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カナダ・トロントへの道 Ⅳ


第Ⅳ話 日本のサイエンス,世界のサイエンス

荒田

日本のサイエンスは,世界的なレベルを念頭に置いて,今後どのように発展すべきかを,先達としての伊倉さんのコメントを是非うかがいたいのですが。

伊倉

答えるのが難しいご質問ですね。また私が先達とは思っていませんし,先生のように日本の科学界と精通しているわけでもないので,日本の科学が今後どう進むべきかを問われると,少々困ってしまいます。答えになるかどうかはわかりませんが,外から見たときの私見を述べさせていただきます。

まず,日本の科学が遅れているとか,世界的なレベルに達していないとは私は思いません。むしろ,分野によっては世界をリードしてきた研究も数多く出ています。今騒がれている肝細胞技術もその一つだと思います。

ただ何が欠けているか,何が足りないかと聞かれれば考えるところがあります。問題は何層にも及ぶので,ここでは大きな問題と思われるものだけを話します。

まず,研究者のレベルでは,前の質問でもお答えしたように,国際的な場所(国際会議とか様々なコンファレンス)で,日本人研究者が自由に自分の考えやアイデアを相手にわかるように説得力を持って話せるような時代が来なければなりません。北米やヨーロッパの研究者の輪の中に入って,活発な議論ができる日本人,さらにはアジア人が益々求められます。いい頭は持っていても,やはりコミュニケーションができなければ何にもなりません。若い人の中に,日本の学会で英語発表を敬遠する雰囲気があることを以前に聞きました。これでは先が思いやれます。こういう機会は自分を磨くいい経験と思って積極的に参加するような気概のある若者がもっと出てきてほしいと思います。若い人ばかりでなく,ポジションを持っている中高年の研究者の英語での学会発表があまりにもひどいことに嘆かざるをえません。中には何が言いたいのかまったくわからないような発表を耳にすることもあります。これでは他の国の研究者からバカにされます。以前私の知り合いのカナダの某大学のS教授が,日本人,中国人,韓国人などのアジア人研究者と話すとき,一番真意がわからないのが日本人だと言ったのを聞いたときは,私もさすがに落胆しました。これは研究者に限った問題ではないと思います。ビジネスの世界やおそらく芸術などの世界でも存在するのではないでしょうか?すなわち,初等,高等教育の問題としてとらえねばならにと思います。

次に大学レベルでの問題に触れます。日本の大学教授をしている多くの友人に聞くと,とにかく会議が多いと聞きます。また,事務的仕事が常に回ってきて,それに膨大な時間を割かれるとも聞きます。予算の運営方法についても様々な規制があり,それが研究促進の足かせになっているケースもあると聞きます。年度の予算は年度内にすべて償却しないとダメというようなきまりは,その典型でしょうね。こちらではグラントの期間(3年とか5年)の間で年度ごとの繰越し使いすぎは認められています。

大学の運営については様々な問題がると思います。新しい分野の研究者獲得のためのリクルートにおいても,時代錯誤的な運営方法がまだ行われていると聞きます。こんなことをしていて,世界の著名大学(たとえばHarvard,Sanford,Yaleなど)とどうやって競争できるのかと思います。大学研究者の評価についても,同じことが言えます。終身雇用が当然だった時代の悪影響を今も背負って,無駄にポジションが使われている大学は研究所があるのではないでしょうか?世界的マーケットの中での優秀な大学院生獲得に関しても,日本はまだまだ出遅れています。こういう様々な問題に対する対応を行わないでいると,いずれは日本のトップレベルの大学でも,中国や韓国の大学に世界ランキングで抜かれてしまうのではないでしょうか?


つづく

by yojiarata | 2011-08-02 15:40
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