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国会の論戦  再見



ご隠居さん 何だか,落ち着かない表情で,立ったり,座ったりしてますね。何か事件でもあったの。


***


そうじゃないんだ。前に何度か書いたことを,もう一度,繰り返したくなって,困っているんだ。

ご隠居さんが,そう思うなら,書いたらどうなんですか。


やっぱり,そうするか。



*



1月26日に,第189回通常国会が開会したよね。

衆議院で,27日午後,参議院で,28日まる1日,合わせてまる2日 ”論戦” が行われていることは,君も知っての通りだよ。


私がここで君に読んでほしいのは,実際には,二つの記事に書いたことに尽きるんだ。


まず, 内閣総理大臣 対 各党代表の”論戦”を聴く 


次に,


 国会の論戦  世界遺産に登録しよう 


を読んでください。



総理大臣は,答弁をなにやら原稿らしきものを,そのまま読んでいるよ。変でしょ。

質問をあらかじめ入手したうえで,(恐らく,頭の良い官僚が)答えを執筆し,総理大臣は,それをただ棒読みするだけなんだよ。悪い言葉でいえば,公の場で,堂々とカンニングしているんだよ。国家の最も重要な場でね。

質問が,別の大臣に向けられた部分に来ると,ここは,担当大臣に答えさせますと,ケロッとしているんだ。担当大臣は,これまた,原稿を読んでいるよ。


これ以上,思い出すのも不愉快で,恥ずかしいから,やめるよ。ブログの記事を読んでちょうだい。


これがわが日本の国会だよ。泣きたくなるよ。






 終わりのない話の終わり 

by yojiarata | 2015-01-28 22:45 | Comments(0)

さらば  豊真将



ご隠居さん 今日は,大相撲の話ですか。


***


そうです。白鵬の33回優勝など,びっくりするよね。だけど,大相撲も賑やかな,” ショー ” のようになってきたね。これは,何も,大相撲に限ったことではないけどね。

大体,横綱が行司の判定に公然と不服を述べるなんて,聞いたことが無いよ。それにどうでしょう。毎日のように,巨大な全面広告が,それも何枚も,掲載されるよ。日本の国技も,こうなったらおしまいだね。


*


今日は,大相撲初場所(平成27年1月11日 ― 25日)で引退した豊真将のことを書かないわけにはいかないんだ。


過去4場所の豊真将の記録


平成26年7月(東前2)  1勝5敗9休
平成26年9月(東前13) 0勝0敗15休
平成26年11月(西十9) 0勝1敗14休
平成27年1月(東下7)
引退


新聞各紙は,16日(大相撲初場所6日目),豊真将の引退を取り上げました。


新聞記事より


大相撲の元小結で,右膝のけがで東幕下7枚目に落ちていた豊真将(33=錣山)が,初場所6日目の16日,日本相撲協会に引退届を提出,その日の持ち回り理事会で年寄「立田川」の襲名も承認された。・・・・・


豊真将の復活は,かなわなかった。


平成25年5月,名古屋の5日目。日馬富士に潰され,豊真将の右ひざが,あり得ない方向に曲がった。靱帯(じんたい),筋肉,さらに骨に及ぶ重傷を負った。「もう一度土俵に」。その思いで戦ってきたが、願いはかなわなかった。

この2年、けがに泣き続けた。2年前には左肩の動きをつかさどる腱板(けんばん)を断裂。「俺たちの根性とプライドを見せてやろうじゃないか」と背中を押してくれた師匠の声を励みに、はい上がってきた。だが,もう一度,三役を狙える地位まで戻った矢先の大けがで,土俵人生を断ち切られた。


*


私がここで豊真将を取り上げるには,訳があります。


勝っても,負けても,どんなに悔しくても,取組後の挨拶は,いつも変わることなく,淡々として礼儀正しいよ。

豊真将ほど,礼儀正しく,これぞ,日本国技の相撲道という雰囲気の力士は,ほかにいません。君がどのように思っているか知らないけれど,豊真将のこの雰囲気に惹かれる大相撲ファンは少なくないんだ。

私は,一度だけ,JRの両国駅で,豊真将の姿を見たことがあるんだけど,土俵で見る印象と全く同じだったよ。


引退にあたり,豊真将に 有難う の詞を贈りたいと思います。






おわり

by yojiarata | 2015-01-26 10:46 | Comments(0)

