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播磨の森にある大型放射光施設スプリング-8  Ⅰ


今回の『専門家に聞く』は,宮野雅司博士にお願いしました。

宮野雅司博士の略歴 浜名湖畔(現)浜松市生まれ,東北大学理学部生物学科卒業,日本専売公社,ポスドク(UCSD),JT生命研究所,アグロン製薬,JT医薬総合研究所を経て,現在,青山学院大学・理工学部化学・生命科学科と(独)理化学研究所・播磨研究所・放射光科学総合研究センター兼任


第Ⅰ話 スプリング‐8 とは何か

荒田

スプリング‐8は,最近,新聞,テレビなどでもよく目にする言葉ですが,まず,この名称の由来を説明していただけませんか。

宮野

Super Photon ring-8GeVの略称で正式には,SPring-8とPと大文字で表記します。放射光の蓄積リングの中で,8 Giga電子ボルトに加速した電子を回転させ,その際,放射される光(どんなに強い光でも,エネルギーが違うだけで,いずれの場合にも,電磁波とよばれる同じ「光」です)を研究に利用するための実験施設です。電子は,はじめに,蓄積リングとよばれる「シンクロトロンリング」に貯めておきます。

X線レーザーであるXFEL SACLA(X-ray Free Electron Laser)も同じSPring-8キャンパス内に昨年建設され,平成23年6月7日に,レイジング発振つまり,レーザーとして波のそろった光を放射することが確認されました。これは,次世代の光といわれるレーザー化した放射光ともいうべきものです。アメリカのスタンフォード大学SLACにあるLCLSに続くもので,LCLSの1/3ほどの大変コンパクトな装置で,日本のオリジナルの技術で作られています。

荒田

建設,運転,維持管理に多大の出費があるのではないかと想像しますが,この施設は全体として,どのように運営されているのでしょうか。

宮野

施設の所有者は理化学研究所です。高輝度光科学研究センター ( JASRI) が運転・管理業務を行っています。また,JASRIは「登録施設利用促進機関」として,SPring-8の利用促進業務を行っています。


つづく

by yojiarata | 2011-07-28 17:55 | Comments(0)

播磨の森にある大型放射光施設スプリング-8  Ⅱ


第Ⅱ話 SPring-8 の性能


宮野

ちなみに,SPring-8 の放射光リングの物理的なサイズ,加速された電子のエネルギーは,いずれも世界一です。

荒田

一時流行った言葉を使って,“どうして,世界一なのですか?2番目ではダメなのですか”,と問われれば,どうお答えになるのでしょうか。

それともうひとつ,スタンフォード大学SLACにあるLCLSに続くとありながら,日本のオリジナルの技術で作られているとありますが,どうゆう意味でしょうか。

宮野

私の個人的意見ですが,明らかな2番手は科学者としては敗者です。科学研究において,他の人のやってないこと,誰も見たこともないものを見るのがなんと言っても科学研究において一番になったものの醍醐味で,スリリングなことです。

その先には,バラ色の楽園が拡がることもあるでしょう。けれど,目の前には垂直の無限の壁が立ちはばかり,目がくらむような断崖絶壁,さらには足を取られる底なし沼や狂わんばかりの無限地獄が拡がっているかもしれない。それを地道に乗り超えて初めて新しいことが,誰も想いも付かなかったこと,世界で初めての光景を見ることが出来るのかもしれません。

それには,一番しかありません。つまり,新たな「知の地平」を広げることが科学であると,私は考えています。生命科学にとっては,新たな生物を発見することは,今でも極めて重要なことです,再発見も含めて。

最初から2番目を目指して,本当の力が出せますか。それは,敗者の論理で,リスクを取ることから逃げていることで,SPring-8のように税金で研究するものにとっては納税者である国民にも説明のつかない態度であると思います。科学に2番手はないと思っています。やって出来るとわかっていることをやることは,もう科学ではないと思っています。

でも,現実は非常に大事なことが明らかになるときは,しばしば2つも3つものグループが同時に報告することが珍しくない。そして,逆説的ですが,科学的事実として認められるには,2番手3番手の地道な仕事が本当に大事です。

さらに社会の役に立つ科学・技術として応用が出来るためには,陳腐と言われるほど誰にでも出来るような”技術”になることが大事です。ですが,人のやっていることにだけとらわれていると,何も新しいことは出来ません。常識,そして教科書に書かれていることさえも疑っていくことが第一歩。無知を承知で言えば,所詮,科学は哲学のほんの一分野として始まった。科学の歴史は有史と比較しても近代で極めて短い。

そして,注意しなければいけないことは,これだけ科学が発達した現代では,どんなに斬新で画期的な成果でも,95%ぐらいはこれまでに報告のある成果の上に載っかっている,下手をすると99%以上かもしれない。このことも肝に銘じて自戒しておかないと。

