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ケプラーと雪の六角形



滅多に雪の降らない東京でも雪が降った。道路にはまだ雪が残っている。

20年近くも前のことであるが,アメリカのコロラド州デンバーで学会があり,参加した。1月だったと記憶している。

長い間雪に閉ざされて生活しているいるヨーロッパ諸国の人々は,古くから雪の粒(今でいえば結晶)の形に深い興味をもっていた。ヨーロッパで最古とされるのは次の絵である。

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ウプサラ(スエーデン)の大僧正・マグヌスの雪(1550年代)


続いて,残っているのがデカルトによるものである(そうです,あのデカルトです)

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デカルトの雪(1637年)


化学の世界では,最密充填という概念がある。原子,分子が並んで結晶を作るとき,特別な場合を除くと分子が可能な限り密に並ぶ。この点を世界で最初に言及したのは天文学の分野で後世にその名を残したケプラー(1571-1630)である。

ケプラーは,雪の結晶がなぜ六角形になるかについて考えに考えた末,次のように書いている。

もし雪が降りはじめるときにはいつでもその雪の元素がつねに六角形の星形を示すのならば,
そこには一定の原因があるはずです。
もしこれが偶然に生じるのなら,なぜ五角形や七角形でないのでしょう。
なぜいつも六角形であり,少なくとも不規則な衝突によってごちゃごちゃになったりひどく丸まったりせず,
ひとつひとつ分かれてはっきりした形をしているのでしょう。

・・・・・ 

六つずつから成ることのはじまりはいったい何でしょうか。
頭を,それが落ちる前に六個の凍った枝角状に形づくったのはいったい誰でしょうか。

・・・・・

このようにして心に浮かぶすべてのものを調べてみて私が感じますのは,雪における六角形の原因は,
植物における秩序ある形および数の一定性の原因とまさに同じものである,ということです。
これらにおいては最高理性なくしては何も生じません。

最高理性とは推論の展開によっては決して明らかにならず,もともと造物主の意図のなかに存在していたもので,
さらにそのはじまりから今日にいたるまで諸生物のおどろくべき本性を通じて保たれているものです。
ところが雪においてはこの秩序正しい形が偶然に存在するのだ,
などとは私にはどうしても思えません。

・・・・・
 

ケプラーは悩み苦しんだ末に,現代の化学者がいうところの最密充填のアイディアに考えに至り,それをスケッチに描いている。

宝石を扱う人々は,
このうえなく洗練された形相の天然の正八面体がダイアモンドにおいて見られる,と言っています。
もしそうならそれは私たちをよく納得させます。

つまり霊魂の能力が地中ではダイアモンドに自分の本性のもっとも内部の奥底から正八面体の形を生じさせたのであり,
その同じものが蒸発気とともに地から発散するときには,同じ形を蒸発気からなるあの雪に生じさせたのであります。

・・・・・


結局,雪の結晶が何故六角形になるのかについては,

わからない,
神の思し召しであるにちがいない


と結論している。

例えば,東京で雪の塊を虫眼鏡で見ると,ぐしゃぐしゃの雪の塊である。大気の気温が高いからである。筆者は,あのとき,デンバーのホテルの窓を開けて黒い布の上に雪を載せて,用意していた虫眼鏡でのぞいて見た。そこには,実に見事な雪の結晶があった。

ともあれ,天才というのは,ケプラーのような人のことをいうのではないでしょうか。


***


なお,本稿の執筆に当たっては,下記の文献を参照した。

1) Johann Kepler:A NEW YEAR’ S GIFT or On the Six-Cornered Snowflake (Godfrey Tampach, 1611; Oxford University Press, 1966)。原著はラテン語で書かれているが,出版に当たっては,英語訳が付け加えられている。なお,日本語訳は榎本恵美子訳『新年の贈り物あるいは六角形の雪について』(知の考古学11号,276-296,1977)として発表されている。

2) Duncan C. Blanchard: The Snowflake Man A Biography of Wilson A. Bentley (The McDonald & Woodward Publishing Company, 1998)

3) ヨハネス・ケプラー『ケプラーの夢』 (渡辺正雄,榎本恵美子=訳,講談社学術文庫,1995,第7刷)

4) 小林禎作 『雪の結晶 自然の芸術をさぐる』 (講談社ブルーバックスB-163,1970)

5) 小林禎作 『雪に魅せられた人びと 』 (築地書館,1982,二刷)

6) 中谷宇吉郎 『雪』 (岩波文庫)

7) 荒田洋治 『水の書』 (共立出版,1998,213-216ページ)
by yojiarata | 2013-01-18 23:55
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