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大利根月夜の田中裕子




12月12日のラジオ深夜便で,作曲家・長津義司(1904-1986)の特集番組を聴いた。藤田まさと作詞,長津義司作曲の『大利根月夜』(1939)は,無名の新人・田端義夫の大ヒット曲となった。長津義司もこの曲によって,作曲家としての地位を確立することになった。

♪ あれを御覧と 指差す方(カタ)に
 利根の流れを ながれ月
 ・・・・・ ♪
(カタ)筆者注

田端義夫の歌声は,30年前に見た『天城越え』[松本清張原作(1959),三村晴彦監督作品(1983)]の酌婦・大塚ハナ(田中裕子),16歳の少年,屈強な土工,その土工の殺人事件を追う刑事(渡瀬恒彦)のドラマに筆者を連れ戻した。動機のわからぬまま,誤認逮捕されたハナは病に倒れ,世を去る。

着物の裾を翻して飛ぶハナの笑顔,ハナと少年との会話,透き通るようなハナの『大利根月夜』の歌声。どれも忘れ難く美しかった。

田中裕子は,この映画によって,

第七回モントリオール国際映画祭最優秀女優賞
第二十八回アジア太平洋映画主演女優賞
毎日映画コンクール女優主演賞
ブルーリボン賞主演女優賞
キネマ旬報賞主演女優賞

などを受賞している。その田中裕子の言葉:

“それは監督のおかげです。執拗に追っかけてくれた結果だと思います。特別に印象深い顔でもないし,それほどの個性もない私を時間をかけて追って,ポロッと出てきたものをとらえてくれた。よくわからないけれど,そんな気がするの。だから監督が私のことを見つめてくれた時間には,とても感謝しています。”

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三村晴彦 『「天城越え」 と 加藤泰』 (北冬書房,2004)


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三村晴彦 『「天城越え」 と 加藤泰』 (北冬書房,2004)







by yojiarata | 2012-12-19 20:30
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