創薬・新版(2016) 日本の現状と将来 巻の1




ご隠居さん 今日のプログのタイトルは,どこかで見たような気がしますけど。

覚えていてくれましたか!

2011年時点での状況を,日本トップの製薬メーカーの一つ,現在の第一三共の前身である三共で創薬部門の総責任者であった平岡哲夫博士にお話をうかがい,2011年6月30日に, 【 創薬 日本の現状と将来 Ⅰ ー VI をこのブログに掲載しました。

この記事は,小生のブログの中で,最もアクセスが多いものの一つで,大変好評でした。



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● あれから5年以上が経過したいま,事態は大きく変わりました。創薬は,世の中の人々が,その進歩を最も強く待ち望んでいる分野ですからね。進歩も,従って競争も熾烈ですよ。

そのため,現在の日本,そして世界の動向を急いでまとめる必要を大いに感じているわけです。


● 今回も,平岡博士にこの世界の動きをうかがうことにしました。

前回のブログと同様,私が質問し,それに平岡博士に答えていただくという形式をとります。



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新薬の開発と薬価




荒田

今回もよろしくお願いします。


平岡

アスピリンに始まる近代医薬品は合成低分子医薬,植物由来の天然物医薬,抗生物質を中心とする微生物由来医薬品,現在隆盛をきわめる「抗体医薬」(すぐ後で説明します)などとして発展してきました。その歴史は輝かしく,人類の発展に華々しく貢献すると同時に科学の進歩にも多大の貢献をしています。


荒田

年々,よい薬が開発され,患者にとっては朗報です。それと同時に,物凄く高価になって大変ですね。


11月17日の朝日新聞(朝刊,3面)に,詳しい記事が掲載されているのを読みました。


オプジーボ 来年2月に半額

薬価制度 抜本見直しへ



薬価といっても,1年に5万,10万などとは桁違いです。この薬の場合は,患者1人で年間約3500万円(!!!)というではありませんか。

追々説明いただくとして,そのオプジーボというのは,一体何者ですか。

どのような経過で見つけられ,どのような病気に効くのでしょうか?


平岡

オプジーボは,化学的にはモノクローナル抗体です。作用メカニズムは免疫調節作用で,がん治療薬です。以後,「抗体医薬」とよぶことにします。

この薬の詳しい開発経緯は朝日新聞・平成28年9月25日の31面に図入りで,大きな長い記事で紹介されています。以下,要点を書きます。

治験は米国で2006年,日本で2008年に始まりました。2012年に米国での結果に世界中が驚きました。末期がん患者296人に約半年間投与すると,肺がんや皮膚がんの一種メラノーマ,肝臓がんの患者の各2-3割でがんが小さくなったのです。

抗体医薬「オプジーボ」は,2014年に日本で世界最初にメラノーマの治療薬として承認され,米国や欧州でも承認された。国内では2015年に肺がんの一部,今年に腎臓がんの一部も加わり,先月現在,54ヵ国で承認されています。

もう少し詳しいことは,この後で,追々述べていきます。

また,発見・開発の過程はすぐ後の「研究開発者は複雑です。・・・」の項目に記載します。


荒田

また後で追加の質問を致したく思います。価格の議論に戻ります。

世界的には,どのような状況でしょうか。


平岡

アメリカでも Skyrocketing Drug Prices とよばれて,問題になっています。


荒田

文字通り,「生きる」か,「お金が払えないで,生きるのを諦める」かの問題ですね。

どうしてこんなに高価なのかは,あとでうかがうとして,朝日新聞によれば,緊急的に50%引き下げられることが決まったとありますが,差額分はどこから持ってくるのでしょうか。


平岡

50%引き下げられた部分は売上高がその額だけ減少し,対応する経常利益がその分だけ減少します。


荒田

新しい薬を創るのに,巨費がかかると聞きましたが,例えば,オプジーボの場合,どうですか。


平岡

個々の薬の開発経費は各社秘密となっていますので不明です。

さらに抗体医薬一つの平均開発費も公表されていませんので,スパイ活動でもする以外に知る方法はありません。開発に関与した研究者でも知らないと思います。

厚労省に希望薬価の申請する時に研究費用,製造原価などを記載しなければなりませんので本社の限られた数の関係者は当然知っているはずです。


荒田

この薬は,日本の小野薬品で作られたと書いてあります。一方で,ブリストル・マイヤーズもかかわったと聞きましたが,両者の関係はどうなっているのでしょうか。


平岡

開発関係者は複雑です。

開発研究のおおもとは大学の基礎研究に発しています。1991年京都大学の本庶佑 ほんじょ・たすく 教授の研究室で細胞が自ら死を選ぶ 「アポトーシス」 という現象に関わる遺伝子を探している過程で一つの遺伝子が発見されました。この遺伝子は予定 (プログラム)された 細胞死(デス)の頭文字から「PD-1」と命名されました。

