荒田 放射性物質はどのような形で飛散するのでしょうか。野外モニタリングについても,コメントをお願いします。 馬場 原子炉建家から飛散してくる放射性核種は,Xe や Kr といった貴ガスの他には,ヨウ素とセシウムが最も飛びやすいとされています。その際,セシウムは酸化物の形で,ヨウ素はI2として飛んできます。ストロンチウムも酸化物になりますが,セシウムよりも気化する温度が高いため,セシウムの10分の1ほどしか飛び出しません。 ストロンチウムはカルシウムと置き換わって骨に集積し,がんを引き起こす危険がありますので,無視できない核種です。しかるに,Sr -90 はγ 線を出さない純粋 β 壊変核種の上,娘のY -90も0.01 %しか γ 線を出さないので特定は難しく,Sr -89も同じような状況です。そのためストロンチウムのモニタリング・データは極めて乏しいのが実情です。ストロンチウムの測定には化学分離が欠かせず,その上,娘のY -90の生成-崩壊曲線を β 線測定で作成して定量するしかなく,終了するまでに3週間から1月近くかかります。 野外モニタリングで測定しているのは空間線量率と地表の汚染度です。前者は地上1mの高さでの線量率,後者は地表5 cm以内での線量率を測ります。通常は NaI シンチレーション・サーベイメーターを用い,単位は μSvです。 これらはその場に存在するすべての放射能の総量で,核種毎の値は出せません。それをやるには,その場のダストや土壌をサンプリングして実験室に持ち帰り,半導体検出器を使って核種分析をしなければなりません。 放射能の世界というのは指数関数の世界であり,保健物理に限れば,意味を持つのは一桁目だけです。放射能汚染が無いバックグラウンド的な数値としては,大体0.05 μSv /h 程度と考えられます。これは,国際放射線防護委員会(ICRP)が勧告する年間 1 mSv を時間に換算すると 0.11 μSv になることからも妥当なところです。従って,空間線量率が 0.1 μSv 程度であれば安心していられるわけです。 これまでに認められている放射線障害というのは,疫学的調査の結果,100 mSvの累積被曝をうけると,がんによる死亡率が0.5%増加するというものです。現在,日本人のがん死は30%とされています。つまり1000人の死亡者のうち300人が放射能以外の原因でがんで死亡していますが,その1000人が100 mSvの放射線を浴びると,がん死が300人から305人に増えるというものです。 放射線被曝量がさらに増加して500 mSv(これは積算線量で、時間は含まれません)を超えると,リンパ球の減少に始まって皮膚のやけど症状,だるさや吐き気などの急性症状が現れ,3 - 5 Sv ではおよそ半数の人が死亡,7 Sv で100% の人が死亡するとされています。 従って,ICRP 勧告の1 mSv/年という値は放射線障害に対して100倍の安全率を見込んでいることがわかります。職業人に対する許容量は20 mSv/年であり,今回のような緊急時における民間人に対する許容量も20 mSv となっていますが,これでもまだ5倍の安全率が見込まれています。このままの状態が5年間続かないうちは心配することは無いといえます。 荒田 体の外に付着する場合と体の内部に入る場合の差を説明してください。 馬場 これまでは外部被爆について説明してきました。 内部被曝に対しては事情が違ってきます。とくに問題なのはヨウ素-131とセシウム-137です。ヨウ素-131については,子供とくに乳幼児の甲状腺がんが懸念されています。ヨウ素は甲状腺に集積する性質があり,チェルノブイリ原発事故の後,ウクライナの子供たちに大勢の甲状腺がんが発生して,日本にも治療に訪れた子供たちがいました。困ったことに,これらの子供たちがどれくらいのヨウ素を体内に取り込んだかは分かっておらず,甲状腺がんに対する限界値が分かっていません。そのため政府の定めたヨウ素- 131 に対する暫定基準値をめぐって混乱が起こりました。 日本では,毎年1000名前後の人が甲状腺がんで死亡しています。奇妙なことに,40歳以上の成人には甲状腺がんが発症しないとされていますが,チェルノブイリ事故後,ベラルーシでは,成人の甲状腺がんの発生頻度の増加が認められていると報告されています。しかし,18歳未満の子供,成人を含めて甲状腺がんにかかった患者がどの位のヨウ素-131の体内被曝を受けたのかは不明といってよく,安全限度を知ることはできません。 セシウム-137 については,30年という長い半減期のため,体内に取り込んだ場合の累積効果の見積りが難しく,手を焼いているようです。これについては,第Ⅴ部以下の説明を参照してください。
by yojiarata
| 2011-11-23 17:53
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