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花はどこに行った



4月30日に書いたブロクに,レンゲツツジが満開になった写真を掲載した。それから2週間が経過した5月17日,殆どの花が枯れてしまった。無残でかわいそうな花の姿を見ながら,何の関連のない過去が断片的に頭をよぎった。

映画 『浮雲』

成瀬巳喜男(通称,ヤルセ・ナキオ)監督作品(1955年),原作は林芙美子,主演は森雅之(富岡兼吾),高峰秀子(幸田ゆき子)。戦時下の仏印ベトナムでのタイピスト・ゆき子と農林省職員・富岡の出会いは,戦後の雨の屋久島で倒れたゆき子の死と共に映画は終わる。映し出される[花の命は短くて]の字幕のラストシーン。ゆき子の笑顔。忘れがたい作品である。

高峰秀子さんは,平成22(2010)年12月28日他界された。享年86。


1972年 カリフォルニア州パロアルト・スタンフォード大学

1960年代に始まったベトナム戦争が泥沼化していた1970年代のはじめ,私はスタンフォード大学医学部の薬理学教室に客員助教授として滞在していた。

研究室の学生と戦争の話をよくした。学生のスタンに,君は「死の商人」という言葉を知っているか聞いてみた。ドイツのクルップ財閥の話もした。戦争には,裏に複雑な要素があり,そう簡単ではないんだなどと知ったかぶりをして話したことを覚えている。ベトナムで使われている膨大な量の兵器の経費は,何処の,誰が払って,誰が大量の金子を手にしているいるんだとも訊いてみた。スタンはそんなことは考えたこともないといって,黙ってしまった。

その年の大統領選挙で,戦争推進派のリチャード・ニクソン(共和党)が,戦争反対の立場をとっていたジョージ・マクガバン(民主党)に圧勝して,戦争は延々と続き,アメリカ兵に多くの犠牲者が出始めていた。それとともに,反戦運動が高まっていった。

ちょうどその頃,大学のどこかの広場で集会が開かれた。上半身裸の髭を生やした年齢不詳の男たち,なかには,ヘビを首に巻きつけている輩も少なからず集まっていた。はじめて見るけれど,こういう連中をヒッピーというんだな,と納得した。

そこへ,ギターを抱えた若い(30歳代前半)ジーパンとT シャツ姿の女性が登場して,歌を歌いはじめた。同僚に,「あの人ダレ」ときいてみた。彼は呆れ顔で,そんなことも知らずにここに来たのかと言い,彼女は名前をジョーン・バエズ,ニューヨーク州生まれ,反戦運動の中心を走っているのだと教えてくれた。

彼女の歌の中で,「花はどこに行った」というのがとくに印象に残った。同僚にそう話すと,彼は大きくうなずき,この歌は古くて長い歴史をもつのだと教えてくれた。この記事を書きながら,You Tube を見ると,今も,若かりし頃の彼女の姿がそこにある。

あれから40年,大義名分も,目的も,そして手段も,戦争は様変りした。彼女も,誕生日から計算すると,現在,72歳になっているはずである。

ジョーン・バエズは,今どこで,何をしているのだろうか。
by yojiarata | 2011-05-22 17:50
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