本庶教授は先代の教授が係わりを持っていた小野薬品工業と共同でこれに関する特許出願をしました。その後,種々の研究を経て免疫細胞である T 細胞上の PD-1 部分を抗体でブロックすると免疫細胞ががん細胞を攻撃し続けることが判明し,薬としての価値が認識されたのです(2002年)。

この当時,小野薬品は抗体開発の経験がなく自社単独での開発は無理と判断し,他の製薬会社十数社に共同開発を呼びかけたのですがすべて断られたと聞きました。

そこで抗体に強い米国のベンチャー企業「メダレックス社」と共同研究開発契約を締結し(2005年),開発が開始されました。2006年アメリカで臨床試験が開始され,2008年には日本でも臨床試験が始まりました。しかし「生き馬の目を抜く」ということわざがぴったりの出来事が起こりました。2009年,アメリカのブリストル・マイヤーズスクイブ が メダレックス社 を買収したのです。

従って オプジーボの開発は小野薬品工業-ブリストル・マイヤーズスクイブで進められ,現在も進行中です。



以上要するに,オプジーボは,PD-1 に対するモノクローナル抗体です。


荒田

オプジーボは,末期がん患者296人に約半年間投与すると,肺がんや皮膚がんの一種メラノーマ,肝臓がんの患者の各2-3割でがんが小さくななったという結果が報告されました。

私は,大学にいた頃,モノクローナル抗体と長年にわたって関わりました。一言で言えば,一種類のモノクローナル抗体は,複数の相手に結合するのです。その一方,ワクチンなどの抗体は,いずれも,ポリクローナル抗体です。つまり,多数のモノクローナル抗体が混じったものです。

私個人にとっては,重要なことですが,これ以上議論を始めると,一般の読者をいたずらに混乱させますので,話をここで止めておきます。


平岡

ここで,いくつか重要な点を述べておきたいと思います。

雑誌(月刊誌)の「選択」11月号の連載記事「企業研究」に小野薬品工業が取り上げられています (4ページの記事)。

小見出しは以下のとおりです。

・新薬バブル「暗転」で社業傾く三重苦

・致命的な副作用を見逃す形に

・競合薬の優位性を示す報告

・超高額薬剤費批判で「火だるま」に

・会社の浮沈はオプジーボしだい


オプジーボの薬価がスカイロケットとアメリカで言われていますが,日本では来年2月に半額に値下げすることが決定されています。この決定は政治的判断によるものです。


荒田

政治的判断というと,具体的には,どうゆうことでしょうか。何が実際に起きているのでしょうか。


平岡

薬価は2年ごとに見直し改定が行われますが,オプジーボは高すぎるとの批判があまりにも大きいのでこれには従わずに,早めにさげることと下げ幅などに政治的判断がくだされたのです。

私に言わせれば日本でも超高価と言われていますが,日本の薬価決定制度は現在透明性があります。厚生労働省が決定している訳ですが,薬価の決定方式が公表されています。パソコン検索で「新医薬品の薬価算定方式」と打ち込むと対応する方式を見ることが可能です。12ページにわたる PDF での説明にぜひ目をとおしていただきたいと思います。

いずれにしてもオプジーボのような高価薬は本人負担も大きいのですが,7割を負担する健康保険組合も破綻する可能性があります。

これまで,「抗体医薬」の原価につき「不明,スパイ活動でもしない限り,知るのは困難」と私は表現してきましたが,やっとオプジーボにつき知ることができました。すぐ後に書きますが,スパイ活動をしたわけではありません。