T = 191919  満州 と 関東軍






ご隠居さん 題の数字は何ですか。


私は,超後期高齢者になり,頭のてっぺんから,足の先まで,不如意となって,情けなくも,病院通い。この1,2年で,小児科と婦人科以外は,全部受診したよ。お蔭で大勢のお医者さんと知り合いになったけど,お医者さんの数で病気が治るわけではないしね。

これは,ちょっとまずい状態なので,去年,勧める人があって,リハビリの学校に入学し,週2回,一回3時間,体操などに励んでいるんだ。これには,大変満足しているよ。いろんな人と友達になれるしね。

定員の10人は,現在,満員。ほとんどのメンバーは,私より年上で,最高齢の Tさん (男性) は,1919年 (大正8年),1月9日生まれの96歳。偶々,今日の集まりが 1月9日だったので,ブログの題の始まりが,T = 191919 になったわけです。



*


T さん は,教育関連の書物の編集,出版の仕事をしておられたんだけど,突如,徴兵されて,どこか北の方に船で連れていかれたんだ。連れて行かれた先は,着いてみて,中国西北部 (当時の満州)とわかったそうだよ。要するに,悪名高い「関東軍」の一員に組み込まれたんだ。



満州は,このブログに何度も書いたけど,東条英機,岸信介が共謀して,関東軍を牛耳り,結局,太平洋戦争の震源地となったんだ。



*



昭和20年(1945年),ソ連は日ソ中立条約を無視して,日本に宣戦を布告,8月9日午前零時,満州に攻め込み,暴虐の限りを尽くしたんだ。私は,この事件以来,あの国を信用しないことにしているんだ。安倍総理大臣は,北方領土について,今後,粘り強く話し合いを続けていくなんて,呑気なことを言っているけど,あの国相手では駄目ですよ。日本も,外交力ゼロという感じだね。情けないね!


ソ連軍の満州侵攻を身をもって体験した T さん の話は生々しいよ。日本の関東軍の運命は3つに分かれたんだ。理屈も何もない。ソ連が勝手に決めたんだ。ひとつは,「南方」に送られた組,多くの戦死者が出たと聞いています。第二は,「シベリア」に送られ最も悲惨な運命にさらされた組,第三は,朝鮮から日本に送り返された組。 T さん は,幸運にも,日本に送り返されたんだ。


もう一度,角田房子 『墓標なき八万の死者 満蒙開拓団の壊滅』(上のウェブに掲載)を読んでほしいんだ。




T さん は,現在,96歳だけど,体調に留意され,いつまでも長生きしてほしいと願ってやみません。







by yojiarata | 2015-01-10 21:37 | Comments(0)

ポリウォーター伝説再訪  STAP 細胞に想う   巻のⅠ 



ご隠居さん  今回の題は「ポリウォーター伝説再訪 STAP 細胞に想う」となっているけど,ポリウォーターのことは,以前に書いたんじゃありませんか。


***

仰る通り,このブログに ポリウォーター伝説 Ⅰ-Ⅴ   を書いたよ。昔の話でね。あれから,もう三年以上になるね。



今頃になって,何故また話題にするのかだって?


君も,耳にタコができるほど,聞いたでしょ?あの甲高い声を。


STAP細胞はります。 私は,200回以上,作るのに成功しました。



私は,30年前のポリウォーター事件,今度のSTAP 細胞事件と比較してみて,当事者の発想,周囲の反応,そして,その思考の根底にあるものが,余りにも似ていると感じたんだ。それが,このブログを書こうと思った理由です。

なお,「事件」というよび方は,角が立つようにも思うけど,ほかに適当な日本語が頭に浮かばないので,使わせていただきます。別の詞が頭に浮かんだら直します。



*



まずはじめに,このブログ,「巻のⅠ」-「巻のⅥ」,に登場する重要人物とそれぞれの方の業績を簡単にまとめておきます。


デリャーギン (ロシア)        ポリウォーター

小保方晴子 (日本)          STAP 細胞

ベンベニスト (フランス)        水の記憶 
(1991年イグノーベル賞・受賞)




***






最初に,水の化学について,おさらいしておきます。このブログに書いた記事 のなかの, 3) 水の化学 4) 100% 純粋な水は,この世に存在しない の項目を読んで下さい。