そのぶん,今の若い人が科学をやろうとすることは大変です。

結論を言えば,科学者として生きていくことは,Number One! かOnly One! 以外にないと思います。2番手を承知でやる気持ちなら,やらない方がいい。敢えて付け加えれば,科学は決してわかりやすいものではない。それを理解するだけでも,とんでもないほどの,トレーンニングと積み重ねがいる。そして,センスが。「科学をやり続けるためには,“負けない”ことが大事だ」と若い研究者には,言いたいと思います。

LCLS は既存のアイデアを最初に実証する野心的なもので,装置は既に確実性のある現実に作られています。レーザー発光する1年ほど前に直接,責任者の Jerome B. Hastingsにインタビューする機会がありましたが,「あとは淡々と進めるだけで何も問題も心配もない」といっていました。そして実際,LCLSはその通りに,2009年4月に最初のX線レーザーが出ました。

これに対して,日本のSACLAは技術的にはすべてチャレンジでした。電子加速にはCバンドという高い周波数の高周波で短い距離で速く加速する電子レンジのお化けで電子加速をしていますし,その電子を作る部分も,昔のテレビのブラウン管と同じ熱電子を加速して,且つ圧縮するという常識外れの技術です。LCLSでは,レーザー光で初めから揃った電子を造って加速しています。前者は,新竹積博士が,最初はKEKの時代から,あとは理研に移ってから新たに開発したものです。

そして,もうひとつは,SPring-8で既に大活躍した放射光を作る世界標準となったアンジュレーターの神様,北村英男博士の真空中に磁石を並べることによって,その電子の通る隙間を世界一狭くして,たかだか700メートルで1オングスロームという原子を見るにふさわしい波長のX線レーザーを作ることが出来たのです*)。さらにこの光を加工して使う技術は,阪大と理研で共同して開発してきたSPring-8で培われてきたナノレベルの平坦さを持つミラーなどが活躍するものと思います。つまり,投入された技術は,世界超一流で次の世代のXFELを支えるものとなり,さらには,高エネルギー物理にも貢献すると先のHastings博士は絶賛していました。こんな技術ですから,実際に動くか世界中誰も信用していなかった。そこで,2006年にSCSSという技術はそのままのずっとエネルギーの低い小さな試験加速器を造って数十ナノメートルのレーザー光を出して成功したときには世界を驚かせたのです。(Shintake et al., Nature Photonics (2008) 2, 555)


*)なぜ,SPring-8に出来たSACLAがLCLS等よりコンパクトに出来るかをさらに技術的に比較して見ましょう。

SLACは,通常のアンジュレーターを使っていますので,1.6 ÅのX線レーザーを造るのに,14GeV の加速電子を必要としています。ですから,世界の加速器メッカとして枯れた加速器技術である3 GHz, 17MeV/m (1メートルの加速空洞で17MeVのエネルギーを加えられる)で加速するSバンド加速管をLCLSで使っています。これに対して, XFEL SACLA では,短い磁石と周期と狭いギャップの真空封止型アンジュレーターを使って実効的な磁場を強く出来るので,8GeVというSPring-8同じエネルギーの加速電子で1Å 以下のX線レーザーを発振できるのです。加速管は6 GHz, 35MeV/mというCバンドを使っている。このアンジュレーターに使っている磁石は,レアアースを使った永久磁石として世界最強の日本の独自のネオジウム磁石を使っています。そして,KEKで開発されたCバンド加速管を使って,且つ低い加速電子で発振するので,全体としてLCLSのほぼ1/3という長さになったのです。もちろん,SACLAが出すX線レーザーの波長が短い,つまりエネルギーは高いのですが,レーザーの発振周波数つまり,繰り返しの時間間隔, レーザーの強さなどの違いがありますので単純に比較できないパラメーターがありますので,最終的にはどんなサイエンスに使うか,そのために適したX線レーザーとは何かということが今後問われることになります。そして,XFELの理論研究においても世界を先導しているスタンフォード大学のSLACは次世代のLCLS IIを既に計画実行しようとしています。
参考に,地デジ移行でなくなったアナログのVHS,地デジテレビ放送で使われるUHFより高いエネルギーの高周波領域を, 高いエネルギーを下から順に, L(long wave), S(Short wave), C(Compromise between S and X), X−バンドとよんでいるようです。


つづく

by yojiarata | 2011-07-28 17:50 | Comments(0)

播磨の森にある大型放射光施設スプリング-8  Ⅲ


第Ⅲ話 SPring-8はどのような造りになっているか



宮野

一昔前まで使われていたブラウン管の原理を思い出してください。SPring-8も原理は全く同じです。電子を作って蓄積リングに入射するために,熱電子銃,そして最初の加速をして1 GeVにする線形加速器,さらにシンクロトロンがあり,電子を8 GeVまで加速して蓄積リングに運びます。

SPring-8の名前の由来のところで説明しましたように,電子を蓄積リングとよばれるシンクロトロンリングに貯めます。磁石によって電子の軌道が円運動になるように曲げられます。こうして加速された高エネルギーの電子線が発する光が実験に使われます。

