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iPS細胞と創薬



「がんワクチン 現状と将来」に続いて,平岡博士にうかがいます。

荒田

iPS細胞を創薬に使う場合,どのような問題があるのでしょうか?

平岡

私は現在直接タッチしていないので詳細は不明ですが,アイディア次第で多くの使い道があると思います。 まだ研究が始まったばかりなのでどこに問題があるか認識している研究者は少ないのではないでしょうか。

問題点よりはその利点をあげてみます。例えば京都大学ではiPS 細胞からシート状の心筋組織をつくり不整脈の状態にすることに成功し,これに不整脈治療薬を加えると異常が消えることが確認されたとの結果がでています。

薬物の代謝研究の後期には,人間の肝細胞が必須です。過去には倫理的と法律面で入手が困難でしたがこの問題はiPS 細胞で解決されます。

ただ自分の会社内でiPS細胞を作るかあるいは大学から分与を受けるかの判断が難しいと思います。大学でのiPS 細胞の培養法は日々進歩しているのが現状ですので総合的判断が必要でしょう。京都大学が基本特許を有していますのでこれに対する考慮も必要です。

荒田

製薬企業として,日本,外国の取り組みはどのようなものですか。

平岡

困った質問です。理由は大きな製薬企業では国内外とも皆取り組んでいますが,その内容はトップシックレットとなっているからです。私がある程度知っていると仮定したとしても現在公表することはできないでしょう。

荒田

やはり,外国の製薬企業が先行しているのでしょうか

平岡

一般論でいえば,大学レベルの研究では日本がまだ優位に立ち,実用化では欧米などが先行しているのが現状です。製薬企業での創薬面での利用については,日本と外国では現在同等と推察しています。これは,スタート地点にたったばかりのためです。

iPS 細胞バンクの設立では日本では京都大学iPS細胞研究所が主体となり立ち上げ寸前ですが,アメリカでは国立衛生研究所(NIH)が iPS バンク設立について民間会社と受託生産の契約が成立したばかりとの情報があります。フランスでは iPS から作る大量の血液を供給するため官民合同の計画が進行中とのことです。

荒田

iPS 細胞と病気の治療に,過度の期待がかかっているような気がするのですが,実際はどうなのでしょうか。異物が体内に入るのですから,人間に備わっている免疫系との関連はどうなのでしょうか。世間では過度の期待をしているように見えますが。

平岡

私は過度の期待とは思っていません。iPS 細胞の今後の人類への貢献は多大と推察されます。山中教授はノーベル賞を2回 もらってもおかしくないぐらいだと私自身は評価しています。

ご質問の免疫系での拒絶反応については,山中教授は当然考慮してiPS細胞バンクを立ち上げ中です。人から人へ細胞を移植すれば血液中の白血球の型HLA(Human Leukocyte Antigen,ヒト白血球型抗原)の型の違いから拒絶反応が起こります。しかし拒絶反応が起こりにくい特殊なHLA のタイプを有する人が数百人から数万人に一人の割合で存在することが知られています。このような人から種々の細胞の供与を受け,それをもとにiPS細胞を作製しバンク化する予定となっているようです。山中教授はまず京大病院で過去にHLA 検査を受けた人から検討するほか,公募も考えておられるとのことです。

iPS細胞を患者本人の細胞から作ると,勿論拒絶反応はありませんが 数百万円 の費用と数か月の時間がかかるといわれています。しかし遠い将来ではこれを喜んで受け入れる患者と作製請負会社がでてくる可能性があります。これがほんとの “テーラーメイド治療” ではないでしょうか。

過度の期待といえば,人々が近いうちに iPS 細胞治療が受けられると思っているのだとすれば,それは誤りです。来年には目におこる加齢黄斑変性患者へのiPS 細胞治療のための治験申請が厚生労働省へ行われる予定となっていますが,実際に一般患者への使用は少なくとも 5-10 年先を考えなければなりません。


つづく

by yojiarata | 2012-12-14 20:30
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