馬場宏博士から,改定新版が届きました。VI章,VII章が新しくなっています,改めてお読みいただければ これからしばらくの間,最近のさまざまな重要なトピックについて 『専門家に聞く』 と題する対談記事を非定期的に掲載する予定です。『小休止2』の欄に,その概要について書きました。 第一回目の今回は,原子力発電をさまざまな角度からみていきます。対談をお願いしたのは,馬場宏博士です。 馬場宏博士は,1958年東京大学理学部化学科卒,1958-1982年日本原子力研究所勤務,1982-1998年大阪大学理学部教授,現在,大阪大学名誉教授 です。 原子炉の成り立ちについて 荒田 はじめに,原子炉と原子力発電に仕組みを説明していただけませんか。 馬場 発電用原子炉の燃料棒は,UO2のペレット(1 cm × 1 cm ø)を 内径1 cm,長さ約4 mのジルカロイ合金のパイプに詰めた形状になっています。この燃料棒をさらに49本とか64本とかを正方形に束ねたものを燃料集合体とよびます。燃料棒を一列7本とか8本ずつ正方形に並べるため,49本 とか 64本で 1燃料集合体になります。100万キロワット級の発電炉では,1回に装荷するウラン燃料は100トンで,燃料集合体にして400本ほどが装填され,そのうちの30%程は1年で交換されます。 天然ウランには,核燃料となるウラン-235が0.7%しか含まれていません。核燃料にするには同位体濃縮をする必要がありますが,日本ではウラン濃縮の技術が確立していませんから,外国からUO2またはU3O8の形で輸入しています。輸入先は主にアメリカとフランスで,そのうちアメリカからの分が70%程です。 発電は,核分裂によって発生する熱を水蒸気の形で取り出し,タービンを回すことによって行います。発生した電気は,蓄電せずにそのまま消費地に送電して使い切ります。 荒田 福島第一原発の事故では,水素爆発が最初の引き金になったと理解していますが,水素爆発はどのようなメカニズムで起きるのでしょうか。 馬場 炉心の冷却機能が失われると冷却水が失われ,燃料棒の上部が大気中に露出するようになります。その結果,燃料の被覆材中のジルコニウムが,700 ℃以上で水蒸気と接触して還元作用により水素を発生します。この水素が大気中の酸素と混じって,混合比が体積で8.89 − 71.2%の範囲に入ると水素爆発を起こします。ただし,ガスの温度が室温の場合には爆発は起こりません。 それと並行して,炉心を包む圧力容器の中に水蒸気が蓄積されて圧力が上昇し,圧力容器の耐圧限度を超えると水蒸気爆発が起こり,圧力容器が破壊されます。これに対して,チェルノブイリ原発の事故は,核分裂の暴走によるものでした。 新聞の報道によると,福島第一原発では,圧力容器に冷却管から分岐したベント管は一旦格納容器下部の圧力調整室のなかにガスを放出した後,そこからさらに別のベント管によって原子炉建屋の外へガスを放出するようになっています。1号機と3号機では,最初の地震の際に,この第二のベント管が建屋内の箇所で破壊されたために,建屋内に大量の水素ガスが水蒸気と共に漏れ出したために水素爆発が起こり,一方2号機では窒素ガスを満たしてあったはずの格納容器が最初の揺れによって漏れを生じ,空気が入り込んでしまったために,格納容器内で水素爆発が起こったと考えられます。 予防措置としては,格納容器の中の空気を窒素ガスと置換することしか行われていないようですが,今回の事故では役にたちませんでした。私は,格納容器の内部の圧を下げるためのベント管の出口に,水素と酸素を結合させる水素再結合器を設置することで水素爆発が防げると考えます。また,建屋からの出口には,放射能除去フィルターを付けることは勿論です。 荒田 メルトダウンが起きたということですが,そもそも,メルトダウンというのは,どのような現象ですか。 馬場 原子炉の冷却機能が失われ,温度が上昇して1600 ℃に達すると被覆管が溶けてUO2のペレットが直接冷却水と接触し,ペレットの一部は崩れると思われます。