その光の出た先に,「ビームライン」とよばれる光を実験に使えるようにするための光学ハッチ,そしてその加工した光を実際に使う実験装置を入れた実験ハッチがあります。SPring-8全体では,全部で62本のビームラインを作ることができますが,現在建設中の4本を含めてすでに57本あります。

写真1

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荒田

何故,62本なのでしょうか。

宮野

出来るだけ沢山,かつ十分な実験スペースを取るという2律背反の妥協の結果ではないでしょうか。光は,シンクロトロンの偏向磁石からは接線方向にしか出ませんし,直線部は電子を曲げなければ,光は取り出せません。

写真2 放射光を造る

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ビームラインの数が62本の理由には,期待する電子ビームの品質と寿命さらに予算の制約のトレードオフの産物であるセルデザインの影響も大きいと 思います。ビームのエミッタンス(広がり)は,電子を曲げるベンドの数と蓄積エネルギーで決まります。また高エネルギーをどこまで使えるようにするかで決まる加速電圧と使える光 の量であるフラックスの基礎パラメータを左右する蓄積電流は,電子ビーム軌道の安定性となってセルデザインに影響を与えます。これらのトレードオフで,偏向電磁石2個(B1,B2)からなる2個ベンドのセルデザインと直線部の数が決まっていったのではないでしょうか?

実際の設計としては,多角形の辺の数の最適化は大変に複雑です。リングの大きさをそのままで,辺の数を増やすと,技術的な困難は,加速器から取り出すビームラインどうしが近づきすぎて,真空ポンプなどの機器が設置できなくなります。一方ビームの特性は多角形ほど良くなる傾向があります(放射光も光量子なので光放射で反作用を与えますが,放射の反発による電子ビームの発散が偏向角度が小さいと小さくできる)。エネルギーは必要以上に高いとよろしくない。偏向磁石から出る光量子のエネルギーが高くなり,エミッタンスが増大する。

実際のリングの大きさとエネルギーは,こうした科学・技術とは別次元の経済性,科学政策によって最終的に決定されます。

現状のSPring-8のデザインは,リングは,電磁石で曲げる部分と,直線から出来ています。多角形です。44角形です。細かく見れば一カ所2本の偏向磁石ベンディングマグネットB1/B2があり88角形になっています。放射光はこの曲げる偏向磁石の入った部分から1本,通常の連続光の放射光が出ます。この偏向光源は,汎用のビームとして,光のエネルギースペクトルが広いので,いろいろに使えます。

直線部分には,挿入光源としてアンジュレーターを置いています。アンジュレーターからは高強度のエネルギー幅の狭い準単色のX線が出ます。磁石の隙間であるギャップを変えることで,電子の感じる実効磁場が変えられ,これによってX線のエネルギーつまり波長変更が出来ます。特に強度と絞った光が必要な微小結晶タンパクの構造解析などに使えます。ですから,現在のSPring-8の蓄積リングでは,原理的には最大88本のビームラインが設置可能ですが,少なくとも加速器として電子入射や,加速空洞が必要なので,これよりは少なくなります。そして,現状としては,実際に設置可能なビームラインとして62本ととして決めているということになります。

回折限界光源を目指した将来のSPring-8セルデザインを考えたとき,加速器の科学・技術として評価すると,もう少しエネルギーが低い方が最適なデザインになり得るという意見があります。

(この部分についてはSPring-8の研究者吾郷日出夫、新竹積両博士の意見を基にしています。それ以外の所でも多くの有益な修正、ご意見を頂きました。)

SPring-8の実験ホールの建物は,こうした科学施設としては,世界一ではないかと思います。2004年に本当に珍しく2度続けて直撃した強い台風によって屋根がはがれてすっかり有名になりました。

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その大きな曲線の接線の幅がどのぐらいになるか想像して下さい。単純計算で88/360はほぼ4度です。4度よりわずかに拡がる!!50メートル先で3.5メートル拡がる角度です。

線形加速器から出た1 GeVの電子は,SPring-8のシンクロトロンいくのと逆方向にもう一つの小さな放射光施設,兵庫県立大学の高度産業科学研究所が運営するニュースバルがあります。リソグラフなど,材料開発の研究が行われています。

写真3 スプリングエイトキャンパスの航空写真(RIKEN/JASRI提供)

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航空写真でおわかりになるように,まず大きなドーナツのSPring-8蓄積リングがあります。その真下に直線の建物が線形加速器の建屋です。右端に電子銃で造られた電子を,線形加速管が1GeVまで加速して,そのまま楕円形のシンクロトロンへつなぎます。同時に大きな長四角の屋根のニュースバルにも加速電子供給をします。その右にある長四角の建物の下にわずかに飛び出た所が,試験器であるSCSSがあります。

