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薬学部6年制 Ⅲ


日本の薬学:過去と現在

300年近くに及ぶ鎖国政策は,日本における医学,薬学を含むサイエンス全体の近代化に大きな影響を及ぼした。辰野高司『日本の薬学』(薬事日報社,2001)には,現在の日本の薬学にいたる道筋が詳細に記述されている。

西欧諸国の場合と同様,日本においても,魔術師,祈禱師,僧侶,巫女たちによって,薬草や毒草が用いられてきた。これらの経験と知識は,その後,今日の高いレベルの天然物有機化学,さらに,薬学における広く有機化学研究全般を対象とする基礎研究として根付くことになった。旧帝大を中心とする大学を含め,広くアカデミアの分野においては,理学部,工学部,農学部において,さまざまな形で有機化学が展開されている。

薬学における有機化学には,つねにヒトとのかかわり,すなわち,薬物としての有機化学が念頭に置かれてきたところに特徴がある。山崎幹夫『歴史の中の化合物-くすりと医療の歩みをたどる』(Science in action series 27,東京化学同人,1996)には,日本における有機化学の実力がどのように発揮されてきたかについて,詳細に記述されている。

以上の点は欧米諸国の薬学部にはない日本独自の薬学の特徴である。日本の薬学は,有機化学のみならず,生化学,物理化学の分野において,西欧諸国と競い合いながら研究を続けてきた。

薬学においてはまた,製薬業界との接点をより密にする研究,例えば,薬物動態の研究が活発に行われ,日本の製薬の発展に大きく貢献している点に注目しなければならない。

現在の制度の下で,薬学部に進学し,上で述べてきた基礎研究に参画するには,薬剤師の資格を取得することは放棄し,薬学は4年制に進学し,さらに大学院において,薬学ならではの基礎研究を続行する。このように,ヒトを対象とするサイエンスは,薬学(4年制)を出発点として,その上に大学院をおいて行われることになる。このような経歴をもつ人材は,日本の薬学の将来を担う若手の研究者の育成に欠かすことはできない。国内外の大学,研究所などのアカデミアに進むもののほか,製薬企業において広く求められている。

薬学教育の向上・発展

薬学部6年制の遂行,評価については,つぎに引用する一般社団法人薬学教育評価機構・井上圭三理事長による 公式見解によってその全容を知ることができる。
平成18年(2006年)度の薬学教育6年制施行にあたり,中央教育審議会から薬学教育プログラムの第三者による評価システムの構築が求められました。そのため,日本薬学会薬学教育改革大学人会議の下に設置された薬学教育評価検討委員会と全国薬科大学長・薬学部長会議の薬学教育評価実施委員会が中心となり,これまで検討が進められてきました。

このたび,平成20年(2008年)12月10日付にて,「薬学教育評価機構」が一般社団法人として,正式に発足することとなりました。薬学教育課程には6年制と4年制がありますが,本機構は当面,6年制の薬学教育プログラムに限定して評価を実施し,薬学教育の充実,発展に資することを通じて,医療人として社会から真に信頼される薬剤師の育成を目指します。

本機構は6年制が完成する平成24年3月以降に,本格的評価を開始いたします。それに先行し,平成22年(2010年)3月末までには,各大学および薬学部は評価基準に基づいた自己評価を実施して公表することが,全国薬科大学長・薬学部長会議において全会一致で決まっております。この「自己評価21」は,6年制課程の平成22年(2010年)5月から始まる病院と薬局での参加型実務実習のために,各大学および薬学部がそれに対応できるだけの十分な教育が行われていることを自己評価を通じて社会に示そうという次第です。その際,本機構にも自己採点結果をまじえた自己評価報告書が提出されますので,その解析等を行い,本評価の実施に備えることとしております。

折しも,中央教育審議会の「学士課程教育の構築に向けて」(平成20年10月)の提言では,第三者評価における分野別の評価が今後の重要課題として挙げられ,分野別の教育の質保証システム構築が,大学および大学関連団体に求められております。その様な中で,特に学部別に限って見ますと,分野別の教育の質を維持向上するための自主的な取り組みとしては,本機構が我が国で初めてであります。

これから本評価の開始に向けて,取り組むべき課題は山積みされております。皆さまのご理解,ご協力の基に質の高い薬剤師を養成するため,薬学教育の向上・発展に貢献していく所存でおります。今後とも,何卒よろしくお願い申し上げます。
             (平成20年(2008年)12月吉日)

薬剤師国家試験受験資格

学校教育法の改正に伴い,薬剤師法も改正され(平成16年(2004年)6月23日公布),薬剤師国家試験を受けることができるのは,原則として,6年制学部・学科の卒業者とされている。

ただし,4年制学部・学科の学生については,平成29年(2017年)度までの入学者に限り,大学を卒業した後、薬学関係の修士又は博士の課程を修了し,さらに6年制学部の卒業生に比べ不足している医療薬学系科目や実務実習等の単位を,一定期間内に6年制学部において追加で履修し,6年制学部の卒業生と同等であると厚生労働大臣が個別に認める場合にのみ,薬剤師国家試験を受験することができるとされている。

以下, 6年制薬学部誕生までの流れ,それに係った“有識者・学識経験者”の顔ぶれなどを知るため,関連のあるウェブサイトを引用する。

薬剤師問題検討会「中間報告書 」の公表について
薬剤師問題検討会(厚生労働省医薬食品局総務課)
平成15年(2003年)

定例事務次官記者会見概要
(H16.03.04(木)14:04~14:12 厚生労働省記者会見場)

一方,文部科学省もさまざまな委員会を開き,その結果をウェブページに公開している。

薬剤師養成問題懇談会
平成14年(2002年)1月21日
今後の薬剤師養成に関する諸問題について

薬学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議について
2002年(平成14年)9月24日
高等教育局長裁定

薬学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議 委員名簿
平成15年(2003年)8月1日

つづく

by yojiarata | 2011-05-07 00:40
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