水の化学




ギリシャ時代,水は,空気,土,火とともに,万物を構成する四つの「元素」であると考えられていたのは,君も知っているでしょう。

水が「元素」ではなく,酸素と水素から成る化合物であることが分かったのは,近代化学が確立された18世紀の終わり頃のことだよ。この頃,イギリスのキャベンディシュ,フランスのラボアジェは,水素(H)と酸素(O)から水を合成することに成功したんだ。これは,人類が水を人工的に作った画期的な業績だね。

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同じ頃,水蒸気を赤熱した鉄の上を通して,水を酸素と水素に分解する反応が見つかりました。続いて,水の電気分解によって生じる水素と酸素の割合を比較して,水分子が2個の水素原子と1個の酸素からできあがっていることが実証されたんだ。19世紀の半ばまでに達成されたこれら一連の研究成果は,現代化学の先駆けとなるものだよ。こうして,2000年近くの間,“元素”であると信じられた水は,実際には,“化合物” HOであることが確立されたんだ。



100 % 純粋な水は,この世に存在しない



君は,もしかしたら,ピカピカに磨いた容器に,慎重に精製した蒸留水を入れておけば,何物も溶け込んでいない,100% HO だけの液体ができると思っていませんか。

蒸留する際に用いた容器から溶け出してくる物質もあれば,保存する容器から溶け出してくる物質もあるよ。量の問題だけれど,君の目の前にある水は,アボガドロ数,10の23乗程度のHO分子が集まったものだよ。ところが,現在の分析化学の方法では,10の10乗個程度以下の ” 不純物 ” の検出は不可能なんだよ。

従って,君の目の前にあるは,いかなる場合であっても,” 水溶液 ” と考えるべきなのです。

ちなみに,色々な物質が溶け込んでいるからこそ,水を飲む楽しさがあるんだよ。


水を知ることは,楽しいよ。ポリウォーター伝説 Ⅰ-Ⅴ を書いたのと同じ頃, 水の変容 Ⅰ-Ⅴ を書いたので,よかったら読んで下さい。




水分子の踊り



液相の水(以下,単に水とよぶ)を構成する個々のHO分子の集まりは,一体どのような姿をしているのだろうか。1リットルの水の中では,1023個程度の数のHO分子がひしめき合い,猛烈な速さで離合集散を繰り返しているんだ。


次のパラグラフにある [⇒]( 赤色の字) をクリックすれば,コンピュータ・グラフィックスによって再現したその姿をみることができるよ。


私が大学を定年退職した後で勤務した機能水研究所で,藤井和久,岸本敏始両君が,H2O 分子の動きのシミュレーションの計算してくれたんだ。だけど,そのままではいささか味気ないので,当時品川にあったソニーグループのCDI ビデオセンターの古川淳・制作課長 (当時) に全面的に協力いただいて,バックグランド・ミュージックを付けたんだ。出来上がったビデオを目(耳)にして子供のように喜んでいる私を,” いい年のおじさん(おじいさん)が ” というような顔つきで眺めていた古川さんの顔が忘れられません。


時間軸を1013倍に引き伸はしたスローモーション。個々のHO分子は,気相の水でみたオリゴマーそのものである。ただそれが,猛烈は速さで離合集散を繰り返しているんだ。[⇒] 
この図では,酸素原子を白の大きな玉,水素原子を赤い小さな玉で表示してあるよ。


この結果は,あくまで,酸素原子と水素原子の間の水素結合,それに加えて,普通の分子間ポテンシャルを加えて,分子動力学計算したものだけど,現実の水の姿と大きく異なってはいないと考えているいます。なお,歌われている曲は『シューベルト:水の上にて歌える』(ソプラノ,エリザベート・シュワツコップ;ピアノ,エドウィン・フィッシャー,EMI,1952年10月録音)。





つづく













































































































































by yojiarata | 2015-01-03 22:00 | Comments(0)

ポリウォーター伝説再訪  STAP 細胞に想う   巻のⅡ




1960年代,水を巡って,サイエンスの世界を揺るがす大事件が起きたんだ。ポリウォーターを巡る一件です。

水ほど,単純に見えて,複雑怪奇な物質も珍しいよ。ポリウォーターの一件は,水のもつ特異な性質を抜きにしては考えられないよ。



伝説の発端



ポリウォ-タ-とは何かを知るには,ある高名な無機化学者 (日本人) が日本化学会第23年会(昭和45年4月,東京)で行った特別講演 「異常水-オルトウォ-タ--ポリウォ-タ-」 の要旨を見るのがてっとり早いよ。以下,その冒頭の部分を原文のまま引用します。


