ヘリウムガスと液体ヘリウム 拡大する利用範囲とそれを巡る国際戦略  その3




ヘリウムガスの回収


荒田

液体から,ガスになってしまったガスは,回収して再利用出来ないのでしょうか。

山本

技術的には可能です。ヘリウムが使われ始めたのは,最初は物性研究などで,大学や国立の研究所が中心でした。1960年代,当時の金額で1L あたり 1万円 以上の値段だったと聞いています。大きなゴム風船に入れて回収して,それを低温センターに持ち込んで,再液化していたそうです。液化機は,ヨーロッパの会社の独壇場です。その一つは カール・フォン・リンデ の名前を冠する LINDE という会社です。

装置1台の金額が億単位であることと,回収ラインの設置にも大きな金額が必要なので,相対的に金額が低下した昨今では,回収はあまり行われていません。特に,大量に使用する光ファイバーや半導体の製造ではコストを算定した上で,ヘリウムの回収は行っていません。熾烈な価格競争に晒される,半導体産業は,短期間で投資を回収させる宿命をおびています。長期的な投資を考慮して,会社が倒産しては元も子もないので,致し方無いと思います。

できれば,半導体産業で排出するヘリウムガスを回収業者が買い取り,再利用するか,他の産業へ振り向けるような社会的な仕組みがあれば,資源の乏しいけれど,ハイテクの国である日本を活性化できるのではないかと思います。ペットボトルやアルミ缶の回収も良いのですが,ヘリウムは代替がきかない物質なので,なおさらです。


ヘリウムが最も大量に利用されている分野


荒田

MRI や リニア・モータ―を動かすには,大量の液体ヘリウムが消費されると想像されますが,具体的に説明していただけませんか。

山本

次の図をご覧ください。

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2012年の統計によれば,日本へ輸入された1600万㎥ の 約 60% はMRI で使用されています。世界的には約10%の消費量で,ダントツはアメリカの50%弱です。最近は中国の発展が目につきます。ここ数年、ヘリウムの再凝縮が可能な冷凍機付磁石に徐々に置き換わっていますが,まだ多くのMRI は自然蒸発させています。冷凍機が装備されていても,1-2年に一度,コールドヘッドの交換作業や,電気設備の法定定期検査などで電気が停止すると,その都度ヘリウムの充填が必要です。

荒田

リニア・モーターの場合はいかがですか。
 

山本

リニア・モーター に使用するのは,軌道(線路)では無く,車両に搭載している浮上用の超伝導磁石です。この場合,ヘリウムはリサイクルを前提で運転されます。

リニア・モーターに使用するのは,軌道(線路)では無く,車両に搭載している浮上用の超伝導磁石です。時速500Kmを超える速度で,超伝導を保つ技術は,航空機に適用されるような安全性,あるいはそれ以上の安全性を確保せねばなりません。

安全性の観点からいえば,怖ろしいのは,液体ヘリウムが突然,ヘリウムガスに変わるクエンチです。 クエンチの様子は,YouTube に動画がアップされています。クエンチの原因をアニメで説明した上で,ブルカー・バイオスピンのチューリッヒ工場で起こった 700 MHz (分析用)装置のクエンチ動画を再現していますのでご覧ください。

リニア新幹線は,スピード相応の制動技術が鍵を握ると思います。クエンチが起きても脱線しないように,多くの安全対策がとられますが,これが,ヘリウム消費量と相反することが多々あります。

例えば,ヘリウムを入れる真空断熱容器ですが,振動に対して強度を持たせるには,内部の支持構造を増やすことになり,これが熱伝導の原因となります。クエンチに対しても,コイルを複数とし,独立の容器に入れるなどの工夫をすると思いますが,構造を複雑にして,結果,消費量が増加します。リサイクルを行うには,大電力を消費する冷凍機が必要なので,その冷却にもエネルギーを必要とします。


ヘリウムの枯渇 その可能性


荒田

天然資源としてのヘリウムは,石油などと同様,いずれは枯渇するのでしょうか。何年くらい,供給は続くとお考えですか。ヘリウムがなくなり,MRI が使えなくなると大変なことになります。

山本

何時まで,ヘリウムがもつのか? これは難しい質問です。

私の子供時代から,石油は30年で枯渇すると言われ続けています。この30年というのは,微妙な長さで,100年ですとあまり,危機感を煽ることはできませんし,10年位だと,言った本人が責任を追及される恐れがある長さです。30年と言っておけば,適当に危機感を演出できて且つ間違えても,30年後では言った本人が生存していないか,忘れ去られているでしょう。

