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メタンハイドレートの200年



ありとあらゆるエネルギー資源を求めて,世界中で広範な調査研究が行われている。たびたび報道されるメタンハイドレートもその一つである。例えば,今日の朝日新聞の朝刊・経済面に,

メタンハイドレートとは “メタンと水が結晶化した氷状の物質” である。

と書かれている。これでは何のことかわからない。ポイントは次の2点。

1)メタンは,気体になると体積が膨大になるため,運搬が困難になる。

2)メタンを狭い空間に閉じ込めることができれば,エネルギー源として実用化の可能性がある。

メタンハイドレートは,まさにこの条件を満たしている。深海の低温,高圧の条件で,水分子のかごの中にメタン分子がギュウギュウに詰め込まれるのである。

メタンハイドレートは,化学の世界では,200年も前から知られている “クラスレート” の仲間である。クラスレートとは,通常の化学結合をすることなく形成される化合物である。ラテン語のclathratus (かごに閉じ込める)にちなんで,clathrates (クラスレート)と命名された。

19世紀の初頭,イギリス化学界の重鎮・Humphry Davy は,当時は謎であった”塩素が作る黄色の美しい結晶” の実態を究めるよう,彼の実験助手であったMichael Faraday に命じた。13年が経過した1823年,ファラデーは,“塩素の結晶” は,実際には,塩素単体の結晶ではなく,塩素と水から成る複合体の結晶であると結論した。

それから100年以上が経過した1952年,ライナス・ポーリングは X線結晶解析によって,水分子が作る正12面体のかごの中に,塩素分子が取り込まれたクラスレートであることを明らかにした。

関集三先生(大阪大学名誉教授)はポーリングの自宅に招かれた際,居間に塩素ハイドレートの模型が天井からぶら下がっていたと話しておられた。

200年の歴史をもつクラスレートについては,例えば,拙書『水の書』(共立出版,第3章,水と化学,1998)を見ていただくと,壮大で美しい水と化学の世界が拡がっていることが理解できよう。

図 の上段,左に,メタンハイドレートの水分子のかごをかたちを示す。かごは,20個の水分子をそれぞれの頂点にもつ正12面体で,12個の正5角形から成り立っている。

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これまでに行われた実験の結果,このほかに,実にさまざまな低分子を取り込むハイドレートの存在が知られている。図には,正14面体,正15面体,正16面体が描かれている。いずれの場合も,正12面体のメタンハイドレートの場合と同様,正5角形の面から成る。これらのかごには,本来ならば水に馴染まない低分子化合物が取り込まれる。アルゴン,クリプトン,キセノン,酸素,窒素,臭素,二酸化炭素,硫化水素,炭化水素,エーテル,メルカプタン,ケトン,アルコール,アミン,ジオキサンなどである。

かごに取り込まれる”ゲスト分子”は大きすぎても,小さすぎてもいけない。炭化水素ならブタンが上限,ペンタンより大きいとハイドレートは形成されない。また,水素,ヘリウム,ネオンなどは小さすぎてかごに収まらない。かごから漏れてしまうのである。


エネルギー源としてのメタンハイドレート利用の可能性,その現状と将来,今後の問題点については,今日の新聞に詳しく書かれている。
by yojiarata | 2012-10-27 22:30
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