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美しき五月に



ディートリッヒ・フィッシャー-ディスカウが,5月18日,86歳で他界した。5月20日朝日新聞朝刊。音楽にはさして興味がない連れ合いも,筆者が若い頃から繰り返し聴いていたフィッシャー-ディスカウの名前はよく知っている。

ハイネの詩 にシューマンが曲をつけた『詩人の恋』 の 第1曲「美しき五月に」,

Im wunderschönen Monat Mai,
Als alle Knospen sprangen,
Da ist in meinem Herzen
Die Liebe aufgegangen.

ハイネ(Heinrich Heine: 1797-1856)とシューマン(Robert Schumann: 1810-1856)は,奇しくも,同年に没し,今年は没後150年にあたる。

ドイツ歌曲の伴奏に,シューマンのような境地を開いた作曲家は,後にも,先にもいないと思う。歌曲の伴奏は,刺身のつまのように考えられていたふしがある。『詩人の恋』の冒頭の静かで美しいメロディーに続いて歌われる「美しき五月に」,何曲かあとの「百合のうてなに」のそこはかとないピアノの響き。一度聴いたら忘れ難い。

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フィッシャー-ディスカウの活動の舞台は,オペラ,宗教曲など極めて広範にわたるが,筆者が集中的に聴いたのは,歌曲,それも,シューベルトとシューマンの曲である。

シューマンの曲では,さすらいの若者が遥かに故郷を思う「異郷にて」に始まる 『リーダークライス作品39』 も素晴らしい。

シューベルトの作品では,ウルヘルム・ミュラーの詞に曲をつけた『冬の旅』,ハイネの詩集「歌の本」による「アトラス」,「君の肖像」,「猟師の娘」,「街」,「海辺にて」,「影法師」(白鳥の歌の一部をなす)を繰り返し聴いた。

筆者の手元にある二枚組(エンジェル,1022,1023)は,『冬の旅』 (伴奏,ジェラルト・ムーア)と,マーラーの『さすらう若人の歌』 (フルトベングラー指揮)が組み合わせになっている。『さすらう若人の歌』 は,マーラーの交響曲第1番の主題が使われている心に残る曲である。

ほかにも,例えばフーゴー・ボルフ の 『イタリア歌曲集』は,余りの迫力に圧倒された。

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これまでに様々なジャンルの楽曲を聴いてきたが,そのすべての曲なかで,フィッシャー-ディスカウほど,繰り返し聞いた歌手はいない。十年以上前に入手した1948年の録音,戦争から帰国したばかりのフィッシャー-ディスカウは,20歳になったばかりのはずである。

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左 冬の旅 1948年1月19日 ベルリンで録音
右 白鳥の歌 1948年1月19-25日 ベルリンで録音


20年近くも前になるが,日独シンポジウムのためにドイツを訪れた。奇しくも,5月の素晴らしいドイツを堪能しつつ学会に参加した。

フィッシャー-ディスカウの「冬の旅」の生演奏を一度だけ聴いたことがある。1970年代の初頭。筆者の記憶が正しければ,吉田茂(元首相)がサンフランシスコ平和条約に調印したサンフランシスコの大ホールでの演奏会であった。よりこじんまりした会場で聴きたかったと感じたのを憶えている。
by yojiarata | 2012-05-22 20:33
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