今回完成したXFEL SACLAは,左下から接戦方向に蓄積リングにつながるようにあります。SACLAは下から,電子入射され,線形加速器で加速,アンジュレーターでX線レーザー発振します。この位置関係からもおわかりになるように,SPring-8からの放射光X線を使った実験も可能になっています。さらに,よく見るとおわかり頂けるように,SACLAのそろった加速電子をSPring-8の蓄積リングに導入するトンネルがあります。

荒田

電子の軌道を曲げるという点をもう少し説明していただけませんか。

宮野

電子は,必ず軌道を回っていると考えられています。これは,電子は同じエネルギーの所には2つしか入れないという,パウリの原理という絶対的な量子力学の原理があります。これと対照的なのが,光,電磁波です。いくつでも同じエネルギーのところにいられる。これを,ボーズ粒子といいます。つまり,電子は,スピンという磁石をもっていて,上と下向きがペアで最大2つ入ることが出来る。同じ所には2つ以上入れることが出来ない電子はフェルミ粒子といわれます。つまり,電子は何処でも磁石により力を受けて,軌道が変えられると,そのエネルギー分の光を出す,これが放射光です。

つまり,シンクロトロンというのは,電子などの荷電粒子を回す装置です。電子のもつマイナス荷電は磁石の磁場からローレンツ力を感じ曲がります。そして,磁場によって曲げることで丸いリングの中を電子が回るのです。

電子は,先に述べたように,電子であれば軌道が変われば必ず光としてエネルギーが失われます。失ったエネルギーを後から後から加えてあげないと,電子はへろへろになり,壁にぶつかって消滅してします。同時に時には壁材の放射化の原因になってしまいます。ですから,電子加速をして研究をしようとしている研究者にとって,このエネルギーを喪失する放射光は邪魔者だったのです。

電子シンクロトロン装置で,電子を一定の半径のシンクロトロンの中を回します。そうすると,電子は方向が変わり,軌道が変化しますので,せっかく電子に与えたエネルギーが放射光を出して加速したエネルギーが失われてしまいます。電子を磁石の磁場によって曲げるのはリングの中を回すためです。

つまり「シンクロトロン」とは,磁場によって電子を一定の軌道上を円運動させる装置です。このため,電子をリング状に回転させるための磁石を,「曲げるために」という意味で「ベンディングマグネット(日本語で偏向磁石)」といいます。つまり,磁石を使って電子を曲げてリングを回すときに出る放射光は,せっかくエネルギーを投入してもシンクロトロン放射としてエネルギーを失わせてしまう厄介者だったのです。

さらに付け加えますと,ここで使う1GeVとか8GeVという加速エネルギーは大変高く,電子はほとんど光速と同じ速さで回ります。すると,光速と同じぐらいの速さで回る電子からみると,磁場で曲げられた直角方向に放射光がでますが,この光をリングの外から見ると,相対論効果で,電子と同じ方向に出ることになります。


つづく

by yojiarata | 2011-07-28 17:45 | Comments(0)

播磨の森にある大型放射光施設スプリング-8  Ⅳ


第Ⅳ話 放射光の歴史的変遷



荒田

放射光についてですが,歴史的にどのような変遷を辿ってきたのでしょうか。

宮野

第1世代放射光

実際,放射光研究を初めて進めた方たちは,本来の電子加速したシンクロトロンの“邪魔者”を使わせてもらったそうです。これを第1世代放射光といいます。

第2世代放射光

やがてその光を使うために放射光専用のシンクロトロンを作るという時代になりました。最初の第2世代放射光用のシンクロトロン装置が,SPring-8の普及棟にそのまま展示されています。つくばKEKにある「フォトンファクトリー」もこの第2世代に当たります。

第3世代放射光

そして,さらに大きなものを作ろうとして始められたのが,大型放射光であるSPring-8など第3世代放射光です。つまり,SPring-8の蓄積リングは強力シンクロトロンです。また,1 GeVから8 GeVまで加速する別のシンクロトロンがあることはすでに述べました。

これとは対照的に,直線部に磁石の列を作って強制的に電子を振動させることで放射光を作るという方法があります。磁石の方向を変えて沢山並べると、その電子から出る放射光が共鳴して強めあうことができますので,より強い放射光を取り出すことができます。この磁石装置を「アンジュレータ―」といいます。SPring-8はそのための場所がたくさん造られています。とくに長直線部といわれる30メートルのアンジュレーターが入ります。


つづく

by yojiarata | 2011-07-28 17:40 | Comments(0)

播磨の森にある大型放射光施設スプリング-8  Ⅴ


第Ⅴ話 性能,性能を決める因子,幾何学的な大きさ

荒田

実験装置の性能などについて,少し詳しくお話いただけませんか。

宮野

まず,光を出すときの電子のエネルギーと質です。光を作るときには,磁石の間を電子を通すわけですから,その磁石による実効磁場が電子を曲げる強さになります。磁石の強さと周期長,そして磁石と磁石の間隔であるギャップといわれる電子の通る隙間の大きさが性能を決めることになります。

