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カナダ・トロントへの道 Ⅴ



第Ⅴ話 研究費を統括,配分する組織

荒田

最後に,大学組織や研究費を統括する国の組織,文部科学省の問題について,コメントいただけませんか。

伊倉

科学技術予算をいかに効率よく効果的に研究者に配分するかは大きな問題です。これはどの国でもそれぞれ抱えている課題でいろいろな方法が試されています。

ここでは,研究費予算のうち,競争的研究費についてのみ議論します。それ以外の,大学や学部の新設,研究所・研究センター新設などインフラ予算については国家レベルでの戦略的なプランに基ずくべきものであることだけを記して,議論しません。

研究者から出されるグラント申請書をいかに評価すべきかという問題は,研究者にとって一番興味深い問題です。日本における問題点は,ピアレビューの精神が欠けていること,「コンフリクト・オブ・インタラスト」の概念が審査員を引き受ける人たちに欠如していることが問題としてあります。このことは,私のブログ(カナダ・エクスプレス)で以前扱いましたので,興味のある方はそちら(カテゴリー:サイエンス)をご覧ください。要するに日本の場合,グラントを公正に公平に評価するシステムが不完全であるという問題です。さらに言うならば,文科省の官僚の個人的利得の道具として,科学者が利用されたり,研究費の運用が利用されたりする例が存在する事実があります。

これらの問題は,荒田先生が大変お詳しいので,できましたらこの後は先生の方から,説明を加えていただければ幸いです。

文科省レベルの問題点と大学レベルの問題点は,システムの問題です。すなわち,社会全体の問題であり,日本の文化の中で培われてきた「常識」とか「慣例」というようなものと密接に関連していますので,簡単に変えられるものではないかもしれません。もっと言うと,これは広い意味での「日本人の心」の問題です。個人ではなく全体としての日本人の考え方の問題です。これを変えるには時間がかかることでしょう。また,すべてを欧米化するというのもナンセンスだと私は考えています。日本人独特の素晴らしい思想や考え方は残して,しかも国際的に通用するシステムの構築が肝心です。正義,公正,平等の精神に基づいていて,しかも日本らしいシステム,そんなものができればいいなあと勝手に考えています。

荒田

私の方から付け加えるとしたら,かなりのエネルギーを投じて執筆した荒田洋治『日本の科学行政を問う 総合科学技術会議と官僚』(薬事日報社,2010)を読んでいただきたいと願っています。

熾烈な研究の競争の中で,寸刻を惜しんで仕事をしておられる伊倉さんに,伊倉さんの後に続く若手の研究者を鼓舞していただくために,無理にご協力をお願いしました。伊倉さんのご理解とご協力に心から感謝したいと思います。




by yojiarata | 2011-08-02 15:35
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