石油の場合は,掘削技術の進歩と,人工衛星を利用した探査技術の進歩で随分と長持ちしています。ヘリウムの場合は,有限であることは事実ですが,採掘できるガス田が限られているので,更に条件が厳しくなります。

以前は,ヘリウムの含有率が,0.3% が損益分岐,つまり商売として成立するかどうかの目安とされてきましたが,最近の冷凍技術の発達で,0.1%でも良いと言われています。

ヘリウムの場合,大きく状況が変化したのは,アメリカの「シェール革命」です。なぜかと言いますと,これまでヘリウムはLNG(液化天然ガス)の副産物として製造されていたことにあります。残念ながらシェール層からヘリウムガスは産出しません。0.1%の損益分岐は,これまでのLNG 価格を元にしているので,LNG 価格が大きく下落した現在では,メジャーとよばれている石油資本は,従来の高価な天然ガス田に投資をしなくなります。今後は,非常に高価になってしまった天然ガスの差額を,ヘリウムガスに上乗せすることが十分に考えられます。

2013年6月30日朝日新聞朝刊の11面に,「シェール革命」とアメリカ経済に関する記事が掲載されていますので,ご参照ください。

「カタール2プラント」の実稼働や,ヘリウムの値段が上昇して,極東ロシアのガス田が開発されれば,枯渇はしないと思います。

また,コンパクトで安価なヘリウム液化装置が実用化されれば,回収率も上がり,消費量の減少で枯渇を防げる可能性は高いと考えます。

最近のヘリウム危機が,これまで,単純なコスト計算だけで,無尽蔵にある資源と思い込み,あまりに無頓着に捨てていたことを,気付かせたことになります。

アメリカ内務省の研究機関である
USGS (United States Geological Survey) の1012年報告
で,可採量として40億㎥ とされています。

同年の総産出量が1億3千500万㎥ なので,約30年の可採となりますが偶然でしょうか?

石油の場合は,掘削技術の進歩と,人工衛星を利用した探査技術の進歩で 随分と長持ちしています。ヘリウムの場合も,有限であることは事実ですし,採掘できるガス田が限られているので,条件は厳しくなります。

アメリカ以外では、アルジェリアの予想埋蔵量が18億㎥ です。カタールの埋蔵量もアメリカと同程度と見積もられており,これにロシアの東シベリアのガス田が実現すれば,量的には100年以上はもつ計算です。

シベリアの奥地にあるチャヤンダガス田には,0.58%のヘリウム含有率のLNGが1.24 兆㎥ あると予測されています。(ガスレビュー 1012年 NO.749)

ロシアの地下資源開発は,多分に政治色の強い計画に思えます。アメリカのシェール革命によるLNG増産で,これまでアメリカへ輸出していた中東のガスが,ヨーロッパに輸出され,その分,ロシアからの輸出が減少しています。これまで,パイプラインを通して,エネルギー外交で優位にあったロシア政府が,危機感をもって,アジアへの進出を模索しているようです。エアーリキード,リンデ,大陽日酸がヘリウムの共同開発を名乗り出ています。ただし,実現可能としても,5年以上は時間がかかると見られているようです。

続いて,アメリカ議会の動きに触れたいと思います。

2015年で終了するBLMのヘリウム販売法ですが,この対策として2012年5月にアメリカ議会上院でHelium Stewardship Act of 2013 という法案が提出されました。公聴会の模様はウェッブで見ることができます。

国家の重要な案件が審議される模様が見られる ので,その意味でも興味深いです。ヘリウムに関わる多くの分野から人を集めて,法案を作っていく様子はアメリカの社会そのものです。当然,利害関係はあるので,それぞれの立場がありますが,ヘリウムを最大限に活用して行こうという点で一致しており,アメリカという国のしたたかさを見る思いがします。研究者の代表も当然ですが発言しています。

この結果,備蓄量を見ながら,ヘリウム供給を継続させるという方向に進みました。更に,今年の2月には ”Responsible Helium Administration and Steward Act” が提出され審議中です。ヘリウムの問題とは離れますが,法案がどうやって審議され,どの議員が賛成,反対,棄権したかまで,ウエッブで 追跡可能です。こういった組織,体制が背景にあれば,研究者は心強いと思います。




つづく

by yojiarata | 2013-06-27 16:42 | Comments(0)
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