装置の機械的精度が悪いと放射された光は乱れますので,光としての質も強度も落ちます。エネルギーが変ったり軌道が乱れると電子が壁に当たって電子が消滅しますので,リングを回る電子の寿命が短くなります。真空度も電子がぶつかるものをなくすために必要ですから性能を決める重要なファクターです。この結果,放射光は時間とともに弱くなって減衰します。つまり寿命があります。通常、12時間か24時間に一度電子ビームを入射して,運転を続けます。

放射光施設の光の性能は,ほぼこの3つのファクターで決まります。どんな電子を作って回すか,どんな磁石で光を作るか,どれだけ精度よく,高い真空度で,安定した運転ができるかです。その上に実験で使う光として加工する技術です。

ここで述べた放射光の性質という意味でいえば,SPring-8は問題なく世界一の装置です。世界一ということは,日本一です。それは,最高エネルギーにおいて,その輝度において,ビームの位置と時間変動に対する安定性においてです。これを支えている技術がいくつかあります。

荒田

具体的に説明して下さい。

宮野

(1)安定な電子を細く,かつ密度高く,エネルギーを8 GeVまで加速する加速器技術。

(2)様々なバンチモードとよばれる電子塊の並びと周り方を決める。

(3)30メートル長直線部を計画的にいれ、挿入光源として実際27メートルという長いアンジュレーターが入れられるなど,最後に設計した強みです。この長直線部のビームラインでは,XFELの試験研究を進められるほどのそろった光が作られています。

(4)蓄積リングを回っている電子密度が減っていかないように,正確に必要な電子を追加して運転するトップアップ運転とよばれる技術。そして,乱れた電子の塊をもう一度整形して安定化する技術と相まって,実験室のX線発生装置より安定な,24時間0.1%以内の安定性が達成されています。同時に,12時間ごとあるいは24時間ごとに実験が中断されていた電子入射のために放射光が止まることがない。
これだけの安定性があれば,タンパク質結晶構造解析のように長い時間データ測定が必要なときに,X線源の変化を考慮しなくてよいのです。

(5)挿入光源として世界一の真空封止アンジュレーターは,北村英男博士のお家芸で,これによって安定,かつ強力な光を,偏光の仕方や遠赤外光から堅いX線の短い波長まで自在に得ることができます。今回,レーザー発振に成功したXEFL SACLAの加速された電子がそろった光を作り出す真空アンジュレーターのギャップの狭さにより,ただでさえコンパクトな加速器からの電子ビームから,1オングストロームのレーザーを作ることができたのです。

(6)そして,BL32XUのマイクロフォーカスビームラインに使われているミラーは,ナノメーターレベルのシリコン結晶の表面の”でこぼこ”を原子1個レベルまで減らすことで達成したサブミクロンの大きさまで集光できるので,ビーム自体の安定性と相まって,非常に細く安定したX線のビームとして使うことができます。


つづく

by yojiarata | 2011-07-28 17:35 | Comments(0)

播磨の森にある大型放射光施設スプリング-8  Ⅵ


第Ⅵ話 つくばのPhoton factory (PF) との比較


荒田

ところで,SPring-8はつくばのフォトンファクトリー(Photon Factory,以下PFと略称)とどこがどう違うのでしょうか。

宮野

造った時代が違う。

エネルギーが違う。

エミッタンスが違う(細い)。これによって,膜タンパク質など,結晶が大きくなりにくく,回折しにくい結晶ほど差が歴然とします。

強さ(光の密度)が違う。

安定性が違う。

タンパク質結晶解析についていえば,日本の技術でできているSPring-8と国際標準ということでできているPFと極論できるかもしれません。

荒田

私が,1970代のはじめ,スタンフォードにいた頃,なんだかやたらに大きな物を山の方に作っていたのを記憶しています。あれは,SPring-8の昔版でしょうか

宮野

スタンフォード大学の西隣にあるSLAC(Stanford Linear Acceralater Center)のことですね。昔版という表現は言い得て妙です。SLACは歴史的に高エネルギー物理の中心の一つで,放射光施設というのはその出自から発展においていつも高エネルギー物理の恩恵から発展しています。そして,このSLACにもSSRL (Stanford Synchrotron Radiation Lightsource) というれっきとした伝統ある放射光施設があり,今も活躍しています。

そして,その先進性ということでいえば,X線レーザーを世界で初めて一昨年の春に成功したのは,ここSLACにあるLCLSです。日本のSACLAもドイツに建設中の
European XFEL
も原理は同じです。SSRLは,やはり第2世代とよばれ,フォトンファクトリー同様,生命科学の先端のターゲットであるGPCRの膜タンパク質,リボソームのような巨大タンパク質複合体結晶のスクリーニングに使われて,構造決定に使う回折データを取ろうという実験の本番は,マイクフォーカスビームラインとよばれる,より強く細いビームが使える第3世代の放射光施設のAPSとかESRFにいくようです。

