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播磨の森にある大型放射光施設スプリング-8  Ⅲ


第Ⅲ話 SPring-8はどのような造りになっているか



宮野

一昔前まで使われていたブラウン管の原理を思い出してください。SPring-8も原理は全く同じです。電子を作って蓄積リングに入射するために,熱電子銃,そして最初の加速をして1 GeVにする線形加速器,さらにシンクロトロンがあり,電子を8 GeVまで加速して蓄積リングに運びます。

SPring-8の名前の由来のところで説明しましたように,電子を蓄積リングとよばれるシンクロトロンリングに貯めます。磁石によって電子の軌道が円運動になるように曲げられます。こうして加速された高エネルギーの電子線が発する光が実験に使われます。

その光の出た先に,「ビームライン」とよばれる光を実験に使えるようにするための光学ハッチ,そしてその加工した光を実際に使う実験装置を入れた実験ハッチがあります。SPring-8全体では,全部で62本のビームラインを作ることができますが,現在建設中の4本を含めてすでに57本あります。

写真1

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荒田

何故,62本なのでしょうか。

宮野

出来るだけ沢山,かつ十分な実験スペースを取るという2律背反の妥協の結果ではないでしょうか。光は,シンクロトロンの偏向磁石からは接線方向にしか出ませんし,直線部は電子を曲げなければ,光は取り出せません。

写真2 放射光を造る

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ビームラインの数が62本の理由には,期待する電子ビームの品質と寿命さらに予算の制約のトレードオフの産物であるセルデザインの影響も大きいと 思います。ビームのエミッタンス(広がり)は,電子を曲げるベンドの数と蓄積エネルギーで決まります。また高エネルギーをどこまで使えるようにするかで決まる加速電圧と使える光 の量であるフラックスの基礎パラメータを左右する蓄積電流は,電子ビーム軌道の安定性となってセルデザインに影響を与えます。これらのトレードオフで,偏向電磁石2個(B1,B2)からなる2個ベンドのセルデザインと直線部の数が決まっていったのではないでしょうか?

実際の設計としては,多角形の辺の数の最適化は大変に複雑です。リングの大きさをそのままで,辺の数を増やすと,技術的な困難は,加速器から取り出すビームラインどうしが近づきすぎて,真空ポンプなどの機器が設置できなくなります。一方ビームの特性は多角形ほど良くなる傾向があります(放射光も光量子なので光放射で反作用を与えますが,放射の反発による電子ビームの発散が偏向角度が小さいと小さくできる)。エネルギーは必要以上に高いとよろしくない。偏向磁石から出る光量子のエネルギーが高くなり,エミッタンスが増大する。

実際のリングの大きさとエネルギーは,こうした科学・技術とは別次元の経済性,科学政策によって最終的に決定されます。

現状のSPring-8のデザインは,リングは,電磁石で曲げる部分と,直線から出来ています。多角形です。44角形です。細かく見れば一カ所2本の偏向磁石ベンディングマグネットB1/B2があり88角形になっています。放射光はこの曲げる偏向磁石の入った部分から1本,通常の連続光の放射光が出ます。この偏向光源は,汎用のビームとして,光のエネルギースペクトルが広いので,いろいろに使えます。

直線部分には,挿入光源としてアンジュレーターを置いています。アンジュレーターからは高強度のエネルギー幅の狭い準単色のX線が出ます。磁石の隙間であるギャップを変えることで,電子の感じる実効磁場が変えられ,これによってX線のエネルギーつまり波長変更が出来ます。特に強度と絞った光が必要な微小結晶タンパクの構造解析などに使えます。ですから,現在のSPring-8の蓄積リングでは,原理的には最大88本のビームラインが設置可能ですが,少なくとも加速器として電子入射や,加速空洞が必要なので,これよりは少なくなります。そして,現状としては,実際に設置可能なビームラインとして62本ととして決めているということになります。

回折限界光源を目指した将来のSPring-8セルデザインを考えたとき,加速器の科学・技術として評価すると,もう少しエネルギーが低い方が最適なデザインになり得るという意見があります。

(この部分についてはSPring-8の研究者吾郷日出夫、新竹積両博士の意見を基にしています。それ以外の所でも多くの有益な修正、ご意見を頂きました。)

