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マイルス・デイビスのスペイン



超後期高齢者となり,歩行の時速が100メートル以下となった今,外国旅行など望むべくもないが,” もし今一度の訪問 ” が許されるならば,躊躇なく,”スペインへ” と答える。

学会で一度だけ,連れ合いともども,スペインを訪ねたことがある。


ホアキン・ロドリーゴ が 97歳で亡くなったことは,1999年7月7日付の新聞で知っていた。学会が開かれたのはその直後のことだった。
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ロドリーゴは3歳の時に失明しながら,『アランフェス協奏曲』 など数々のギター作品を発表し,世界中にその名を知られている。

学会はグラナダで開催され,会場の目の前には,道を隔てて,アルハンブラ宮殿があった。

キリスト教徒の攻勢のなか,グラナダ王国はイスラム教徒の最後の牙城であった。そのグラナダ王国も,1492年1月2日末,キリスト教徒の手に落ちた。


フィリップ・K・ヒッティ / 岩永博訳『アラブの歴史(下)』 (講談社学術文庫,1989,402ページ) には,次のように書かれている。

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スルタンは,・・・・・” 赤色の城 ” (アルハンブラ宮殿,筆者注) を後にし,華やかな従者の行列に取り巻かれて立ち去り,ふたたび帰らなかった。スルタンは馬上の人となるとき,首都に最後の一瞥を与えるために振向き,嘆息し,さめざめと涙を流した。・・・・・

かれが悲しみの中に別離の一瞥を投げた岩山の高地は,今日なお 「モーア人の最後に悲嘆」 の名で知られている。・・・・・


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筆者が訪れたときも,アルハンブラ宮殿はレンガ色のまま,グラナダ王国の頃の面影を今に留めている。特に夕暮れどき,レンガ色の姿が闇の中に浮かび上がる光景は忘れがたい。

筆者のCDコレクションの中に,Miles Davies: Sketches of Spain がある。Gil Evans が編曲,オーケストラの指揮を受け持った素晴らしい録音である。Gil Evans の演奏をバックに,Miles Davies の乾いたトランペットが冴えわたる。ほかにも,アンダルシア地方に伝わる4 曲の小編が録音されている。Miles Davies のトランペットは,15世紀まで栄えたイスラム文明を思い起こさせるあの暑くて乾いたグラナダの気候に実によくあう。

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アルハンブラ 宮殿を訪ねた折,Washington Irving による Tales of THE ALHAMBRA (EDICTIONES MIGUEL SÁNCHEZ, GRANADA, 1832 ) を買い求めた。著者がロシア生まれの友人と旅した記録である。

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小型で308 ページの 小冊であるこの作品は,全編が詩のような流れるような文体で書かれている。そして,結びに著者が書いた

THE AUTHOR'S FAREWELL TO GRANADA (301-302 ページ)は

次のように締めくくられる。

Towards sunset I came to where the road wound into the moundains and here I paused to take a last look at Granada. The hill on which I stood commanded a glorious view of the city, the Vega and the surroundig mountains.

.....

« I will hasten from this prospects» thought I, «before the sun is set, I will carry away a recollection of it clothed in all its beauty»
With these thoughts I pursued my way among the mountains. A little further and Granada, the Vega and Alhambra, were shut from my view and thus ended one of the pleasantest dreams of a life which the reader perhaps may think has been but too much made of dreams.

1832年に出版された Tales of THE ALHAMBRA が200年近くが経過した現在でも読者をえていることは,容易に想像できる。


筆者が愛するドン・キホーテを生んだスペインをもう一度訪ねたいものだ。
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サンチョ・パンザを引き連れて勇ましく “出撃” するドン・キホーテ。風車に突進して ポン と跳ね返されたときのドン・キホーテの言葉:

“総じて,いくさは何事よりも,一瞬の後を測りえぬものじゃ。・・・”
セルバンテス(永田寛定訳)『ドン・キホーテ 正編(一) 』(岩波文庫,第52刷,1993,179ページ)
by yojiarata | 2012-11-12 22:35
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