ソビエトの有名な コロイド化学者B. V. Deryagin は1966年のFaraday SocietyDiscussion 誌上に論文 ”Effect of Lyophilic Surface on the Properties of Boundary Liquid Film” を発表した。この報告の内容はその地味な表題にかかわらず 画期的なものであった。


彼の発見は径 5-20μ の石英の毛細管中に気相から凝結した水が毛細管の外に出しても,通常の水と全く異なった性質をもつことであった。Deryagin によれば,この異常な性質をもつ“異常水” こそ真に熱力学的に安定なH2O-orthowater であって,普通の水は熱力学的に準安定な metawater とよばれるべきものである。




B. V. Derjaguin



ソ連科学アカデミー物理化学研究所の重鎮B. V. Derjaguin は,
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1960年代のはじめ頃から,通常の水 water I とは性質が全く異なる water Ⅱ について,ソ連の雑誌に次々に論文を (ロシア語で) 発表していたんだ。これが,上の講演要旨で “異常水” とよばれているものです。


現在われわれが手にしている水は,決して永遠に存在するものではなく,界面に接触することによって,何らかの力が働き,新たな状態に移行するに違いないと考えたと,Derjaguin はのちに書いています。“異常水” が,ソ連国外ではじめて議論された要旨が,Faraday Discussions(Nottingham大学,1966年9月) に引用されているよ。
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“異常水” の示すその特異な性質は,すべてが水の常識をはるかに越える世にも不可思議なものだったんだ。

“異常水” は,150℃ を越えても沸騰しない。粘度は通常の水に比べて1桁以上高い。密度は1.4 g cm-3 に達する ・・・・


Deryaguin の発見は径 5-20μ の石英の毛細管中に気相から凝結した水が毛細管の外に出しても,通常の水と全く異なった性質をもつということだったんだ。Deryaguin によれば,この異常な性質をもつ“異常水” こそ,真に熱力学的に安定なH2O-orthowater であって,普通の水は熱力学的に準安定な metawater とよばれるべきものであるということなんだ。


ここで,話の都合上,一見とんでもないほうにハンドルを切るよ。


*



群馬県の水



群馬県の水は分子生物学に適している と信じている知人がいるんだ。東京から移ったあと,何故か実験がうまくいくと主張しているよ。


私に言わせれば,【群馬県の水は分子生物学に適している】 という 陳述の問題点は,以下の通りだね。

まず第一に,標準がない。すなわち,一体何に対してうまくいくのかが明確でない。

第二に,定量性がない。どれくらいうまくいくのか数字で表わされていない。

第三に,再現性が語られていない。ただ何となくうまくいくというのでは説得力がない。いつ,どこで,だれが実験しても,同じ結果が得られるのでなければ,真剣な議論の対象にはならない。

そして何よりも大切なことに,この陳述には 化学の裏付け がない。

だけどね,どう考えてみても疑わしいこの陳述は,完全に肯定することも,完全に否定することも困難です。



わざわざこのようなことをもちだしたのには理由がある。すでに 「巻のⅠ」 で述べたように,この世に純粋な水は存在しません。われわれが水を手にするとき,どのようなものであれ,それは水溶液なんだ。このあまりにも自明な事実を軽んじたため,過去に数々の出来事が起こった。規模からいって群を抜いているのが,ポリウォ-タ-を 巡る出来事です。



*




E.R.Lippincott



アメリカの分光学者 E.R.Lippincott は,“異常水” の赤外線吸収スペクトルが,それまでに集積されていた10万例のスペクトルのいずれとも一致しないこと,2500-4000cm-1 のスペクトル領域から,OH伸縮振動にもとづく吸収が完全に欠落していること,1595cm-1 と1400cm-1 (ダブレット)に吸収が観測されることを確かめました。

この結果をもとに,Lippincott は“異常水” を構成するHO分子の間には,F-H-F-1 における水素結合に匹敵するきわめて強い水素結合が介在していると結論したんだ。F-H-F-1 においては,フッ素原子の間の距離が短く(2.26Å),水素原子が 2個のフッ素原子の中間に位置し,通常の水素結合に比べて一桁大きい結合エネルギーをもつことが知られているからね。


