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理化学研究所  その実像と虚像  巻の四






理事長の交代と理研の改革



今のままでは,いくら理事長が交代しても,理研が抱えている問題の根本的な解決にはならないと思います。何故か。私の考えを以下に述べます。


理化学研究所の理事長に 4月1日付で,松本紘(ひろし)前京都大学総長(72)が就任されました。


さらに,4月10日の新聞に,小保方事件の舞台となった神戸市の理化学研究所多細胞システム形成研究センター(CDB)のセンター長に,4月1日付で,浜田博司 はまだ ひろし 博士が就任されたとあります。


「研究者採用では幹部だけではなく若手の意見も聞いていく。不正が二度と起こらないようにし,すばらしい研究成果を発信したい」

 
期待しましょう。


*



松本新理事長のお言葉が新聞に掲載されています。重要な点を拾ってみます。


大きな見出し


STAP幕引き

「新法人」に視線

理研・松本理事長就任 政府と共同歩調




*



政府と共同歩調というのは,何でしょうね?

日本で唯一の国立研究開発法人にしていただいた文部科学省に, 借りを返す ということなんでしょうか?





続いて,新聞によると,こうなっています。



松本氏はSTAP論文問題を受けた理研改革の道筋はついたとし,世界的な研究機関にする意欲を示した。科学技術の成長戦略への活用を狙う政府も,研究力を高めるため理研を優遇する制度の導入に動き,STAP問題の幕引きが急速に進む。


論文問題については,外部有識者委員会による「改革の道筋がついた」との評価書を引き合いに,真相究明はこれ以上しない姿勢を示し「粛々と対応したい」 と繰り返した。



粛々だなんて,菅官房長官じゃないけど,政治家が好んで使う滑稽な表現ですよ。噴飯ものですね。この部分を読んだだけで,コリャダメだと思いました。直観的に。その内,粛々が流行語になって,中学の学芸会なんかに使われ始めるかも知れませんよ。その時は,大爆笑間違いなしですね。




新聞記事は次のように続きます。




政府が,世界最高水準の研究機関作りに欠かせないと考えるのが,理研と産業技術総合研究所の新法人への移行。トップの判断で,研究者の給与を厚遇して国内外の優秀な研究者を集め,厳しい成果主義も導入できるようになる。


何を根拠に,こんなことを仰るんでしょうね。

 
ただ,STAP論文問題は行きすぎた成果主義が背景とも指摘される。松本氏は「研究者の豊かな発想は重要だ。成果主義でなく好奇心。そこが重要だ」と語った。



組織を運営する側が常に念頭におくべき,哲学の徹底的な議論がこれまでに全くなかったなど,問題の根深さの認識が欠如していますね。





どうして,こんなことになったのか



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野依良治・理研・前理事長 (平成27年3月23日)



ひとことで言えば,理研所内でのサイエンスに関する情報のやりとりが不十分だったという点に注目すべきですね。理事長をお殿様だとすれば,” よきに計らえ ” では困るでしょう。


前・理事長が有機化学,新・理事長は超高層電波の専門家だから,ご両人とも,例えば,タンパク 質にしても,STAP細胞にしても, 我が指の感触 が皆無なのです。耳学問の知識 だけしかないのですからね。


そうなると,理事長の仰る世界的な業績を上げるためには,組織の長たるもの,指揮系統を明確にしなければまずいのではないでしょうか。


理研なら理事長,企業なら社長だけではありません。組織内に点在する,いわば一里塚で仕事をしている人などが重要な役割を果たすことが多いのです。



組織の中の重要拠点を網の目のようにつなぐ柔軟でダイナミックなネットワーク を構築することが必須ですよ。組織を高いレベルで動かすでは,聞く耳をもたない,感度不良のメンバーは役に立ちません。


「巻の一」に掲載した理研の資料の中の7枚目の図  理研 の 統治体制 をみながら,もう一度,私がすぐ上に述べた部分を読み直してください。

統治体制 なんて,日中戦争から太平洋戦争にかけての嫌な出来事がふと頭に浮かぶ気持ちの悪い言葉ですね。詞は怖ろしいけど,理研の最大の問題点は,まさにこの部分が全く機能していないことだと,私は思っています。


スポーツでいえば,現場を広い視点で取り仕切る監督,コーチの存在が重要です。


アメリカン・フットボールのテレビ中継を見ていてすぐに気が付くことがあります。グランドにいて指揮を執るヘッド・コーチがヘッド・ホーンを付けて,つねに,上の方を見ているでしょう。あれは,競技場のはるかに上に設置された席から,オフェンス,ディフェンス全選手の動きをヘッド・コーチに,間断なく伝えられています。つまり,試合に関する情報がつねにチーム全員に流れているのです。


要は,大きな組織をまともに動かすためには,十分に広い視点に立った判断が必須なのです。


ここで強調しておきたいことがあります。それは,いま議論している問題は,理研にだけ当てはまるもの
ではないということです。


企業では,利益を上げないと倒産してしまいますから,社長以下全社員が必死に働いています。ところが,官庁の職員の場合は,必ずしもそうではありません。親方日の丸 というではありませんか。

