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創薬 日本の現状と将来 Ⅱ


日本発の売上高上位医薬品


荒田

日本がどれくらい活躍しているかを手っ取り早く理解するデータはありませんか。

平岡

1994 - 2008年で世界売上高100位以内に入った日本発の低分子医薬品は20種類ありますが,そのうちオリジナリティのあるもの (その分野での1番手) は10種類,改良品は10種類でバランスがとれています。日本でいわれている「仏の顔も三度」という諺が思いだされます。

1994-2008年に世界での売上高が100位以内に入った日本発の低分子薬(五十音順)(全部で20個)は次の通りです。
(括弧内カタカナは商品名,開発会社名は合併以前の名称使用)

(1) アリピプラゾール (Aripiprazole) (エビリファイ)(大塚)
α-quinoloneとpiperazine基をもつ抗精神薬,統合失調症,ドーパミン調節

(2) イリノテカン (Irinotecan) (カンプト)(ヤクルト)
中国原生のヌマミズキ科カレンボクから得られるキノリン系アルカロイド,カンプトテシンの水溶性誘導体,抗がん,DNAトポイソメラーゼ阻害

(3) オルメサルタン (Olmesartan) (ベニカー)(三共)
ビフェニルテトラゾール,イミダゾール基を持つ血圧降下薬,アンジオテンシンII阻害

(4) カンデサルタン (Candesartan) (ブロプレス)(武田)
ビフェニルテトラゾール,ベンツイミダゾール基を持つ血圧降下薬,アンジオテンシンII阻害

(5) クラリスロマイシン (Clarithromycin) (クラリス)(大正)
  マクロライド系抗生物質 (エリスロマイシン誘導体),細菌蛋白合成阻害

(6) ジルチアゼム (diltiazem) (ヘルベッサー)(田辺)
ベンゾチアゼピン骨格を持つ血圧降下薬,狭心症,カルシウム拮抗

(7) タクロリムス (Tacrolimus) (プログラフ)(藤沢)
微生物が生産する大環状エステル,免疫抑制剤,臓器移植後使用,IL-2発現抑制,発酵生産

(8) タムスロシン (Tamsulosin) (ハルナール)(山之内)
アミノエタノール誘導体,前立腺肥大,排尿障害,α-ブロッカー(α1A)

(9) テガフール・ウラシル (Tegafur・Uracil) (ユーエフティ)(大鵬)
ウラシルとフルオロウラシル誘導体の合剤
  抗がん,代謝拮抗,DNA阻害

(10) テプレノン (Teprenone) (セルベックス)(エーザイ)
ジテルペンであるゲラニルゲラニオールの酸素がアセトンに置き換わった化合物,胃潰瘍薬,胃粘膜病変改善薬,胃粘膜保護作用,胃粘液増量,胃粘膜血流増加,創傷組織修復増進

(11) ドネペジル (Donepezil) (アリセプト)(エーザイ)
ピペリジン基とインダノン骨格をもつ抗痴呆薬,ACE (Acetylcholine esterase) 阻害

(12) トログリタゾン (Troglitazone) (レズリン,ノスカール)
(三共)(発売中止となっている)
チアゾリジンジオン骨格とトリメチルハイドロキノン部分をもつ糖尿病薬,血糖降下作用,PPARγ 調節

(13) ピオグリタゾン (Pioglitazone) (アクトス)(武田)
チアゾリンジオン基とピリジン基をもつ糖尿病薬,血糖降下作用,PPARγ調節

(14) ファモチジン (Famotidine) (ガスター)(山之内)
グアジニルチアゾール基を持つ抗潰瘍薬,H2ブロッカー

(15) プラバスタチンナトリウム (Pravastatin Sodium) (メバロチン)(三共)
ジハイドロオキシヘプタン酸部分をもつ抗高脂血症薬,コレステロール低下,コレステロール合成阻害,HMG-CoA還元酵素阻害,微生物生産(発酵製造)

(16) ラベプラゾール (Rabeprazole) (パリエット)(エーザイ)
ベンツイミダゾール基とピリジン基を両端にもつスルホキサイド,抗潰瘍,プロトンポンプ阻害 (PPI)

(17) ランソプラゾール (Lansoprazole) (タケプロン)(武田)
上記(16)と同じ

(18) リュープロレリン (Leuprorelin) (リュープリン)(武田)
両端にプロリン誘導体がある9個のアミノ酸ペプチド,
前立腺がん,婦人科領域で広く使用。GnRHリセプターに作用,LHとFSHホルモン調節