ポリウォーターは,当時の人々の知的好奇心をいたく刺激し,にわかに信じがたいさまざまな構造モデルが,世界の有名雑誌 ScienceNature に続々と登場したよ。


Lippincott の論文には,構造モデル(A)が掲載されているよ。

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水素結合は通常の水よりはるかに短く,2個の酸素原子にはさまれた水素原子は両者の中間に位置し,これによって,密度の高い構造ができあがるんだ。“対称的な水素結合” をもつこのような構造は,水が石英の表面に接触することによって作られると Lippincott は書いています。


Lippincott は,“異常水”は a true polymer of water であると言い切り,それをポリウォーター(polywater)と命名したんだ。


*



J.P.Bernal と R.H.Fowler



ポリウォーターの出来事の一部始終を克明に記述したFranks の著書にはJ.P.Bernal とDerjaguin との間でかわされた会話(1968年,ロンドン)が,録音テ-プから再現されているよ。Bernal は,Fowler とともに,液相の水に関する最初の本格的論文を1934年に発表した J.P.Bernal その人です。

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Bernal: In my opinion this is the most important physical-chemical discovery of this century.

Derjaguin: I am very glad to hear you say this. I would like to ask you something. Would it be possible for you to write something later about your opinion on the significance of this work, as you are the principal specialist on the physics and chemistry of water? It would be very important for me to get such an estimate.

Bernal: I will be glad to do this. But I would like to ask another question. In your view, what is the biological importance?




ポリウォーターをこの世ではじめて手にしたのは,モスクワの北東190マイルの小都市 Kostroma にある技術研究所の物理学者 Nicolai Fedyakin なんだ。毛細管に閉じこめた液体の物性を研究していたFedyakin の実験結果は,モスクワの重鎮 Derjaguin の興味を引くところとなり,30人以上の研究員を投入したDerjaguin の一大プロジェクトとして吸収されてしまったんだ。Fedyakin にとって,よかったのか,わるかったのか,わからないんだけれど,今日,ポリウォーターといえば,誰もが Derjaguin の名を思い浮かべるよ。





つづく

by yojiarata | 2015-01-03 21:25 | Comments(0)

ポリウォーター伝説再訪  STAP 細胞に想う   巻のⅢ




ポリウォーターの実像


 

1966年の Faraday Discussions 以来,ポリウォーターに関わっていたBernal が,その生涯の最後に執筆したNature の Correspondence "Anomalous" water は,つぎの文章で終わっています。


There is still no adequate explanation of the phenomenon, and no coherent picture of its properties. One of the greatest difficulties in even accepting the existense of a more stable phase is its apparent absence in nature. Indeed, this is the most persuasive evidence of its inability to grow at ordinary water’s expense, for it has stood the test of billion of years..... If it can grow at the expense of ordinary water, we should already be a completely dead planet.

Yet we are not, and totally unlikely to become so from this source. By all means draw the attention of scientists to the dangers of their work, but make sure it is a real danger before alarming everybody else.



Polywater and Polypollutants は,Bernal のグループが2年半を費やして行った研究調査結果のまとめたものです。この報告は,Bernal が他界した1971年に,Nature に 掲載されました。以下に引用するのは,この論文のアブストラクトです。

Some careful experiments and a close look at the literature of polywater give no reason to believe that any new phenomenon has been discovered. Contamination could account for the observed effects.



*



最終的な詰めは,化学の実験によってもたらされたよ。HO と DO から,それぞれ,ポリウォーターを作って赤外線吸収スペクトルを測定した結果,両者にはまったく差がないことがわかったんだ。つぎの文章は,化学分析の実験結果を記述した論文 (Science, 1971) のうちのひとつからの引用です。


The ESCA spectra of “polywater” show that this anomalous, high-density, viscous, nonvolatile material contains high concentrations of sodium, potassium, sulfate, chloride, nitrate, borates, silicates, and carbon-oxygen compounds with trace amounts of other impurities but very little water.



