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五代目古今亭志ん生さんにおける「間」の研究



これまで,ラジオ,レコード,CD などを通じて,長年落語に親しんできた。上野,新宿,人形町の寄席にも通ったが,落ち着いて噺を聴くには,自分の部屋が最も適していた。

名人といわれる多くの噺家を聴いたが,筆者にとって圧倒的に素晴らしいのは,五代目古今亭志ん生さん(1890-1973)である。一言でいえば,何とも言えない独特の噺ぶりは,他のどの噺家にもないものである。例えば,高座でことばに詰まり,もう一度勉強して出直しますといってそのまま引退してしまった八代目桂文楽さん(1892-1971)とはまるで違う。登場人物の名前ひとつとっても,安二郎だったり,安三郎だったり,安三だったり,悪く言えば,目茶目茶である。しかしそんなことを全く気にする気配もなく,噺を続ける。聴いている筆者も全く気にならない。

志ん生さんには,独特の間がある。筆者を引き付けるのは,この「間」である。

***

筆者は,中学生の頃,徳川夢声さん(1894-1971)が出演されるラジオ番組(『話の泉』,『トンチ教室』など)を熱心に聴いていた。他には,吉川英治の宮本武蔵を朗読する名人だ,くらいのことしか知らなかった。

その後,この「名人」が本を書かれていることを知った。

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徳川夢声『話術』(白揚社,1978,第3版第18刷)


さっそく読んでみた。教職にあり,講義,学会講演,セミナーなど,人前で話をすることを生業とする自分にとって,「名人」の著書は大変興味深いものだった。

「第二編 話の根本条件」で,縷々述べた後,「名人」は次のように書いておられる(46-47ページ)。

以上の分類を図にして見ますと,次の頁のようになります。

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そのあと,それぞれの項目について,語るのであるが,これが面白い。さすが「名人」! 薀蓄を傾けて,熱烈に語る。『話術』は現在も白揚社から入手できるようである。

ここで,名人が「間」について語る部分を引用してみよう。( 39-43 ページ )

ハナシ、、、というものは,喋るものですが,
そのハナシ、、、の中に,喋らない部分がある。

これを「間」という。

こいつが実は何よりも大切なもので,

食物に例えていうと,ヴィタミンみたいなものでしょうが,
直接,ハナシ、、、のカロリーにはならないまでも,

このヴィタミンM が欠けては,栄養失調になります。


・・・・・


ですから,ハナシ、、、をする場合,コトバ、、、だけの研究では足りません。

そのコトバにもたせる「マ」の研究,

話している間の表情動作すべてにわたるバランスの研究,

そこまで行かないと満点とはいえません。

では,その研究はどうするんだ?

答えは平凡です。

沢山の経験をつむこと,絶えずその心構えでいること,これです。

「何か”マ”の簡単に分る虎の巻は無いのかい?」

だってそんなものはありませんよ。
何しろカン、、の問題ですからネ。

(文章は原文のまま,赤字は筆者による)


今は亡き「名人」に

”お言葉を返すようですが,一つだけ付け加えさせてください”

と言上したいことがある。それは,「間」をとるには,「名人」のおっしゃる ”沢山の経験をつむこと,絶えずその心構えでいること” に加えて,天性の才能が必要だということである。志ん生さんはまさにこれに該当する。

***

筆者はかねがね,志ん生さんの喋りを音声解析してみたいと考えていた。この度,40年来のエレクトロニックスの師匠・功刀正行博士にお願いして,それが実現した。出囃子の後の120秒間,音声の強度を記録したデータを見ていただきたい。比較のため,圓生さんの音声解析の結果を並べて示す。題材は,いずれも『牡丹燈籠』の冒頭部分である。

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五代目古今亭志ん生(古今亭志ん生名演集 22,牡丹燈籠,PONYCANYON,1994)




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六代目三遊亭圓生(圓生百席 46 牡丹燈籠 一,お露と新三郎,Sony Records,1998)


大方の噺家の場合には,圓生さんタイプの波形となる。志ん生さんの波形を見ると,その噺ぶりが目に浮かんでくるではないか!


ご多忙の折,時間を割いていただきました功刀(くぬぎ)正行博士に感謝します。

功刀正行
東京理科大学 野田校舎
環境安全センター
放射線管理部門長
by yojiarata | 2013-01-21 20:43
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