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iPS 細胞を初めて人に使う臨床研究  中内啓光教授に訊く



7月19日の朝日新聞夕刊に次の記事が掲載されている。

「iPS 細胞を初めて使う臨床研究について,田村憲久厚生労働相は,19日,計画を正式に了承した。 ・・・・・

臨床研究の対象は,目の難病の加齢黄斑変性。 ・・・・・

最初の移植は,来夏以後になる見通しだ。」


***


この記事について,現在,この分野の第一線で活躍しておられる中内啓光教授(東京大学医科学研究所・ 
幹細胞治療研究センター・幹細胞治療分野)に質問させていただくことにしました。


質問1

荒田     

この病気を最初に取り上げる理由は何でしょうか。


中内

いろいろな理由があると思います。

前臨床研究(動物実験等)が進んでいること。

安全性が比較的確保しやすい少ない細胞数で治療できること。

眼底は外から見ることができるので,悪性変化しても早期に診断して最悪の場合摘出できること。

ちょっと政治的ですが,神戸には多くのライフサイエンス関係に国費をつぎ込んでいるので,どうしても成果を出す必要があること。


質問2

荒田

問題の網膜の”箇所”を,iPS 細胞から作った組織と入れ替える場合,いくら同じだといっても,「完全に同じ」ということはあり得ないのではないでしょうか。

その場合,移植を受ける患者の免疫系が反撃にでて,ディザスターになる可能性ありませんか。

よく問題になる,発がんの心配は,どのようにして排除しようとしているのでしょうか。


中内

iPS細胞は患者の細胞から作成するので基本的に免疫反応は起きないはずです。

ただし,培養液中に入っている非自己物質(ほとんど無いはずですが)が細胞に付着したまま移植されて免疫系を刺激する可能性はあります。

マウスの研究でiPS細胞由来の細胞が拒絶されやすいという論文が出ましたが,この研究結果は最近の論文で否定されています。

最近はエピゾーマルベクターやセンダイウイルスなど,ゲノムに取り込まれない形でiPS細胞を作るので,当初のような癌遺伝子が活性化するといった問題はありません。

ただし未分化な iPS細胞 が移植細胞中に含まれていると奇形腫(teratoma)を発症する可能性はあります。

これについては前臨床試験で iPS細胞 から誘導した網膜細胞を超過剰量動物に移植しても腫瘍は作らなかったということになっています。

ただし,これは異種移植の系(免疫不全マウスにヒト iPS細胞 から誘導した網膜細胞を移植)なので、前述のように免疫系が発動されない自家移植の場合にはどうなるか,やってみないと判りません。


荒田

お忙しいところ,時間をとっていただきまして,有難うございました。
by yojiarata | 2013-07-22 19:33
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