温度がさらに上昇して2800 ℃に達するとUO2のペレットが溶融して炉心が崩壊し,溶融したUO2は圧力容器の底にたまり,圧力容器の底を侵食して,やがては底を突き破って外に漏れるようになります。 一旦この侵食が始まると止めどがなく地球の内部に向かって,どんどん侵食が進み,やがては地球の裏側にまで達すると誇張した表現がされ,これをチャイナ・シンドロームとよんでいます。もともとは,1979年制作のアメリカ映画・チャイナ・シンドローム(原題:The China Syndrome)に由来します。アメリカでは,30年以上も前から原子炉のメルトダウンが心配されていたのです。 一口にメルトダウンといっても,どの段階を指すのか,人によってイメージするところが異なっています。 今回の事故では,核燃料の溶融が起こって容器の底に溜まり,底に積み上がっている状態で,厚さ 16 cm の鋼鉄製の圧力容器の底が抜けるところまではいっていないはずですが,下から制御棒を挿入しているノズル状の溶接部分が熱に弱いために破れ,溶融した燃料の一部が格納容器の底に落ちているのは確実と思われます。 そして,外側は冷却されて固体に戻っていますが,中心部は冷却されず,溶融状態のままでいると懸念されています。 しかし,冷却機能が失われたとはいえ,果たして炉心全体の温度が2800 ℃にまで上がるものだろうかという疑問を持っている人もいます。かくいう私もその一人です。スリーマイル事故の時も一部炉心溶融があったことが分かりましたが,今回も溶融は一部に留まり,残りは溶融以前に形を失って崩れ落ちた可能性が高いと思っています。 予防措置はとにかく冷却し続ける以外にありません。今回の事故では,運転中であった3基の原子炉はいずれも,最初の地震と同時に無事停止しました。しかし数々の欠陥,不手際があって冷却機能が失われたことが致命傷となって,メルトダウンにまで進んでしまいました。私なりに考えた冷却機能維持のための方策を以下に記します。 1) 圧力容器に制御棒を下から挿入する型の沸騰水型原子炉 (BWR) については,格納容器並びに原子炉建屋を二重にする。 2) 新設の原子炉はすべて加圧水型原子炉 (PWR) に限ることとし,現行のBWRは老朽化の進んだものから順次 PWR に置き換えるものとする。 3) 外部電源の供給は複数経路,できれば3系統とし,非常用予備電源,モーター類は原子炉建屋内もしくはそれと同等の強度を有する建屋内に収納するか高台に建てた建造物に収容する。 4) 毎月1回モーターの燃料充填状況をチェックし,試運転を行う。 5) 電気回線ケーブル,冷却水の配管はすべて共同溝方式とする。 6) 一次冷却水系の配管の耐震強度を補強するとともに,予備のポンプを備え,万一の場合は,容易に交換が可能な構造とする。 7) 使用済み核燃料貯蔵プールに亀裂が入り冷却水が失われた場合に備え,補修のためのロボット機器の開発を急ぐ。 8) 使用済み核燃料の中間貯蔵施設を建設し,現在各原子炉に保管している使用済み燃料の大半をそちらに移す。 9) 水素爆発を防ぐために,ベント管の途中に水素を酸素と結合させる水素再結合装置を備えるとともに,放射能フィルターを排気口に取り付ける。 10) 核発電所ごとに地盤診断をやり直し,予想される震災に対する施設の強化策を策定し,実施する。 11)東海,東南海,南海大地震に伴う津波が予想される地域の原発サイトには海面より高さ15メートルの堤防,それ以外の地域では,海面より8メートルの高さの堤防を築く。堤防には,東日本大震災を参考に十分な強度をもたせる。 これだけの対策を講じれば,今回の東日本大震災を凌ぐ規模の災害が襲ってきても,原子力発電所の安全性は保たれると思われますし,地元自治体、住民の理解も得られやすくなるでしょう。 発電機については,原子炉建家の隣のタービン建家の中に設置されていますので,メルトダウンの影響は受けません。
by yojiarata
| 2011-11-23 18:09
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