SPring-8の実験ホールの建物は,こうした科学施設としては,世界一ではないかと思います。2004年に本当に珍しく2度続けて直撃した強い台風によって屋根がはがれてすっかり有名になりました。

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その大きな曲線の接線の幅がどのぐらいになるか想像して下さい。単純計算で88/360はほぼ4度です。4度よりわずかに拡がる!!50メートル先で3.5メートル拡がる角度です。

線形加速器から出た1 GeVの電子は,SPring-8のシンクロトロンいくのと逆方向にもう一つの小さな放射光施設,兵庫県立大学の高度産業科学研究所が運営するニュースバルがあります。リソグラフなど,材料開発の研究が行われています。

写真3 スプリングエイトキャンパスの航空写真(RIKEN/JASRI提供)

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航空写真でおわかりになるように,まず大きなドーナツのSPring-8蓄積リングがあります。その真下に直線の建物が線形加速器の建屋です。右端に電子銃で造られた電子を,線形加速管が1GeVまで加速して,そのまま楕円形のシンクロトロンへつなぎます。同時に大きな長四角の屋根のニュースバルにも加速電子供給をします。その右にある長四角の建物の下にわずかに飛び出た所が,試験器であるSCSSがあります。

今回完成したXFEL SACLAは,左下から接戦方向に蓄積リングにつながるようにあります。SACLAは下から,電子入射され,線形加速器で加速,アンジュレーターでX線レーザー発振します。この位置関係からもおわかりになるように,SPring-8からの放射光X線を使った実験も可能になっています。さらに,よく見るとおわかり頂けるように,SACLAのそろった加速電子をSPring-8の蓄積リングに導入するトンネルがあります。

荒田

電子の軌道を曲げるという点をもう少し説明していただけませんか。

宮野

電子は,必ず軌道を回っていると考えられています。これは,電子は同じエネルギーの所には2つしか入れないという,パウリの原理という絶対的な量子力学の原理があります。これと対照的なのが,光,電磁波です。いくつでも同じエネルギーのところにいられる。これを,ボーズ粒子といいます。つまり,電子は,スピンという磁石をもっていて,上と下向きがペアで最大2つ入ることが出来る。同じ所には2つ以上入れることが出来ない電子はフェルミ粒子といわれます。つまり,電子は何処でも磁石により力を受けて,軌道が変えられると,そのエネルギー分の光を出す,これが放射光です。

つまり,シンクロトロンというのは,電子などの荷電粒子を回す装置です。電子のもつマイナス荷電は磁石の磁場からローレンツ力を感じ曲がります。そして,磁場によって曲げることで丸いリングの中を電子が回るのです。

電子は,先に述べたように,電子であれば軌道が変われば必ず光としてエネルギーが失われます。失ったエネルギーを後から後から加えてあげないと,電子はへろへろになり,壁にぶつかって消滅してします。同時に時には壁材の放射化の原因になってしまいます。ですから,電子加速をして研究をしようとしている研究者にとって,このエネルギーを喪失する放射光は邪魔者だったのです。

電子シンクロトロン装置で,電子を一定の半径のシンクロトロンの中を回します。そうすると,電子は方向が変わり,軌道が変化しますので,せっかく電子に与えたエネルギーが放射光を出して加速したエネルギーが失われてしまいます。電子を磁石の磁場によって曲げるのはリングの中を回すためです。

つまり「シンクロトロン」とは,磁場によって電子を一定の軌道上を円運動させる装置です。このため,電子をリング状に回転させるための磁石を,「曲げるために」という意味で「ベンディングマグネット(日本語で偏向磁石)」といいます。つまり,磁石を使って電子を曲げてリングを回すときに出る放射光は,せっかくエネルギーを投入してもシンクロトロン放射としてエネルギーを失わせてしまう厄介者だったのです。

さらに付け加えますと,ここで使う1GeVとか8GeVという加速エネルギーは大変高く,電子はほとんど光速と同じ速さで回ります。すると,光速と同じぐらいの速さで回る電子からみると,磁場で曲げられた直角方向に放射光がでますが,この光をリングの外から見ると,相対論効果で,電子と同じ方向に出ることになります。


つづく

by yojiarata | 2011-07-28 17:45
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