 「ポリウォーターの異常な性質」は,大量のシリコンが容器の壁から滲みだし,水に混入したことによるというあっけない幕切れが,入念な化学分析によってもたらされた。




***



ポリウォーターは,75編(ソ連),227編 (アメリカ),210編 (その他の国)の論文を残してこの世から消えました。論文数の推移は次の図に示す通りです。
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ポリウォーターの一部始終は,これらの論文のほか,Franks の著書,David Eisenberg が執筆したFranks の著書の書評 A Scientific Gold Rush (Science, 1981) などを通じて辿ることができるよ。
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つづく

by yojiarata | 2015-01-03 21:24 | Comments(0)

ポリウォーター伝説再訪  STAP 細胞に想う   巻のⅣ




1960年代の後半,Nature は,Science とともに,ポリウォーターの華やかな舞台を演出しました。ポリウォーターの終焉をいち早く察知した Nature は,1971年3月5日号のNEWS AND VIEWS の欄に,冷たくも短い記事を掲載したよ。

この記事はつぎの文章ではじまります。

It now begins to seem as if the concept of polywater is on its last legs.


理論化学者のW. G. Richards の回想:

In the heady days when “polywater” was believed by many to exist and even to represent a threat to life, theoretical chemists were quick to risk their reputations and lend credence to the myth purely on the grounds of calculations. Since the bursting of the polywater bubble the work of quantum chemists on water and on solvation has been more realistic.


液相の水の構造の理解に貢献したH. S. Frank は,ポリウォーター全盛の時代,The Structure of Ordinary Water と題する地味な論文を Science (1970) に発表しているよ。この論文の脚注にはつぎのように書かれています。

The word “ordinary” is used here to distinguish the subject of this article from the “anomalous” water, sometimes now called “polywater” which has aroused so much recent attention. Whatever else may be said about this material, it seems clear that it is a very different substance from ordinary water. No more mention of it will be made in this article.


Derjaguin 自身が1970年に Scientific American に書いた総説は,つぎの文章で終わっているんだ。

But here, following the example of Scheherazade, who invariably lapsed into silence at the most interesting place in her story, it is appropriate to end in the certainly that continued investigations of the properties of liquids will lead not only to universal acceptance of the reality of water II but also to the discovery of new and even more surprising phenomena.


Derjaguin は,1000編を越える論文,著書を残して,1994年,92歳で他界しました。ロシア科学アカデミーの二人のメンバーによる追悼記事が Langmuir に掲載されています。"the glorious tradition of Russian science" を担った Derjaguin を讃えるこの記事には,ポリウォーターの記述は全くありません。




つづく

by yojiarata | 2015-01-03 21:14 | Comments(0)

ポリウォーター伝説再訪  STAP 細胞に想う   巻のⅤ





ジャック・ベンベニスト 小保方晴子 イグノーベル賞



まず,1935年生まれのフランス人のジャック・ベンベニスト (Jacques Benveniste) について書きます。子供の頃から,天才少年ともてはやされていたそうだよ。


ベンベニストは,ホメオパシーの根拠となるような論文を Nature に投稿し,同誌に掲載されました。事実であれば,大変な研究だけど,後に反証実験が行われ,ベンベニストの実験には再現性がないということが確認されています。


ポリウォーターのあと,さまざまな「驚異の水」が登場しました。雪を溶かしてつくった水が,やけどに対して驚くべき鎮痛効果,治癒効果を発揮するとの説,同じく,雪からつくった水に構造の記憶があるとの説はその例です。10-24-10-30モル (!) の濃度の抗IgE血清が好塩基球の脱顆粒活性を保持しているとする研究結果を,ジャック・ベンベニストが Nature に掲載しました。もしも事実であれば,例えばタンパク質が,水の中に存在した事実を,水が記憶しているのかも知れないという点で大きな反響をよびました。


ちなみに,ジャック・ベンベニストによるこの説は,雑誌 Nature (1991)に掲載されました。ベンベニストは,Nature に論文を掲載することに異常な執念を持っていたようだね。

君は,このベンベニストという人は,なんて変な人だねというかもしれないけれと, NatureScience などに心を奪われ,ただそのことだけを生きがいにしている人は,その辺 にゴロゴロ いるよ。


Nature, Science に論文を出せば出すほど,仕事が素晴らしいと考える風潮が,とくに,日本では顕著だね。困りましたね。日本は研究の後進国だということを自分で認めたようなものだからね。


