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ウォシュレットの衝撃



今回は,尾籠な話題で申訳無いのですが,私にとっては大事件であった最近の経験を書かせていただきます。

UP YOURS WITH OURS - PREPARATION H

40年以上前,仕事で滞在していたスタンフォード大学のトイレで,ふと目の前の落書きを見た。

PREPARATION H は,当時,テレビで盛んに宣伝していた「痔主」のための軟膏である。私が高校の頃より苦しんでいるこの病いに国境がないことを知った。しかし,「痔主」でないと,「わが社の軟膏Hで,あなたのものを押し上げよう」のおかしさ,悲しさは理解できないかもしれない。因みに,日本では,ボラギノール軟膏がそれに相当する。

最後の難関は,飛び出している状態での作業である。これには飛び上がらんばかりの苦痛を伴う。しかも,完全にはいかない。

その後,この分野の進歩は目を瞠るものがあり,我等「痔主」への朗報がもたらされた。TOTO が発売を始めた ウォシュレットである。下から水が噴出して,心ゆくまで洗浄,そのあとは,水とともに指で押し込む。正に革命であり,極楽である。

折も折,NHK BS プレミアムの番組で日本のトイレについて放映されていた(平成23年5月26日,午後10時)。この番組によって,次のことを知った。
1) ウォッシュレットのアイディアの出処は,アメリカである。

2) 実際には,次の理由により,実用化に至らなかった。噴出する水の温度が,高温と水温の間を行き来するため,飛び上がらんばかりの熱い湯が噴出したり,下半身がショックを受けるような冷や水のこともある。これは大変困る。更に,洗浄用の水が目的地に達しないことが多い。

3) 洋式トイレで世界に遅れをとっていた日本では,明治45(1912)年,トイレ研究所が設立され,大正6(1917)年には1万個のトイレを作るも,ものにならず,艱難辛苦の末,昭和55(1980)年に至った。

4) 昭和55(1980)年,日本のメーカー TOTO が,実用になるウォッシュレットの開発に成功した。洗浄水が噴出する角度を男女200人の社員を動員して絞り込み,洗浄水の温度を一定に保つために,シリコンでコートした IC を組み込んだ。

5) その後,改造に改造を重ね,TOTO は世界ナンバーワンになった。アメリカが2002年に発表した『トイレ洗浄能力調査』によると,第1位から第3位までがTOTO,第4位,第5位が,アイディアの出処であるアメリカとなっている。

私は,この間のTOTO の粘り強い努力に最大限の敬意を払うものである。

TOTO のウォッシュレットの開発は20世紀指折りの出来事である。ちなみに,NHKが放映したトイレの番組では,ウォッシュレットが痔主にどれほどの安心感をもたらしたか,全く触れられていない。番組のディレクターが,ことの本質を理解していないのは不思議というほかはない。更に付け加えたいのは,2,3ヶ月前の同じNHK の番組『ためしてガッテン』では,番組に出演した女性の患部を拡大して生々しくカラーで写しだし,手術はどうする,こうすると,微に入り細に入り,説明。さすがの私もあまり見たくない場面であった。そこまで放送したNHKが,何故トイレの番組で,この大問題に触れなかったのか,理解不能である。

中国では,日本のウォッシュレット付きトイレが,ステイタス・シンボルとなっているという。2010年の上海万博では,日本産業館は,日本製トイレを見学するために押すな押すなの混雑であったと報じられている。

先日,定期的に通っている文京区の東京大学付属病院でトイレに入った。ここでは,トイレはいつも清潔,全て洋式,しかも,ウォッシュレット付きである。必要を感じて駆け込んだトイレに中に大きな張り紙があった。

節電のため,
ウォッシュレットの使用を中止しています。

ウォッシュレットのためにどれくらいの電気が消費されるか知らないが,はっきり言えることは,この措置を決めた人は,これまでに,「あの辛さ,情けなさ」の経験がない人に違いない。

ちなみに,水洗トイレは,13世紀,圧倒的に進んでいたイスラム文明によってもたらされたという。イランに今でも,当時造られた水洗トイレが世界遺産の中に残されている。これも最近のNHK テレビによる。

街を歩くと,

節電
がんばろう日本

の張り紙が至る所にある。

エスカレータも止まったところが多い。超・後期高齢者のなった私には,これは辛い。お尻に問題を抱え,足が不自由な私にとって,止まったエスカレータを下るときの不安感は独特の怖さがある。

福島第一原発の恩恵に浴していた東京都民として,言い出し難いのであるが,やはり辛い。しかし,これからも節電に努める決心である。

太平洋戦争に陰りが見え始めた小学生の頃,街でしばしば目にした

欲しがりません 勝つまでは

の張り紙を思い出した。硫黄島,沖縄のあと,アメリカ軍はジリジリと日本本土に迫り,新聞は「一億玉砕」を報じ始めていた。

就職活動といえば,男女揃いも揃って,カラスのような真っ黒なスーツを着用する。国がクールビズ用のTシャツについて指導する。皆がそれに従う。

良くも悪くも,日本人独特の感性かも知れない。
by yojiarata | 2011-05-23 17:30
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