マイクフォーカスビームラインは,スイスのポールシェラ−研究所(Paul Scherrer Institut PSI)にあるSLS(Swiss Light Source)とか,イギリスのラザフォードアップルトン研究所(Rutherford Appleton Laboratory RAL)にあるDLS(Diamond Light Source)にも建設されています。これらの放射光施設は,新しく、SLSはSPring-8と協力して真空封止アンジュレーターを開発しており,エネルギーは3GeV程度ですが,すべての光学性能が上がっていますので3.5世代とよばれることがあります。


つづく

by yojiarata | 2011-07-28 17:30 | Comments(0)

播磨の森にある大型放射光施設スプリング-8  Ⅶ


第Ⅶ話 SPring-8の世界的な位置付け


荒田

ヨーロッパ,アメリカなどを念頭に置いた場合,SPring-8はどのように位置付けられますか。

宮野

SPring-8と同じ大型放射光とよばれる大きな放射光施設が世界の三極に1箇所づつあります。つまり,日本,アメリカ,ヨーロッパですが,アメリカはシカゴ郊外にあるアルゴンヌ国立研究所にあるAPS(Advanced Photon Source)とよばれ,ヨーロッパは,フランスのグルノーブルにあるESRF(European Synchrotron Radiation Facility)とよばれています。

もしかしたら,その名前が愛称として親しみやすいものとなっているのが,SPring-8です。SPring-8を計画して造った人たちの気持ちの入れ込み方の表れかもしれません。ちなみに,最初に作られたESRFは6 GeVで,つぎにできたAPSは7 GeVで運転されています。

荒田

大勢の研究者(外国を含めて)がSPring-8を利用していると聞きましたが,今でもそうですか。

宮野

産業利用などの分野拡大努力、材料科学の解析の隆盛など
ユーザーは増え続けています。
実際、東大(東京大学放射光アウトステーション物質科学)、豊田中研(トヨタグループ)など日本の中核学術機関、企業が専用ビームラインをもつようになって来たことでもわかる様に、その利用分野自体が拡大しています。粉末X線回折のようにより一般化して、利用課題が増えすぎ採択率が低すぎるとの意見もで始めるほど分野によっては、ビームタイムが飽和しつつあります。ですが、一般の外国研究機関からの利用は特別な支援システムがないこともあって多いとはいえません。

とくに,民間企業による産業利用がSPring-8では2割を超えて,ほかの放射光施設のお手本となってきたようです。SPring-8 に、豊田中研などの企業が触媒のその場観察などを目指した独自の豊田ビームラインを作っていて,環境に優しい太陽光電池などエネルギー素子開発のための建設中のビームライン(先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームライン)ができています。

ライフサイエンスは,トップサイエンスを除けば,PFと2分しているといえるかもしれません。結晶構造解析には,SPring-8はもったいないと言い張る人もいるようです。私はSPring-8の主要な成果がタンパク質構造からも多いことからも、世界の趨勢からもわかるように大型放射光施設での重要な研究分野であって、決してもったいないなどということはないと信じています。

残念ながら,外国のユーザーは多くありません。

ただし,現在
東日本大震災の影響
でPFが使えないのでそのユーザーを引き受けているように,韓国の現在、改修のため止まっている放射光施設PLS(Pohang Light Source)のユーザーを両者の協力協定に従って引き受けています。これは,将来,SPring-8が改修で止まるときにはこちらがお願いしますという互恵関係です。

こうした協力関係は世界の放射光施設で進んでいます。

荒田

製薬会社関係では,20社が,それぞれ費用2000万円を負担して,ビームラインを借り切っていると,ある製薬会社の主任研究員の方から聞きました。

宮野

これは,「専用ビームライン」というシステムで,各企業がお金を出して,ビームライン(光を加工する光学ハッチから,実際に実験する装置のはいった実験ハッチまでのこと)の建設をして,10年間そのビームラインを運用するものです。

10年ごとに評価があり,継続すべきか審査されます。これらを審査する組織ができています。豊田中研なども同じ手続きでできており,東大のビームラインも同じことになります。もし,成果を公表(使った実験の内容)すれば費用を支払う必要がないことが法律により,定められています。

もし,公表しないで専有化するときはそのためのビーム使用料を支払う必要があります。この料金は,国際競争となっており,これらを勘案して決められています。PFとの最大の違いは,民間に対するものでしたが,国際競争環境の中で,それぞれの施設とって必要と考えられることは次々と取り入れられています。ですから放射光施設も協力と競争の中で運営されています。

荒田

ビームラインを多いほど,上等であるということになるのですか。

宮野

元々の高エネルギー物理学は,たぶん重力のよってくるところを担う素粒子を探すのが今の一番の課題でしょう。しかし,一度アメリカテキサスに建設される予定だったSSC (Superconducting Super Collider) が中止になったように,コストと実用性との狭間で問題が生じるほどに大きな装置となってきています。庶民の科学を支えられるビームラインがたくさんできるということは一本あたりの価格を安く抑えることができるということになります。