古い話になるけど, 南方熊楠 (1867-1941)は,Nature に50編以上の論文を掲載しているからね。南方熊楠のおじちゃんは,自分が Natureに何編の論文を書いたかなんて,全集で見る限り,どこにも書いていないよ。



1991年 ベンベニスト イグノーベル賞を受賞



君は,イグノーベルについて聞いたことがあるでしょう。イグノーベル賞は,現在では,食べ物のことや,何だか憎めない,愉快なことに与えられるようだけど,ベンベニストの頃は全く違ったんだ。


ベンベニストは,1991年,第1回のイグノーベル賞(化学)を受賞したんだ。ベンベニストの場合は,強いて言えば,ポリウォーターのように,真実か,真実でないかのすれすれが問題になっていたんだ。

その意味では,今回の小保方事件も,ベンベニストの頃のイグノーベル賞と肩を並べると言えるのではないでしょうか。真面目なサイエンスについての議論と言えなくもないんだ。STAP 細胞・世紀の大発見説が,マスコミのワイドショウに取り上げられるしね。

何だか,終わったような,終わらないような,後味の悪さが,口の中に,苦く残っているしね。


Nature は追試チームを編成してデータを集め,その結果を誌上に掲載しました。こうして,ポリウォーターに比べてきわめて短時間のうちに事態は収束したんだ。ここでも,サイエンスに対する西洋民族の姿勢について,さまざまなことを学ぶことができるよね。


私自身は,今回の小保方事件 (自殺騒動などを含めて) に,ベンベニストの 引き起こした 「水の記憶」 事件の残像を見るような気がしています。


*



水には,(正確には,水溶液には),未知の可能性が秘められています。しかし,われわれがなすべきことは,慎重な実験にもとづく真面目な議論であることはいうまでもありません。実験の再現性など,中学生でも知っている当たり前のことを当たり前とすることなく,丹念に実験デ-タを積み上げて,先に進まねばならなりません。新たな可能性の開拓は,いかにも退屈な辛抱強い化学の努力の延長線上にしかないのです。Cavendish,Lavoisier をはじめとする偉大な先人が残した化学の教えは今も生きています。


「ポリウォ-タ-」 はいつの世にもあります。われわれは,この教訓をないがしろにしてはなりません。メディアに翻弄され,ファッションと化した研究は研究でなくなります。そして,真実は,つねに,誰にも理解できる単純明解なものです。




つづく

by yojiarata | 2015-01-03 21:12 | Comments(0)

ポリウォーター伝説再訪  STAP 細胞に想う   巻のⅥ





理研の割烹着のお姉さまが火元になった火事が,世界中に飛び火して ” ワイドショ― ” 級の一大スキャンダルに膨脹したでしょう。この件は,過去数カ月の間,あっちでも,こっちでも取り上げられているから,書くのは止そうと思っていたんだ。だけど,先月の12月26日に理研が記者会見で発表した「最終結論」なるものを聞いても,何となく腑に落ちない点があるので,少し別の角度から書いてみることにしたんだ。よかったら読んでちょうだい。


君は覚えているかどうか知らないけれど,このブログに 池田亀鑑の平安朝文学 を書いていた時,丁度,あの小保方事件が起こったんだ。その時,何だか不吉な予感がしたので,そのブログの終わりに,次の文章を付け加えておいたよ。



この頃は,自然科学の世界でも,とくに若い連中が
やれ Nature だ,やれ Science だと喚きながら,
タレントのように走り回っているね。


商売になりそうだとなると,マスコミが
待ってましたと騒ぎ立てるものだから,
本人もスター気取りになり,
調子に乗って,有ること,無いことを喋りまくるんだよ。


池田亀鑑のような,静かな学者を大事にしない国は,
いくらお金があっても,滅びるよ。


2014年2月11日記





生憎,私の予感は当たったよ。



*




外部有識者による調査委員会の報告
(平成26年12月26日)


STAP細胞論文を巡る問題で,理化学研究所の
調査委員会(委員長,桂勲・国立遺伝学研究所長)は
26日,最終報告書を発表した。
論文でSTAP細胞由来とされた細胞は,
既存の万能細胞であるES細胞(胚性幹細胞)だったとし,
「STAP論文は、ほぼすべて否定された」と結論付けた。