結論を申しますと,オプジーボの製造原価は1グラム180万円,1キログラム18億円です。製造総原価の 40% が製造原価です。

詳細を知るためには,次のウェブページをご覧ください。


高額医薬品 ニボルマブ(オプジーボ)の価格はどう決められたのか


荒田

小生,大学にいた頃,ある抗原に対するモノクローナル抗体を作っていましたが,1回の実験に必要な10 ミリグラム を作るのに,研究室の家計簿と相談しながらでしたから。


平岡

平成26年9月の新医薬品一覧表によりますと,点滴用の薬剤が,20mgで150,200円,100mgで729,849円です。「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんに対して 3 mg/kg(体重)を2週間間隔で点滴」とあります。


荒田

それは,経済的には恐ろしいことですね。

ところで,使用する薬剤の溶液の量は mg 単位で表現するのですか?


平岡

オプジーボ 3 mg/kg (体重) の意味は「体重50kg の患者には 3 mg × 50 = 150mg」 を点滴用の等張液に溶かして使用するという意味です。

点滴を行う約3-5リットルの瓶の底にオプジーボの粉末(20 mg または 100 mg)が入ったもの
を販売されています。そこに,注射用蒸留水(または等張液)を加えて溶かして点滴を行います。

または、小瓶にオプジーボが入っていてそれを少量の注射用蒸留水に溶かし,これを注射器で吸い取り,点滴用大瓶に移します。


荒田

これまで,「抗体医薬」として,オプジーボの名前が挙がってきたのですが,現時点では,「抗体医薬」としては,オプジーボ だけが存在するのでしょうか?


平岡

オプジーボの他にも,抗体医薬は多数(数十種)世の中にでています。昨年12月の米国化学会発行の週刊誌( Chemical & Engineering News )の記事では世界の薬の売上高のトップテンの半分は抗体医薬です(抗体医薬の価格が高いことも要因の一つです)。


荒田

最近の新聞記事から。


11月25日
販売急増した高価薬の価格
最大年4回改訂
厚労省方針


塩崎恭久厚生労働相は25日,販売額が急増した高額薬の値下げを最大で年4回実施する方針を明らかにした。薬価改定は現在,2年に1度行っているが,値下げする機会を増やす。高額ながん治療薬「オプジーボ」の緊急的な値下げを決めたことに伴う対応策とする。

塩崎氏がこの日の経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)で表明した。

値下げは,新薬を医療保険で使えるようにする機会ごとに検討する。もともとの薬価の決め方についても透明性を向上させるほか,薬の「費用対効果」を価格に反映させる仕組みの導入も加速させる。

安倍首相は「薬価制度の抜本改革に向けて,年内に基本方針をとりまとめるように」と関係閣僚に指示した。
 
患者1人で年間約3500万円かかるオプジーボは米国や英国の2~5倍高いことが問題視され,来年2月に緊急的に半額に値下げされる。



別の記事です。

急性リンパ性白血病の小児患者の染色体異常を調べてタイプを見分けることで治療期間を短くできる可能性があると,国立成育医療研究センターなどの研究チームが28日,発表した。患者によっては,従来は2年ほどかかる治療が1年余りとなり,負担を少なくできるという。

急性リンパ性白血病は小児がんの3割近くを占める。この病気の治療では,注射薬の抗がん剤を半年程度使用後に,飲み薬の抗がん剤を1年以上服用するのが一般的で,5年生存率は7~8割。飲み薬の期間が短いと再発リスクが高まり,長いと成長してから心機能などの障害リスクが高まるが,最適な服用期間がはっきりしない。

全国約60施設が参加する研究チームは,1992年~95年に治療を受け,飲み薬の期間が4~6カ月の151人について,がん細胞の全遺伝情報(ゲノム)を解析。その結果,特定の染色体異常(2種類)があった患者は再発なしの生存率が9割を超え,飲み薬の期間を短くできる可能性が浮かんだ。ほかの患者では5割程度だった。また,女性の方が男性より再発率が低かった。

国立成育医療研究センターの加藤元博医長は「性別や染色体異常の有無で,飲み薬の服用期間の判断材料が得られ,患者の負担を最小限にできる可能性がある」と話す。



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荒田

私は,1971年から2年間,スタンフォード大学のメディカルセンターの薬理学教室(オレッグ・ジャーデツキー教授の研究室)に客員助教授として滞在していました。その間,実に多くのことを学びました。中でも,ポール・バーク教授の講義にはショックを受けました。