(19) レボフロキサシン (Levofloxacin) (クラビット)(第一)
キノロン骨格を持つ合成抗菌薬,DNAジャイレース阻害

(20) ロスバスタチン (Rosuvastatin) (クレストール)(塩野義)
上記(15)と同じ,合成法により製造

荒田

ちょうど,今朝(2011年6月26日0:30 – 1:00)BBC Worldで放送されていた Horizons Switzerland” を興味深く観ました。Dupontがスポンサーになって製作した番組で,10年後の製薬企業の姿についての議論については,後でもう一度話題にしたいと思います。その時,Novaltis には,研究者が現在,6000人いるといっていましたが,もしそうなら,マンパワーも“ビリ”の原因にはなりませんか。

それと,先祖代々引き継いでいる基礎体力ですが,これは言ってみれば,その国のサイエンスの伝統,考え方,次世代を担う若手研究者の養成など,息の長い国家の考え方が影響していると思います。それと,ベンチャーに対する考え方など,“ビリ”の原因とは関係ありませんか?

平岡

荒田先生は非常に鋭いところを突いておられると思います。確かに「その国のサイエンスの伝統,考え方,次世代を担う若手研究者の養成など,息の長い国家の考え方」が重要だと思います。

現在,日本では外国留学を希望する学生が激減していると新聞は報じています。

これは過去の「ゆとり教育」の影響も少しはあるでしょうが,日本は平和で生活しやすいとの環境も影響していると思います。競争を避けてもそれなりに安泰に生きてゆけるのです。日本のように先祖が農耕民族ですと,皆が田植えをする時は自分もそれを行い秋の稲刈りもまわりが始めたらばそれを行えばよいのです。勿論人手が足りない時は近所の人が手伝うのです。周りの人と同じことをしていれば一生安泰に生活可能です。

一方,狩猟民族を祖先とする外国では知恵をだして周りの人を出し抜いて新しい方法を発案して獲物をたくさんとってこないと生きてゆけないし自分の男としての威厳も保てないのです。従って現在私が推測すると,米国では約50%の人がオリジナリティがなければ安泰の生活ができないと思います。日本では上層部の約10%のみがオリジナリティが必要で,あとの人々は皆と同じようなことをしていれば平和で安泰なのです。現在の日本で外国にも進出している企業では毎日身をけずるおもいで働いている社員も多いと思いますが,渋谷の繁華街の若者,永田町の政治家などの姿をみると外国での競争原理など,どこ吹く風といわざるをえません。或る人の言葉を借りると「外国での競争は真剣勝負,日本でのそれは木刀によるチャンバラ」という言葉は非常に納得のゆく表現です。

以上の事実が日本のベンチャー企業の弱さにも反映されています。日本ではパーティなどで初対面の人との会話では「どこにお勤めですか」と質問することは一般的です。しかし米国ではこんな質問はありえません。すなわち,アメリカでは「どんなお仕事をされていますか」と言います。

日本ではすべてではありませんが,大企業に勤めていることが生活の安定,幸福,スティタスの象徴なのです。逆にいえば名前のあまり知られていない企業に勤めていることはハンディキャップを持っていることになってしまう場合があるのです。すなわちこれが農耕民族に受け継がれた悪しき伝統なのです。従って日本ではベンチャー企業は資金不足に悩まされます。銀行は担保がなければお金を貸さないし,米国に比較すれば貧弱なベンチャーファンドしかないのです。日本では一度ベンチャー企業を立ち上げて失敗すれば致命傷を負いますが,狩猟民族は良い獲物を得るまで何度でもやり直しをすれば良く,社会もそれを普通に容認しています。要するに日本はそれほどオリジナリティを発揮しなくても平和に暮らせる“良い国”なのです。勿論10%ぐらいは競争心,向上心のかたまりみたいな人もいますが日本では例外的とみなされます。

荒田

そうすると,“ ビリ ”の原因は,やはりお金ですか。かりに,今の10倍,研究開発費を計上することになれば,問題は解決するでしょうか。

平岡

前の質問でも答えましたように “ ビリ ” の原因はお金ではありません。あまり目には見えない社会構造にあるのです。しかし善悪は別にして現在日本はグローバリゼーションを遂行してゆかねばならない環境に置かれています。私は農耕民族にとっても良いところはそのまま取り入れ,日本にあまり合わないことは改良した方法で取り入れる必要があると思っています。実際はTPP (Trans Pacific Partnership,環太平洋経済連携協定),大規模農業,世界会計基準等日本に合わなくても長期的には取り入れざるをえない事項も多くありやはり知恵を働かせなくてはならないと感じています。即ち創薬だけでなく,非常に広い範囲でオリジナリティのある政策が大きく必要とされているが日本はそれを遂行しなくてもまあまあやってゆけるのです(これからはそうはいかないと思いますが)。



つづく

by yojiarata | 2011-06-30 13:25
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