一方,ES細胞の混入については「誰かが故意に混入させた疑いを
ぬぐえない」としたが,故意か過失か,
誰が行ったかは決定できなかった。

・・・・・ 

また,新たに2件の図表で
著者の小保方(おぼかた)晴子・元理研研究員(31)
による捏造 ねつぞう を認定した。






ここまで言われると,ミステリー小説のような,不気味な犯罪事件の香りが漂ってくるよ。真面目な話,そんなことなどありえないと言い切れるんだろうか。

億単位(億の桁数不明?)の巨額の研究費(すなわち,国民の税金)が使われたんですよ。それを,こんな形で幕引きにしようというのは,余りに無責任じゃありませんかね。


ところで,小保方事件については,昨年,「新潮45」に連載されていた記事が,本にまとめられて最近出版されたよ。

小畑 峰太郎〖STAP細胞に群がった悪いヤツら〗 (2014/11/27,新潮社)

あまり穏やかではない題名だけど,全て真実が書いてあると思わないで読めば,大いに参考になるよ。と私は思います。




***


以前,このブログで,カート・ヴォネガット〖 猫のゆりかご 〗( ハヤカワ文庫SF,早川書房,三刷,1968 ) のことを書いたの覚えているかい。


この小説は,原子爆弾の開発を目指すマンハッタン計画に関わった,ノーベル賞受賞者のフランシス・ハニカーと彼の3人の子供たちの物語だよ。ハニカーは密かに,恐ろしい アイス・ナイン を作り,子供たちに分け与えるんだ。


広島に投下された原子爆弾について," The Day the World Ended " と題する本を出版するための取材をしている ” 私” が,狂言回しとなって,物語が進行するよ。実に興味のある小説だね。


〖 猫のゆりかご 〗が出版されてから 8年後に,ロシアのDeryaguin が,ポリウォーター を発見したと発表し,世界中の科学者を驚かせたんだ。


Deryaguin なる人物は,自分を宣伝して売り込むことに熱心だったようだね。イギリスの重鎮,バナールと交わした会話などが,Felix Franks "Polywater" に再現されているよ。この件を読んでいると,割烹着のお姉さまも似たような傾向があるんじゃないかと思ってしまうね。


つまり,この人たちは,世の評判を得ることが先行し,科学するために求められる こころ を忘れたんだね。


ともあれ,発表から数年の後,ポリウォーターはこの世から消えました。

Felix Franks の " Polywater " は,ポリウォーターに関するまとまった著作として は,世界で唯一のもので,内容も素晴らしいんだ。大学関係の図書館にも あまり置いてないよ。私は捜索の過程で,大阪大学蛋白研に所蔵されていることを知り,高木俊夫教授(当時)にお願いして,コ ピーを取らせていただきました。

その後,ネットで,2冊(ハード・カバー版 と ペ-パ-・バックス版)を入手し,今は,私の最重要図書に分類して大事に使っているよ。

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(The MIT Press, Second Printing, 1982)




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”STAP 細胞事件” に関連した事柄が,山のように報道されているでしょう。そして,これらの記事を読めば読むほど,50年以上も前に世界を騒がせた ” ポリウォーター事件 ” の顛末とあまりにもよく似ていることが気になって,改めて,Felix Franks の著書を精読したんだ。

私は,細胞生物学の完全な門外漢だから,” STAP細胞事件 ” の全貌の解明は,理研の研究者や,外部の中立な研究者に任すしかないけれど,研究の裏と表,それを取り巻く理研の対応など,” ポリウォーター事件” とそっくりだね。


Felix Franks は,その著書のPrologue に,カート・ヴォネガット〖猫のゆりかご〗(早川書房)の 22 MEMBER OF THE YELLOW PRESS の冒頭部分を2ページにわたって引用しているんだ。そのまたごく一部を引用しておくよ。読んでほしいよ。さすがは,Felix Franks だね。ヴォネガットも凄いね。


べンベニストも,小保方晴子お姉さまも,そして,今はこの世にない Deryaguin も,倒れるほど猛烈に,何百遍も,ヴォネガットのお言葉をお経を読むように,繰り返してほしいね。それでなければ,まともなサイエンスなんてできはずはありませんよ。 サイエンスを ”やらせる” ,つまり,管理している組織についても,全く同じことが言えるんじゃ,ありませんかね。



Pure research men work on what fascinates them,

not on what fascinates other people.










ひとまず おわり

by yojiarata | 2015-01-03 21:10 | Comments(0)