新聞記事に毎日驚かされる今日この頃である。 1月11日の朝日新聞(朝刊)の第1面に次の記事が掲載されている。
教育再生実行会議のメンバーの名簿に続いて,この会議で取り上げる点が列挙されている。
そして最後に,恐ろしいことが書いてある。
どれ一つをとっても,意見のない人はないのではないか。ただ,その場で感想を述べて終わる筋書きになっている。 以上のように書き始めたのには理由がある。 昭和49年(1974年),大学入試共通第一次学力試験(共通一次試験;大学入試センター試験の前身)について,大学でも話題になり始めていた。文部省(当時)から意見を求められた全国の各国立大学では,一斉に学内委員会を設置して検討に入った。 幸か不幸か,筆者は学内の委員のひとりに選ばれ,昭和49年11月-昭和52年7月(週一回),午後6時から2-4時間にわたる会議に出席する羽目になった。2年足らずの間に,50回を超える会議に連続して出席したのは,後にも先にもこの委員会だけである。 これは何も大学内に限ったことではないのであるが,“入試” となると,人々の眼は急に輝きだす傾向がある。この会は,教育の専門家である教育学部長が委員長を務めていたこともあり,議論が沸騰した。沸騰はよいのであるが,9時近くまで,飲まず食わずには,胃のほうが沸騰して閉口した。幕の内弁当が部屋の隅に積み上げられていたからなおさらである。何回目かの会の折り,医学部長が次のように発言してこの問題は解決した。 【医学的に申しますと,血中の糖分の低下と共に,頭が良く回転しなくなる傾向になると言われています。】 のちに知ったのであるが,共通一次試験の実施は文部省レベルでは,各大学からの委員会の取り纏めの結果を待つまでもなく,すでに大筋が決まっていたようである。共通一次試験は,昭和54年(1979年)に始まり,平成元年(1989年)まで続いた。そのあと,平成2年(1990年)より「大学入試センター試験」となって現在に至っている。 全国の大学で,膨大な時間とエネルギーを浪費した共通一次試験に関する大議論は,後で思えば,官僚によるデータ集めのためのセレモニーだった。暗闇に蠢く官僚の姿を,はるか彼方にボンヤリと意識した最初の経験でもあった。 特段のご意見 1)新しい大学,短期大学,大学院大学を新設,2)既存の大学の新しい学部,大学院等の設置にあたっては,文部科学省に申請書を提出する。文部科学省では,同省に設けられた「大学設置・学校法人審議会・大学設置分科会」において審査が行われる。大学設置分科会については,文部科学省の関連のウェブサイトに次のように記されている。 大学設置分科会における一般的な審査スケジュールは,1)の場合には,5月または7月の審査会で特段の意見がなければ早期認可を行う。2)の場合には,7月の審査会で特段の意見がなければ早期認可を行う。 (下線は筆者による) 平成4年(1992年)8月,文部省(当時)から大学設置・学校法人審議会専門委員(大学設置分科会)を委嘱された。委員会には,何人かの若手官僚が出席し,年長さんと見られる一人の官僚が議事進行にあたった。会は退屈きわまるものであり,どちらかというと辛抱強さに欠ける筆者はいらいらしながら座っていた。要するに,各委員の前に並べられた分厚い資料を棒読みしているだけであった。 長時間をかけて朗読した後,進行役の官僚が次のように宣った。 【ご出席の委員の先生方,いかがでございますか。・・・(寂として声なし)・・・ “特段のご意見”がございませんようでしたら,本日の議案はご了承いただいたものとして,これで散会とさせていただきたく存じます。】 この馬鹿丁寧な言葉使い,意味はわかるが,不気味な響きのある“特段のご意見”なる官僚言葉を耳にして,遂に堪忍袋の緒が切れた。 【あなたたちは,こんな下らないことで忙しい我々を集めたのか? 今日のような委員会なら,資料を郵送すればすむじゃないか。第一,このまま議案が認められないことになったら,困るのはそちらでしょ。】 会議室は一瞬奇妙な沈黙に包まれた。おそらく官僚にとっては,こんな短気な委員にぶつかったことなど,それまでに経験がなかったのではあるまいか。官僚は,筆者に向かって意味不明のことを大声でワーワー叫びながら,そのまま散会となった。 帰りの道すがら,顔見知りの先輩の委員が, 【寅さんじゃないけど,あんた,それ言っちゃ御仕舞よ。】 と,怒りの収まらない筆者に,慰めるような,諫めるような言葉をかけた。先輩は官僚との付き合いのプロであった。 通例では,この委員会の委員の委嘱は2年間ということであるが,次の平成5年に霞ヶ関から委員委嘱の1年延長の依頼が届くことはなかった。筆者にとっては,官僚が取り仕切る会議に出席したのは,後にも先にもこの時だけである。 今にして思えば,「大学入試共通第一次学力試験共通入試」に関する 2年間 50回にわたる委員会も,「大学設置・学校法人審議会・大学設置分科会」も,文部省(当時)のなかでは,最初から決まっている了解済みの議論であった。 20年近くも前のあまり愉快でない経験が,日本の科学行政のシステムの精査に筆者の頭を向けさせる切っ掛けとなった。 教育再生実行会議に話を戻す。 メンバーの顔触れの選択の基準は何であろうか。議題は,大げさに言えば,国家10年の計の議論である。そこで,新聞が報じる安倍色というのはなんであろうか。 もう一度,15人を顔ぶれを見直す。どっしりとした,中立的な意見を胸を張って堂々と述べる人物はいるのだろうか。地位はあるが,年齢も高い委員諸氏が,単なる思い付きではなく,国家百年の計を責任をもって論じられるかどうか,筆者には甚だ疑問である。 結局,官僚が用意した筋書き通りの結論が出されることを怖れる。 新聞の記事によると,文部科学大臣は,「通常国会で『いじめ防止対策基本法』 をつくりたい」と意欲を示しており,2月中にも中間報告をまとめる考えだ。教育委員会改革については,4月をめどにとりまとめるという。
by yojiarata
| 2013-01-15 11:15
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