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胎児のお腹は 何故 ポコンと飛び出しているのか



ご隠居さん 今日は一体何が始まるの。

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怒ってばかりいると,老体に悪いのでね。話題を変えたんだよ。

妊娠初期のお母さんの子宮体部に寝転がっている胎児のお腹は,ポコンと飛び出しているよ。絵か写真で見たことあるでしょう。今から,何故飛び出しているかを説明するよ。ひとのからだの生物学と密接に関係しているからね。


白血病 と 肝臓


白血病の患者の全身の骨髄は,頭蓋骨から手の骨,背骨に至るまで,全部が悪性化した白血球細胞で占められて,赤血球が生まれる物理的スペースがなくなるんだ。人が生きていくためには,酸素をからだ全体に送り届ける赤血球がなくてはならないよ。理科の授業で教わったよね。その赤血球は,主に骨髄で作られるのです。

赤血球がなくなると生きていけないから,人は最後の手段として,肝臓を動員して赤血球を作り始めるんだ。進行した白血病患者の肝臓から,通常であれば造血組織の中にしかないはずの,核を持つ赤血球が見付かるのでそれとわかるよ。

何故,肝臓が赤血球を作り始めるのかって?

その疑問に答えるために,母親の子宮体部で育っている妊娠初期の胎児の話をします。妊娠2ヶ月目の胎児を念頭に置いて描いた図を見てください。

胎児のお腹は 何故 ポコンと飛び出しているのか_a0181566_1544814.jpg

青木幹雄・画 (2009)


この時期の胎児のお腹は,ポコンと大きく飛び出しています。妊娠2カ月では,胎児の体長は 1センチ くらいです。その頃から,胎児の体内には,すでに血液があります。

血液細胞は主に背骨の中の骨髄で作られると書いたけど,この段階の胎児には,まだ背骨が出来ていないため,胎児は肝臓で血液細胞を作ることになるんだ。胎児のお腹が飛び出しているのは,この目的を達するために特別に用意された巨大な肝臓のせいなのです。

成人になっても,肝臓は人体ナンバーワンの大きさを誇ります。学生の頃,司法解剖の現場に立ち会って,最初に驚いたのは肝臓の巨大さです。

君は,巨大な肝臓があれば骨髄の肩代わりを充分に果たすことができるのではないかと思うかもしれないけれど,ものごと,そんなに単純じゃないんだ。肝臓は人間が生きていくうえで欠くことのできない数々の重要な仕事を受け持っています。従って,肝臓細胞は全軍を動員する血液細胞の製造工場になることなど許されないのです。つまり,肝臓には血液細胞の供給などのアルバイトをする余裕なんかないんだよ。

これで,妊娠初期の胎児のお腹がポコンと飛び出しているわけがわかったでしょう。


子宮体がん と 胎児


余談だけど,付け加えておきたいことがあります。

子宮体部ががんになると,胎児はひどく居心地が悪くなるんだ。がんでゴワゴワになった,いわば,筵の上に寝かされている状態になるからね。


私の60年来の友人・青木幹雄君との長年の交流によって,がんについて,多くのことを学びました。青木君は吉田富三門下の病理学者です。このブログに載せた胎児のイラストも,同君の作品です。これらの経験をもとにして,荒田洋治 『がんとがん医療に関する23話』 (薬事日報社,2009)を執筆しました。病理学者とは異なる目線で,がんを考えてみたかったのです。執筆の時,つねに私の頭にあったのは,青木君との60年に亘る会話です。



おしまい
by yojiarata | 2014-02-15 20:50
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