何事によらず,最初が肝心だ。 筆者は,教師として,さまざまな形で対話をすることを長年経験してきた。その段階で,改善のための反省もあり,それに基ずく努力を重ねてきた。その経験を基に,中学生,高校生のみならず,広く一般の人々にも参考になると考え 荒田洋治『自分をつたえる』(岩波ジュニア新書,2002) を執筆した。 この本の 【Ⅲ いかに話すか 4 演説にのぞむ(55-62ページ)】 に,今回のテーマである対話の作法に関して,次の諸点を中心に筆者の考えをまとめた。
演説の論旨を頭のなかで十分に整理し,大事な言葉をゆっくり,はっきり,強調して発音することがまず何より大切である。 演説の筋道が頭のなかで十分に整理できていないときには,気ばかりが焦って,次の言葉が出てくるのを待てず,無意識のうちに, が連発されることになる。これでは,聴き手が演説に惹きこまれることなどない。 その典型的な例を最近耳にした。参議院予算委員会での総理大臣と国会議員とのやり取りの半分は,♪ エー ♪, ♪ アノー ♪, ♪ ソノー ♪ で占められていた。国民を代表とするこれらの人々の対話に接し,余りの可笑しさ,恥ずかしさに,情けなくなった。 原稿を完璧に作り,それを再現する(読む)ことが完璧な演説になると考えておられないだろうか。答えがノーであることは,国会の場で見聞する通りである。 我々が生業とする学会講演でも同じである。完璧な原稿を作って,それを完璧に講演で再現しようとしている人がいる。これでは,面白くも,可笑しくもない。その理由を以下に述べる。 話が突然,語りのプロである噺家に話題を移す。 八代目桂文楽さんは,”完璧な原稿タイプの噺家” だったのではないだろうか。このタイプの人は,いったん途中で言葉に詰まると,大変なことになる。線路が途切れれば,次につながらなくなるからである。実際,文楽さんは,もう一度勉強しなおして,出直しますと深々を頭を下げ,そのまま引退してしまった。 対照的なのは,五代目古今亭志ん生さんだ。志ん生さんの場合には,ストーリーの大筋が頭に入ってはいるが,その入り方が文楽さんとまるで違う。志ん生さんの場合には,キーワードが断片としいて頭の中にある”棚”に入っていて,文字通り,瞬間瞬間の会場の雰囲気,自分の気持ちに応じて,それをつないでいる。このため,つなぎ間違えなどが頻繁に起きますが,志ん生さんは悠然と,別の棚から別の言葉を取り出して噺を続ける。したがって,登場人物の名前をとってみても,安三郎であったり安次郎であったり,目茶目茶であるが,これでストーリーが崩壊することはない。むしろ,巧まざるユーモアとなって,噺を盛り上げる。 極論すれば,学会講演も同じである。もちろん学会では,事実は100%正確であるべきことは言うまでもないのであるが,たとえば,最初の1分の勝負の折に,噺家の場合のように,”まくら”をいれて場の雰囲気をつくって本題に入ることがあってもよいのではないだろうか。 オリンピックの招致委員会の出来事も,恥ずかしいの一語だった。
1番バッターの総理大臣が発した,歌とも,掛け声ともつかぬ奇妙きてれつな大声も,滑稽の一語だった。ご本人は,よくやったと思っておられるのではないかとの印象をもった。もしかしたら,ご自分は,上質のジョークだと考えた上で実行に移されたのかもしれない。要するに,センスの問題である。 ジョークと言えば,アメリカ第40代大統領ロナルド・レーガン(共和党選出)は,暗殺未遂事件の後,緊急手術の場にのぞみ,手術室に入ってきた医師団に, よろしく頼む,ところで,諸君は全員,共和党員だろうね。 筆者の個人的な感想を言わせていただけるなら,この招致委員会での日本側の代表によるプレゼンテーションは,成功だったとは言えない。 2018年冬季オリンピックの開催地が韓国に決定した折,たまたま聴いたキム・ヨナさんの素晴らしい英語の演説には全く感心した。福原愛さんは,中国語がネイティブ並みで,それゆえ,中国で多くのファンをもっていると聞く。ここで強調しておきたいのは,単に語学力を問題にしているのではない。 対話には,個々の人に特徴的な面白さが必須の条件である。オバマ大統領と会談した安倍総理を見ていて感じるのは,オトナとして対等に相手にされていないのではないかという危惧である。 このような地盤を固めることが,日本が今後オトナとして国際舞台で対話するために必須ではないだろうか。
by yojiarata
| 2013-03-08 13:26
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