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追いつめる



生島治郎(1933-2003)は,『追いつめる』 で 第57回 直木賞 (昭和42(1967)年上半期 )を 受賞した。友人を誤射した刑事が職を辞し,単身,巨大組織に立ち向かう,手に汗握るサスペンスミステリーの傑作である。

自然科学を専攻し,長年研究に専心した自分にとって,若い頃出合った『追いつめる』 はつねに頭のどこかにあったような気がする。

スッポンのように噛み付いて 「追いつめる」 友人が国内外にいる。30年も40年もかかって国際的な業績を跡に残す。


萩原恭男,杉田美登 『おくのほそ道の旅』 (岩波ジュニア新書,2002)。

芭蕉研究のl第一人者・萩原恭男が,『おくのほそ道』 行程表(同書 ⅵ-ⅹⅰ)を丹念に作り上げ,ゼミの学生を引き連れて,芭蕉が曾良とともに旅した156日間,五百余里の足取りを,文献と綿密に照らし合わせながら自ら体験する記録である。

元禄二年(1689)3月27日(陰暦,現在の暦では五月十六日),萩原の結論によれば,十一時頃「巳中刻」,出発に当たって

行春や鳥啼魚の目は泪

の句を残す。

荻原によると,芭蕉(当時,46歳)は一里(約キロ)を45分で踏破する脚力をもっていたという。


学生の頃から,勝俣銓吉郎 『新英和活用大辞典』 (研究社)を愛用している。英語の単語が,どのような組み合わせでどのように用いられるかの用例が集められた,ほかに類を見ない辞書である。勝俣によると,50年にわたって集めた結果であり,その意味では,この辞書は「作った辞書」ではなく,「出来た辞書」である。


永井荷風のファンは多い。その中には,永井教の信者といってよい人がいる。大野茂男(千葉大学名誉教授)もその一人である。大著『荷風日記研究』(笠間書院刊,1976,491ページ)を文部省の助成金を得て発刊。

荷風の日記(断腸亭日乗)には,多くの異本があるが,大野は自らの手で,それらを照合し,この本にまとめた。

・・・・・ 昭和三十四年六月以降今日に至るまで 「荷風研究」という機関誌を,年四回律儀に,しかも損得の計算を離れて,百数十名の読者に送り続けている種田氏の如きは,マニアの域も超えて,永井教の殉教者といえるだろう。

大野は,岩波書店版と中央公論社の日乗を校合し,また岩波版の日乗に現れた人名の索引を作成した私なども,他人から見たら救い難いマニアであろうと書いている。

断腸亭日乗の熱烈なファンである筆者には,追いつめていく大野の気持ちは手に取るようにわかる。筆者の書棚にも,中央公論社版 (現在では入手は事実上不可能) 以外の全ての異本が並んでいる。

昨日の朝刊で,永井永光氏が4月25日他界されたことを知った。永光氏は荷風の養子で,断腸亭日乗の原本の所有者である。
by yojiarata | 2012-05-04 18:16
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