これに対して,XFELは同時には当面1本だけしか使えないので圧倒的にビームタイムが制限されます。行うべき科学の質も対象も自ずと変わらざるを得ないと思います。


つづく

by yojiarata | 2011-07-28 17:25 | Comments(0)

播磨の森にある大型放射光施設スプリング-8  Ⅷ


第Ⅷ話 SPring-8が使われる分野


荒田

SPring-8は,どのような目的に使われているか,データがありますか

宮野

あらゆる分野に使われています。バイオを含むいわゆるマテリアルサイエンスのすべてです。今は,考古学,環境科学へと利用が広がって来ています。
SPring-8学術成果集  “ゆめの光を使ってサイエンスの謎にのぞむ”SPring-8産業利用成果 (印刷物としてはJASRI広報から入手可)に代表的な成果がまとめられています。

荒田

現時点で,ビームラインは,全て,ユーザーが決まっているのでしょうか

宮野

あと数本残っていますが,専用ビームライン,共用ビームラインとよばれる課題申請をして採択されると使えるビームラインも老朽化,陳腐化がみられていますので,その作り替えも始まっています。

荒田

特別な“飛び込み”例えば,ハヤブサの資料の分析,ある種の犯罪捜査などのために,予備のビームラインが用意されているのですか。

宮野

予備のビームラインはありませんが,いろいろな形での余裕を作ろうとして,画一的な課題採択を,長期にわたり重点的に放射光を使って頂いて新たな可能性を開くための重点課題など、これまでの通常の申請課題の審査による課題採択以外にいくつか違うカテゴリーを作る,また,使う日時をユーザーが決められる時期指定課題などがあり,少しでも柔軟に対応しようとしています。しかし,公平性と透明性の議論がいつもあります。SPring-8は,悪平等にならないように,多くの工夫と努力がこれまでなされ,より,チャレンジできるように,また潜在的ユーザーをよび込むための無料で利用によって新しい価値を見いだせる可能性を秘めたユーザーに使ってもらう「トライアルユース」 が設定され,企業ユーザーを呼び込むことに成功した一因となっています。現在もよりよいシステムにしようと努力が続けられているのではないでしょうか。

とくに,事業仕分けで厳しい評価を得て以来は今までに増して,普通の人,国民に対する理解を得ようとする努力が続けられています。


つづく

by yojiarata | 2011-07-28 17:20 | Comments(0)

播磨の森にある大型放射光施設スプリング-8  Ⅸ


第Ⅸ話 SPring-8とX線結晶解析


荒田

X線結晶解析を目的にしたビームラインは何本くらい用意されているのでしょうか。

宮野

タンパク質結晶構造解析ということでいいますと,BL26B1/B2理研構造ゲノムI,IIビームライン,BL32B2 創薬産業ビームライン、BL32XU 理研ターゲットタンパクビームライン, BL38B1 構造生物IIIビームライン,BL40B2構造生物II ビームライン,BL41XU構造生物Iビームライン, BL44XU生体超分子複合体ビームライン(阪大蛋白研)でしょうか。それ以外,BL45XU理研小角用ビームライン,BL02B1/B2の単結晶と粉末結晶解析ビームラインなどマテリアル向けの結晶解析ビームラインがあります。 

荒田

X線結晶解析を行う場合,Spring-8が断然優れている点は何と何でしょうか。

宮野

結晶の大きさ,データ取得の早さ(損傷を低下させる),

細い上に強く,位置と強度が安定であることです。

荒田

膜タンパクなどの構造解析に使われている理由をお聞かせ下さい。

宮野

細く、強い光が安定して使えることです。強くないと,まず回折データを測定できません。

小さいマイクロ結晶には細いビームが必須で,細いビームには厳しい安定したビームの位置と強さの安定性が必須なのです。

清水信隆他 生物物理 50,306(2010)
五十嵐教之 日本蛋白質科学会アーカイブ#32 (2008)


荒田

専門家の意見をして,エッセンシャルなことを書いていただけないでしょうか。

宮野

結晶は,回折して強め合うことで初めて散乱光を観測できます。そのために結晶を使っているわけですが,膜タンパク質は,結晶が小さい。とくに最初の結晶は大きさがミクロン単位ですから,放射光ビームラインでないとそもそも評価出来ません。そしてビームが結晶の大きさに見合って細くないとバックグラウンドにしかならない部分での散乱が増えるだけです。だから,膜タンパク質の評価には,マイクロフォーカスビームラインが非常に良いのです。そのうえ,たとえ結晶がそれなりの大きさがあったとしても,均質な質を持つことはあまりない。つまり,良い場所で結晶回折データをとることができるほど細いビームラインであることが重要なのです。

また,放射線損傷については,これまで,電顕をやっていた元MRC—LMB所長のヘンダーソン博士が,ヘンダーソンリミットという生物由来物質の放射線損傷の限界を経験的に提唱してきましたが,これが実際的なマイクロフォーカスビームでは成立しないかもしれないということになりつつあります。つまり,損傷は,ビームが当たった後に生じる2次電子によるもので,その飛程より小さい1ミクロン程度の結晶ならばこれまで考えられていたより,長く持つという主張があります。

