荒田 放射線について,分類して説明していただけませんか。 馬場 主たる放射線には,アルファ線,ベータ線,ガンマ線,X線,中性子線があります。α 線は裸のHe−4の高速の流れ,β 線は高速電子の流れ,γ 線とX 線は波長の短い電磁波,そして中性子線は中性子の流れで,エネルギーの低い熱中性子から高速中性子まであります。 通常,核燃料から放出される放射線は,β 線とγ 線ですが,燃料棒に含まれるα放射性核種が漏れてくるとα線も検出されることになります。また運転中の核燃料からは中性子が放出されます。中性子は運転が停止されて核分裂が止まっても,遅れて飛び出す遅延中性子が残ります。 X線は,空孔になった内側の軌道に電子が落ち込むときに放出される軌道遷移電磁波で,最内殻のK殻に電子が落ち込む際に放出されるKX 線は元素の同定に使われます。また重い元素では,次のL 殻への遷移に伴う LX 線も元素の同定に用いられることがあります。 放射能の検出・測定には,主として放射線の電離作用を利用するもの,蛍光作用を利用するもの,反跳作用を利用するもの,写真フィルムの感光作用を利用するするものなどがあります。また,特殊な例としては,石英の薄膜を使って,核分裂片の飛跡の数を数えるフイッション・トラック法があります。 電離作用を利用する検出器としては,GMカウンター,プロポーショナル・カウンター,α カウンターがあります。これらのカウンターは放射線の数を数えるのに用いられ,空間線量や表面汚染状態を調べるモニター類,個人被曝を量るポケット・チェンバーなどがあります。 蛍光作用を利用するものとしては,ガンマ線やX線検出用のNaI (Tl) 検出器が最もポピュラーで,この検出器は数を数えるだけでなく,そのエネルギー・スペクトルを測定することができます。 しかし,シンチレーション検出器はエネルギー分解能が低いため,核分裂生成物のように多種の放射性核種が含まれている試料では核種分析は不可能です。 それに変わって登場したのが,Ge (Li) 半導体検出器に代表される電離作用を利用する放射線検出器です。Ge (Li) 以外にもα線検出用の表面障壁型のSi検出器が活躍しています。半導体検出器はエネルギー分解能に優れており,得られたエネルギー・スペクトルと繰り返し測定の経時変化とから核種の同定が精度良く行うことが可能です。 中性子は電荷を持たないため,電離作用を起こさず,蛍光も発しません。中性子の測定には,中性子とB-10との核反応 10B + n → 7Li + α によって生成するα 線の電離作用するBF3カウンターが用いられます。 最後に感光作用を利用する検出器として,フィルム・バッジがあり,これはポケット・チェンバーがリアルタイムの被曝線量を測定するのに対して,個人被曝の積算量を測定するのに用いられます。 福島県内の学校や村民に配られているのは簡易型のGM サーベイメーターで,係数管内に入ってくる放射線の数しか測れませんが,測っている放射能がセシウム-137だけだと仮定すれば,近似的にシーベルトも測れます。 荒田 新聞,テレビなどの報道では,シーベルト,ベクレルが,何の説明も無く使われています。分かりやすく説明していただけませんか。 馬場 ベクレルとは1秒間当たりに壊れる放射性原子の数にほかなりません。それに対して,シーベルトは,原子が壊れる際に放射線が持ち出す運動エネルギーの総量を表す数値です。 放射能が1種類に限られていれば,放出放射線の種類と1崩壊あたりに放出されるエネルギーからシーベルトとベクレルとの間の換算を行うことができます。 エネルギーの流れとしてみたときの放射線は,グレイ(Gy)という単位で表されます。1 Gy は1 kg当たり 1 ジュール (J) のエネルギーを運ぶ線量のことです。 この放射線が相手に与える効果は,放射線の種類によって違ってきます。この違いを考慮にいれた実効線量がシーベルト (Sv) で,線量当量率とよばれています。Sv と Gy との間には (1) 1 Gy = (1 × WR)Sv という関係があります。WR は放射線荷重係数とよばれ,β 線,γ 線の場合には1,中性子線の場合には,エネルギー領域に応じて5から20までの値を取ります。これに対して,α 線では20となります。 