけど,科学する者の こころ を説く彼氏(言い換えれば,カート・ヴォネガット)のコメントは鋭く,正鵠を射ていると言わざるを得ないね。


何度も言うようだけど,ポリウォーター事件の教訓は,本当に重いよね。




ひとまずおわり







































































by yojiarata | 2014-03-23 22:24
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