「がん」というのは,もともと情報が「遺伝子」に組み込まれていて,何かのきっかけで発症するんだと仰いました。1972年ごろの講義だったと記憶しています。ポール・バークの陣頭指揮によって,遺伝子組み換え技術がアッという間に広まりました。その後のことは,皆さんがご存じの通りです。

「遺伝子とがん」は今や,世界のがん研究者が研究の芯に置いている事柄です。

アメリカのオバマ大統領は,Precision medicine こそが,我々が今後とるべき「がん対策」の主流になるべき戦略であると演説しました。


平岡

Precision medicineという言葉は2010年頃から目につくようになった言葉です。


荒田

NHK総合・11月20日21:00-21:50


がん治療革命が始まった

プレシジョン・メディシンの衝撃



が放映されました。

患者の遺伝子を解析し,最適な薬を選び出す新たな医療がプレシジョン・メディシン(精密医療)は,最新のがん治療薬との相乗効果によって,がん医療に大躍進をもたらすという期待が高まっているのです。


平岡

多くの制がん剤が開発されながらも薬では患者の完全治癒には残念ながら遠い状況は広く認識されています。しかし遺伝子解析方法が進展し,将来,がんは肺がん,乳がんなどの部位別の呼び名ではなく異常遺伝子,例えば,myc とか ras 遺伝子異常病などで分類される可能性があります。


荒田

以上の現状に鑑み,今後,創薬において,日本が採るべき方針について,コメントをお願いいたします。



今後,創薬において日本が採るべき方針



平岡

抗体医薬では,日本は将来予測の間違いから世界的に遅れをとり,それの回復に努力中という段階です。

現実問題としては,約10年前までは日本で抗体医薬を自社開発できるのは中外製薬と協和発酵キリンの2社しかなかったのです。そのため,オプジーボも残念ながらメダレックスとブリストルマイヤー・スクイブの関与がなければ小野薬品1社では開発できなかったのです。

現在は日本の大手製薬会社はベンチャー企業と組んで抗体医薬の自社開発も活発に進めています。そこで今後重要になるのは ADC 薬(Antibody Drug Conjugate)という抗体に目的作用を有する低分子薬を結合させた (背負わせた)薬です。

抗体が分子標的薬として細胞表面に取り付き,そこで低分子薬が放出され細胞内に入り効力を発揮します。しかし,この低分子を乗せる部分の化学構造式にすぐれたアイディアと技術を必要としています。即ち,高度な目的を持った DDS(Drug Delivery System)の開発が必要となります。


次いで重要と考えられるのはやはり優れた「制がん剤」の開発です。

がんは遺伝子の異常により発生することを考えるといわゆる特効薬の開発はそうやさしくはありませんがその努力は続けるべきです。しかし,がんは遺伝子の異常により発生することを考えるとこのブログの最後の方で述べる CRISPR/Cas9 などによる薬ではない遺伝子治療が主流になる可能性が高いかもしれません。

いわゆる難病に対する薬の開発も重要とみなされますが,これも全部ではないにしても遺伝子治療が重要になってくると予想されます。

抗生物質は耐性菌感染以外は現在あまり話題となりません。しかし,常に耐性菌の出現の問題があるのでそれへの対応は考えておかなければなりません。

抗ウィルス薬研究は将来も重要であることには変わりはありませんが,最近の米国ギリアード社の C型肝炎治療薬成功例をみるとその方向性はみえてきていると思われます。

この項目最後に,薬本体ではありませんが,ADC 薬のところでふれた DDS(Drug Delivery System)の更なる発展が望まれます。とくに,血液脳関門を突破して脳内に薬を運搬する方法の研究の進展が重要です。



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ここで,低分子,中分子,高分子の3領域に広くかかわるタンパク質ータンパク質相互作用阻害剤についてふれておきたいと思います。
  
現在,薬として最も注目され,汎用されている「抗体医薬」の中にはタンパク質ータンパク質相互作用阻害薬( PPI:Protein-Protein Inhibitor )が存在します。しかしながら,この薬は生体内の細胞膜表面のタンパク質に作用する化合物群です。

細胞内では多くの数のタンパク質が種々の相互作用をして生体の恒常性を維持しています。病気の一部の治療ではどうしても細胞内のタンパク質-タンパク質相互作用阻害剤が必要となります。そのため,一義的には細胞膜を通過する能力を持つ低分子薬が候補化合物となります。