グレイと放射能の壊変数との関係は,J を MeV に換算して, (2) 1 Gy = 6.25×1012 Ed (MeV/Kg) ここで Edは放射性原子が1個壊れるときに出すエネルギー(壊変エネルギー,MeV)です。従って,1 ミリシーベルトに対応する壊変数は (3) A = 6.25×109/ (W R・Ed) で与えられることになります。このA という数値が,1年間に許容される被爆線量で,外部被爆線量を考える上での基準値を与えます。 核分裂生成物のうち測定の対象となるのは,I -131,Cs -134,Cs -137,ついで,Te -132,Sr -89,Sr -90,Ba -140,La -140,Zr -95,Nb -95,Mo -99などですが,これらは核分裂の際の生成率の大小と半減期の長さによります。半減期とはその放射能が半分になるまでの時間で,これが短い核種はすぐに消滅してしまい,測定にもかからず,影響力はありません。すなわち,検出限度以下になるということです。 放射能の減衰は化学反応で言うところの一次反応で,その減衰速度は指数関数になります。そして反応速度定数に相当するのが壊変定数とよばれる物理量λで,これは半減期 T1/2 と (4) λ = ln 2/T1/2 という関係にあります。放射能の測定は,通常,最短で1分,最長で1日をかけて行われます。測定時間は試料の放射能の強さと半減期の長さを考慮して決められます。γ 線スペクトルの測定には,放射線強度だけを測定する場合よりも長い時間を要しますが,できるだけ測定中の放射能の減衰が無視できるように配慮します。通常は測定時間の中点を持って測定時としますが,減衰が無視できないと,経時変化を追っていくときに問題になります。放射能が弱くなるに連れて,統計を稼ぐために計測時間を長く取らねばならなくなります。そうすると,機械的に真ん中の時間を測定時とすると正しい半減期からずれてくることになります。そのために,測定時間にわたっての平均の dps 値を与える瞬間をもって測定時とします。 これまで説明したように,私たちは日常生活の中で深く放射線,放射能と関わっています。一体どの位の放射線を浴びたら障害が現れるのかは,ある程度はっきりとした答えが得られています。それによれば,何らかの放射線障害が認められる被曝量の下限値は,100 mSv/年とされています。その障害とは,がんに因る死亡率が0.5%増加するというものです。日本人のがんによる死亡率は30%という統計が出ています。毎年,1000人の中300人が放射線以外の原因によってがんで死亡しているのですが,その1000人が100 mSvの放射線を1年間に浴びるとがんの死亡者が305人に増加するというものです。疫学的調査で,統計処理した結果がそうなると報告され,一般に認めれています。 基になったでーたは,広島,長崎の被爆者の追跡調査の結果であり,増加分の5人という数字には誤差が伴っているけれども,統計学的には有意の数字であるとされています。 国際放射線防護委員会は,これらのことを勘案して,一般人に対する年間許容線量を1 mSv/年と定めました。この基準は放射線障害が発現する危険性に対して100 倍の安全係数を見込んだ数値であり,この基準を守る限り,絶対安全であることを保証するものです。もし万一,この基準値の2倍の被曝を受けたとしても,この安全係数が100 から50 に減るだけで,安全性に変りがある訳ではありません。先日,4月8日付けの朝日朝刊にチェルノブイリ原発事故の際に汚染地域に留まって50 mSv(積算線量で,年間線量ではありません)を越える被曝を受けた人たちの間にセシウム‐137の影響を受けた健康被害は認められていないと報じられたこともこのことを裏付けています。 これで分かっていただけるように,放射能の世界は,2倍,3倍という倍数の世界ではなく,10倍,100倍という桁数の世界なのです。実際のところ,この安全係数が10 に下がったとしても,安全性は十分に保証されます。年間許容線量が0 mSv/年 と定められている我々職業人の間でも,この許容線量を守って仕事している限り,何らかの放射線障害を発症した例は報告されていません。
by yojiarata
| 2011-11-23 17:54
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