蛇足ながら,広辞苑には,

(親方は国家であるの意) つぶれる心配がないということから,公共企業体などの経営が,ともすると安易になりがちであることにいう。


と書いてあります。


*



以上の点に関連して,次のエピソードについて書いておかなければなりません。


その昔,阪神タイガースのあるピッチャーが,チームの連敗が続いているとき,


”上がアホなチーム” では,まともな野球はやっていられないと言ってクビになりました。どうも,これはマスコミがでっち上げた作り話らしいんですけど,”上がアホ” なチームでは,まともな野球はできない” というのは,言い得て妙 と感心したものです。



上に立つ人に要求される資質については, 勝海舟 がこんなこと言ったと記録は伝えています。



【ここにおかしな話がある。何も時事を諷するわけではないが,おれが始めて亜米利加へ行って帰朝した時に,御老中から,「その方は一種の眼光を具えた人物であるから,さだめて異国へ渡りてから,何か目をつけたことあろう。つまびらかに言上せよ」とのことであった。そこでおれは,「人間のすることは,古今東西同じもので,亜米利加とて別に変わったことはありません」と言って,再三再四問われるから,おれも,「さよう,少し目につきましたのは,亜米利加では,政府でも民間でも,およそ人の上に立つものは,皆その地位相応に怜悧でございます。この点ばかりは,全くわが国と反対のように思いまする」と言ったら,御老中が目を丸くして,「この無礼者控えおろう」と叱ったっけ。ハハハハハ。】


高野澄(編訳)『勝海舟文言抄』 (徳間書店,1974,238ページ)




ところで,前・理事長は,辞任にあたって,つぎのように仰ったそうです。



「(研究不正が原因で) 組織の長が引責辞任した例は皆無だ」 と述べ,STAP 論文問題での引責辞任を暗に否定した。


野依氏は研究不正の最大の責任者を 「現場の研究者たち」 と指摘。理研としての対応の遅れや説明不足が批判された点は 「最善を尽くしてきた。ただ,科学的な検証に(必要な時間) と一般社会の求めるスピード感に乖離 かいり があった」と釈明した。当初の不正調査が不十分で,再調査に追い込まれたことについては 「もっと早く(本格調査を)やった方がよかった」 と述べた。



こんなことを,公の場で言っていいのでしょうかね。現場の優秀な研究者たちは気分を害すると思いますよ。研究者には,プライドというものがあることくらい,理事長自身がよく御存じのはずですからね。理事長には,指揮官たる者の哲学が欠如しているんじゃないでしょうか。上に立つ管理者の責任。これは,中学生,高校生でも理解できる世の中の常識ですよ。



野依氏はさらに続けて,こう言っておられます。


これまでの調査で,STAP 細胞とされたものは 別の万能細胞である ES 細胞が混入した可能性が高いことがわかっている。詳しい経緯は未解明のままだが,さらなる調査などはしない。この点については 「詳細をつまびらかにするのも大事だが,全貌 ぜんぼう がどうだったのかが大事だ」 と説明した。


*



余計なことかもしれませんが,「巻の一」に収載した理研の最初の図 【 歴史と伝統 】 に,野依良治・前理事長が入っていません?というより,本年度版の理研のウェッブ・ページのどこを探しても,前理事長のお名前も写真も見当たらないのです。

官僚というのは,冷たいものですね。何だか,怖い気がします。ものごとには,善くも悪くも,礼儀というものがあるんじゃありませんかね。



*



次も,新聞記事からの引用です。


下村博文文部科学相は23日,野依氏の会見に先立って理研本部を視察し,新設された研究倫理教育の責任者らと意見交換。終了後,「理研改革については一定のメ ド がたった」と評価した。ただ,予算などをより自由に使えるよう優遇する新制度 「特定国立研究開発法人」 への指定については,「関係省庁や与党関係とのトータル的な判断。いつまでに,と言えない」 と述べた。


*



すでに,「巻の一」の冒頭に明記したように,下村氏の発言の1週間後の4月1日付けで,理研は新制度「特定国立研究開発法人」に指定されました。すべての筋書きがとっくに出来ていたちょうどその頃,小保方事件が起きて世間の注目を集めて大騒ぎになりました。



私が週に2回通っている 後期高齢者のためのリハビリ施設 でも,小保方事件の話題で持切りでした。



理研って何なの。

私たちの懐から出て行った税金を使っているんでしょう。

小保方さんは,可愛いけど,どんな悪いことをしたの。一生懸命に研究所に尽くしていたのに,追放するなんて可哀相じゃありませんか。

あの先生(偉いんでしょう)が亡くなったことと,小保方さんはどんな関係があるのかしら,もしかしたら,・・・・・ ? ・・・・・  

 