また,GPCRでよく使われる脂質の3次元構造であるキュービックフェーズを使った結晶化法では大きな結晶が育ちにくいのです。普通はせいぜい10ミクロンぐらいまでです。現在,SPring-8の理研マイクロフォーカスビームラインは実際に安定した1ミクロンビームを使うことができます。

荒田

今後,どのような方向に発展していくのでしょうか。X線結晶解析のほか,さまざまな分野の利用を含めて,知りたいのですが。

宮野

これは,何にでも使えるといえるのではないでしょうか。つまりは,強さと透過性そして,相互作用のユニークさをどう生かすかでしょう。エネルギーの低いところでは,水の構造を調べている辛教授のグループのような軟X線を使った励起のエネルギーを特定したスペクトロスコピーやいろいろなイメージングが可能です。できないことも多いですが,今では偏光X線を操ることができ,選択的励起と特異的観測ができるようになってきています。強度が強いとこれまで測定できなかったものまで可能になります。極限は,10億倍強い光が使えるXFELでしょうか。こちらは時間分解能が強い。最短時間はフェムトセカンド(10−15秒)ですから。

普通の結晶構造解析をすべきタンパク質はまだまだあります。結晶にならないと思われていたものも,結晶化して解けてきています。原子構造を基盤にした研究には,SPring-8のタンパク質結晶構造解析がずっと王道であると思います。


つづく

by yojiarata | 2011-07-28 17:15 | Comments(0)

播磨の森にある大型放射光施設スプリング-8  Ⅹ


第Ⅹ話 SPring-8を含む国家プロジェクトの今後

荒田

Spring-8の建設費,年間の運営費などは,すべて理研が面倒をみるのでしょうか。差し支えなければ,どれくらいお金がかかるものか知りたいのですが。

宮野

SPring-8の建設時と現在では,組織が変遷しています。最初は,理研と原研(当時は特殊法人)が共同チームを組んで作りました。できてからは,「共用法」という基本法により,(財) 高輝度光化学研究センター(JASRI)が設置され,運営と運用に当たりました。経営は,理研,原研そしてこのJASRIが三者で行ってきました。建設費はSPring-8 本体の建設費で1,000億円ぐらいと一口にいわれています。

運営費はそのほぼ一割,100億ぐらいでビームラインが増える中,減少傾向で推移しています。その後,原研が特殊法人改革の流れの中,経営から手を引き,2者体制になりました。さらに「共用法」が改訂され,理研1者体制になっています。JASRIはSPring-8に関する法律である「共用法」(特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律)改定により、登録法人となり,理研が行う毎年の契約の競争入札に応札して落札すれば運用を委託される立場になりました。組織論ははじめから複雑です。

そのために無駄になっているかどうか,それはなかなか難しいところですが,一般競争入札部分がどんどん増えてきています。それによる経費節減は進んでいます。どこまで絞ればよいかそれは難しいとことです。しかし,極論すれば国家存亡の危機の今,常に厳しく問われてしかるべき時代かもしれません。つまり,緊張して常に事に当たらなければ,国民の信頼をすぐに失いかねない,と言うことです。

この点からも,現在においても,共用ビームラインの課題選定は公平性と透明性を確保するために,運営を担当している理研とは独立したJASRIが直接,文科省から補助金を得て行っています。

独法化した理研の野依理事長のもとで,国家基幹技術の2つである「京」計算機とXFEL SACLAが大きな最初の関門を超えた今,真の存在価値が問われると思います。

注意すべきことは,ヒトゲノムの進展によって,10年たつ今,全ゲノム配列決定が医療などの発展の加速など、初期に期待した通りには応用開発に役立っていないと比較的ネガティブに評価されるように,SPring-8,SACLAによっていろいろな科学的事実が明らかになったからといって,社会の直面している課題を直接的に解決することにはならないだろうということです。なぜなら,解析的理解は進んでも,その現実的解決手段は別問題だからです。ゲノム解明により,遺伝子病がわかったからといって,満足のいく新たな治療法が見つかるかはほとんど別問題といっていいからです。病気の予測ばかりができて,治療法がない患者が増えることにもなり兼ねません。

つまり,これだけ企業ユーザー,そして応用研究が盛んになったSPring-8でさえ,短兵急な実用的産業上の成果を期待することは簡単ではないだろうと思います。その意味で,科学の社会的存在価値が問われると同様の疑問を大型科学研究施設であるSPring-8自身がまともに受けるだろうし,それに応えられないとしたら,まして答えるべき最大限の努力を払い続けないことには存続が難しい時代が続くのではないでしょうか。

荒田

宮野博士には,資料の収集,図の作成など,大変な時間と労力をおかけしました。また,この記事の作成の間, 多くのことを学びました。ここに宮野博士に心より御礼申し上げます。





by yojiarata | 2011-07-28 17:10 | Comments(0)