中分子,高分子でも細胞膜を通過する何らかの工夫が施されていればかまいませんが,現在その技術が一般的には開発されていません。ですから,英語でdruggable PPIという言葉が使用され,それに対応する候補化合物は当然,低分子化合物ということになります。

しかし薬としての能力を持った(druggable)PPIを作るには幾多のハードルがあります。まず最初に考えられる難問は高分子であるタンバク質同士の接触面が大きければ低分子化合物でそれを阻止はすることは困難です。タンパク質間の接触面として実際には次の3種類が想定されています。

すなわち,

(i) 接触界面の広いタイプ

(ii) 界面は狭いが明確な二次構造が無いタイプ

(iii) 接触面が比較的小さく,かつ明瞭な二次構造を有するタイプ(例えば,片方のタンパク質が α-helix 構造)などです。

これらの点を考慮すると,低分子薬で PPI を作る困難さが理解されると思います。したがって,「一般化できない点が PPI 阻害薬設計の難しさ」などと言われています。勿論,大手の製薬会社,ベンチャー企業,大学でも活発に研究が行われており細胞膜を通過する低分子 PPI が世に現れる時代がいずれはくると考えられます。



ノーベル賞と創薬



荒田

ノーベル賞の関連で,議論すると,今まで見えてこなかった創薬の新しい一面が見えてくるような気がします。


平岡

新しい画期的新薬を発見・開発した人にノーベル賞がでた事例はペニシリンの発見,結核の特効薬ストレプトマイシンの発見など,過去には多くの事例があります。

しかし,1960年代以降は新薬の開発に対してのノーベル賞は出なくなりました。これには医薬以外での治療法の進歩などがあることなど種々の要因が考えられます。しかし,2015年のノーベル生理学・医学賞は熱帯地方の感染症の特効薬の開発で大村智・北里大学特別栄誉教授が受賞されました。それ故,新薬開発でも以前と同じく本当に画期的新薬であればノーベル賞がでることが改めて確認されました。

ここからは新薬ではありませんが創薬にも大きく寄与するであろうと考えられ,ノーベル賞受賞が確実といわれている新しい遺伝子編集技術の最近の事例を紹介しましょう。

明治時代の初頭に「ざんぎり頭を叩いてみれば文明開化の音がする」という言葉が流行したそうですが,現在は「生物関係学者の頭を叩いてみれば CRISPR / Cas9(クリスパー・キャスナイン)の音がする」というのが現状です。

この「ゲノム編集」方法の有用性(迅速,簡便,画期的)が認識・普及し,大学とか企業の研究室でも汎用されるようになり,毎週発行の有名学術誌にもこの方法を利用した研究がかなり掲載されています。俗な言い方をすれば「遺伝子の切った貼った」の非常に有用な方法です。

創薬研究にも勿論貢献し始めています。それ故,昨年くらいから発明者へのノーベル賞受賞が話題となり始めました。結論はいずれにしても将来100% 受賞確実というものです。ところが「好事魔多し」という諺の如く実はこの発明者をめぐり現在特許紛争が起きているのです。

この CRISPR / Cas9 というゲノム編集技術は2012年6月,米国 California 大学 Berkeley 校の Jenifer A.Doudna (女性)とスウェーデン Umea University の Emmanuelle Charpentier (女性)らが Science 誌 のオンライン版で論文を発表したものです。その後,約半年遅れて2013年1月米国 Massachusetts Institute of Technology (MIT) Broad 研究所 の Feng Zhang らが ヒトやマウスの細胞において CRISPR / Cas9 の有用性を示す論文を発表したのです。

しかし特許については,MIT の Zhang が有利ともいわれており,複雑な事態が進行しています。特許においては 先願主義(先に出願した方が勝ち)と先発明主義(実験ノートを調べて実験がなされた日付が早い方が勝ち)の両方が存在し,米国は先発明主義をとる国ですので,MIT の Zhang が有利ともみなされます。いずれにしても,毎週,毎月発行される学術雑誌での論文では Zhangではなく Daudna の Science 誌 の論文が引用文献として記載されており,将来,ノーベル賞受賞者がどうなるかは不明です。




つづく

by yojiarata | 2016-12-08 22:37 | Comments(0)
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