おば様方(全員,推定年齢80歳以上,肩,足,腰 などに問題をかかえておられますが,頭の方は,皆さん,シャープです)の仰ることは,世間で広まっている「うわさ話」を代表するものではないかと感じた次第です。なお,おじ様方は全員,黙って聞いておられるだけでした。男性は,年齢を重ねると,優しくなるというか,人間が練れてくるというか,ということでしょうか。



文科省も理研も,大いに慌てたことは容易に想像されます。

「火の無い所に煙は立たぬ」といいますが,何らかの力学が働いたとみえて,” 事件 ” は 闇の中に葬られました。「大山鳴動して鼠一匹」のたとえ通りでした。



ともあれ,全ては終わりました。


世の中の人々は,何が何だか分らず,ただ唖然としました。

文科省でも,理研でも,一同,やれやれと胸を撫で下ろしました。




*




STAP細胞事件というのは,一体何だったのか。


実験化学の分野にあって,物理化学を専攻して 50年余りの私は,細胞生物学に関する 我が指の感触 が全くありません。したがって,小保方事件のサイエンスについては論評するなど到底できません。


次の著書は,大学で物理学を専攻した毎日新聞の記者・須田桃子さんが執筆されたものです。須田さんにも,「我が指の感触」 はないと思いますが,新聞記者として,物凄い勢いで走り回って取材されています。小保方さんの ” 研究 ” がどのように進められるについて知る上で,非常に参考になります。


須田桃子〖捏造の科学者 STAP 細胞事件〗(文藝春秋,2015年3月10日,第5刷)



しかし,須田さんの著書によって,研究の経緯は分りますが,STAP 細胞事件とは一体何だったのかについては,全てが 闇の中です。


地底で何かが不気味にゴソゴソ動いているのか,否,何もないなど,事件直後には,様々な憶測が飛び交いました。


例えば,昨年 (2014年),「新潮45」に連載されていた記事が,本にまとめられて出版されました。

小畑 峰太郎〖STAP細胞に群がった悪いヤツら〗 (新潮社,2014年11月27日)

あまり穏やかでない題名ですけど,事件に関心のある方はサッと目を通しておいても無駄にはならないのではないでしょうか。


なお,理研は所外宛に,次の二つのウェブ・サイトを公開しています。


STAP細胞に関する一連の対応等について


昨年度(2014年)の理研所内で行なわれた対応,とくに,
運営・改革モニタリング委員会による評価の結果について






*



また,安倍内閣のことを話題にします。国立大学は,如何なる分野であれ,基礎,応用研究を行い,将来を担う研究者を養成するという重要な使命をもっているからです。


今日(4月10日)の朝刊に,大きな字で


国旗国歌 国立大に要請へ
首相答弁受け文科省



と書いてあります。


下村氏は,「国旗国歌法が施行されたことを踏まえ,各大学で適切な対応がとられるよう要請したい」と記者団に話したそうです。安倍総理大臣が,国会で,「国立大学の入学式や卒業式での国旗掲揚や国歌斉唱について,「正しく実施されるべきだ」 と述べたことによるそうです。


総理大臣の言葉をそれをそのまま,鸚鵡返し おうむ‐がえし に記者団に喋る文部科学大臣をみるのも悲しいですよ。これは,「言うことを聞かないと,予算などの不利益が貴殿の大学に降り掛かるぞ」 という脅しですからね。


それに,今日観たテレビのニュースによると,国立大学を大改革するそうですね。なんでも,大学を 3種類 に分類するとか ・・・・・ 現時点 (平成27年4月15日 夜10時)では,詳細不明。


追記( 4月16日 午後4時 )


ウェブに,4月15日の新聞記事から引用されています。


政府が成長戦略の柱として,国立大学の改革を進めるための「経営力戦略」を策定。


全国86大学は,それぞれの目指す姿を 「世界と戦う」 「特定分野で差別化」 「地域貢献」 の三つから選び,運営する。国が各大学の取り組みを評価し,交付金の配分にメリハリをつけることで競争を促す。


15日の政府の産業競争力会議で原案が示され(筆者注 私が見たのは,この時の記者会見だったようです),今夏にまとめる成長戦略に盛り込む。2016年度からの実施を目指す。



*



産業競争力会議のメンバー は,ウェブに掲載されています。総理大臣が指名した閣僚,官僚のほかは,「有識者」の集まりです。大会社の会長,社長などのほか,大学の先生がお一人,それと,大学の先生で 元・閣僚 (つまり,身内の先生) お一人が,お刺身のつまのように加わっておられます。

国立大学を改革するなんて。軽はずみな行動には賛成できません。こんな大事なことに手をつけるために,今の内閣で委員会を作るとすれば,しばしば利用される「有識者」ばかりが委員に選ばれるのは必定です。


総理大臣も調子に乗りすぎているんじゃありませんかね。



嫌な時代になって来ましたね。





つづく













































































by yojiarata | 2015-04-18 23:53
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