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播磨の森にある大型放射光施設スプリング-8  Ⅴ


第Ⅴ話 性能,性能を決める因子,幾何学的な大きさ

荒田

実験装置の性能などについて,少し詳しくお話いただけませんか。

宮野

まず,光を出すときの電子のエネルギーと質です。光を作るときには,磁石の間を電子を通すわけですから,その磁石による実効磁場が電子を曲げる強さになります。磁石の強さと周期長,そして磁石と磁石の間隔であるギャップといわれる電子の通る隙間の大きさが性能を決めることになります。

装置の機械的精度が悪いと放射された光は乱れますので,光としての質も強度も落ちます。エネルギーが変ったり軌道が乱れると電子が壁に当たって電子が消滅しますので,リングを回る電子の寿命が短くなります。真空度も電子がぶつかるものをなくすために必要ですから性能を決める重要なファクターです。この結果,放射光は時間とともに弱くなって減衰します。つまり寿命があります。通常、12時間か24時間に一度電子ビームを入射して,運転を続けます。

放射光施設の光の性能は,ほぼこの3つのファクターで決まります。どんな電子を作って回すか,どんな磁石で光を作るか,どれだけ精度よく,高い真空度で,安定した運転ができるかです。その上に実験で使う光として加工する技術です。

ここで述べた放射光の性質という意味でいえば,SPring-8は問題なく世界一の装置です。世界一ということは,日本一です。それは,最高エネルギーにおいて,その輝度において,ビームの位置と時間変動に対する安定性においてです。これを支えている技術がいくつかあります。

荒田

具体的に説明して下さい。

宮野

(1)安定な電子を細く,かつ密度高く,エネルギーを8 GeVまで加速する加速器技術。

(2)様々なバンチモードとよばれる電子塊の並びと周り方を決める。

(3)30メートル長直線部を計画的にいれ、挿入光源として実際27メートルという長いアンジュレーターが入れられるなど,最後に設計した強みです。この長直線部のビームラインでは,XFELの試験研究を進められるほどのそろった光が作られています。

(4)蓄積リングを回っている電子密度が減っていかないように,正確に必要な電子を追加して運転するトップアップ運転とよばれる技術。そして,乱れた電子の塊をもう一度整形して安定化する技術と相まって,実験室のX線発生装置より安定な,24時間0.1%以内の安定性が達成されています。同時に,12時間ごとあるいは24時間ごとに実験が中断されていた電子入射のために放射光が止まることがない。
これだけの安定性があれば,タンパク質結晶構造解析のように長い時間データ測定が必要なときに,X線源の変化を考慮しなくてよいのです。

(5)挿入光源として世界一の真空封止アンジュレーターは,北村英男博士のお家芸で,これによって安定,かつ強力な光を,偏光の仕方や遠赤外光から堅いX線の短い波長まで自在に得ることができます。今回,レーザー発振に成功したXEFL SACLAの加速された電子がそろった光を作り出す真空アンジュレーターのギャップの狭さにより,ただでさえコンパクトな加速器からの電子ビームから,1オングストロームのレーザーを作ることができたのです。

(6)そして,BL32XUのマイクロフォーカスビームラインに使われているミラーは,ナノメーターレベルのシリコン結晶の表面の”でこぼこ”を原子1個レベルまで減らすことで達成したサブミクロンの大きさまで集光できるので,ビーム自体の安定性と相まって,非常に細く安定したX線のビームとして使うことができます。


つづく

by yojiarata | 2011-07-28 17:35
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