ヘリウムガスと液体ヘリウム 拡大する利用範囲とそれを巡る国際戦略  その2



天然資源としてのヘリウム



荒田

ヘリウムガスは,世界のどこで,どれくらいの量,産出しているのかをまとめていただけませんか。

山本

2012年の統計によれば,ヘリウムガスは,全世界で 約1億6千万㎥ 生産されました。

このうち,ほぼ4分の3はアメリカです。その他,カタール,アルジェリアのガス田でもある程度の生産量があります。ヘリウムは戦略物資なので,旧共産圏のロシア,ポーランドでも少量ですが生産されています。

岩谷産業のウエッブ・ページには,

アルジェリア 11%, カタール 7%, ロシア 4%, ポーランド 2% 

と記載されています。

アジアでは,ヘリウムは生産されておらず,ほぼ100%アメリカからの輸入に頼っています。

このように,ヘリウムは、日本が100%輸入に依存する天然資源です。

石油,石炭,天然ガスなどと異なり,ヘリウムの性質上 ,備蓄も技術的には可能ですが,コストがかかり過ぎます。

95%以上をアメリカから輸入していますが,ISO規格とよばれる液体用のコンテナ船で西海岸から日本の港に輸入されます。港を出て,日本のガス業者が受け取るのに2週間程度の時間を要します。この間,容器の圧力が高くなるので,ヘリウムの受け入れ施設でガスヘリウムを抜く作業を1週間程度行います。

大型のISOコンテナーですと液体窒素層を持っています。ISOと言いつつ,設計単位は1万ガロン(38KL)で長さは40ftです。低温デュワーの製造は,ヤードポンド法で行われています。

ガスは半導体産業でそのまま使用されるので,高圧ボンベに詰め替えて販売されます。液化機施設を持っている場合には,ガスで購入して,自分のところで液化して使用することもあります。しかし,液化機そのものが,巨大設備(回収ラインなどの,インフラを含めると数億円単位の投資が必要)なので,利用が限られています。日本の供給不足を補うことが期待されている「カタール2プラント」 ですが,輸送期間が直行便でも,3週間程度かかるので,高圧に耐える新型容器を使用するとはいえ,歩留まりが低下して,結局コストに反映されます。

ヘリウム供給に関して懸念されていることは,最近の「シェール革命」です。残念ながら,シェール層には,高濃度のヘリウムは含有されていません。この点が,現在のヘリウム供給に大きな影響を及ぼすことになりました。

もともと,ヘリウムは液化天然ガス(LNG)の副産物として生産されてきました。それが,ここ数年で,数分の一以下のコストで採掘できるシェールガスに置き換わりつつあります。こういう状況では,ヘリウムを主産物として採取することになり,その際に,価格の高くなってしまったLNGの差額を,ヘリウムに転嫁することになり,価格高騰の一因になります。

ヘリウムは石油やその他の鉱物資源のように,先物市場は無いので,投機の対象になっていませんが,品薄状態が続くことは確実です。液体状態での保存が,コスト的に見合わないので,備蓄も難しいガスです。高圧ガスボンベでの備蓄も,同じ理由で現実的でありません。


ヘリウムの需要


2012年の統計ですが,世界で生産されたヘリウムガスは,1億6千800万㎥(気体換算)です。と言っても、どれだけの量か感覚がありませんので,東京ドームの数で計算してみます。ドーム1個が124万㎥ と公表されていますので,135個程度に相当します。日本での使用量は,同年で約1200万㎥ でしたから、10個程度です。ガス業界での売上げは150-160 億円でした。日本全国で年間に使用されるのが東京ドーム10個分だとすると、少ないような気もします。

これがエネルギー用のLNGですと,約 315億㎥ 輸入され,2兆4千億円の売上げ です(ガスレビュー  No.688 による) 。ヘリウムは高価とはいえ、市場規模としては、ガス会社にとっては特殊ガスの一分野に過ぎません。しかし,少量とはいえ,ヘリウムは代替ができない物質ですから,ハイテク分野では大問題です。

ヘリウムの需要の観点から言えば,日本は特殊な事情が存在しています。一つは基幹産業である半導体製造に必要なこと,もう一つはMRIの設置台数が多いことです。

分析用NMRに使用されている量は,全体の10%以下に過ぎません。半導体製造では不活性,熱伝導性の良さという理由で使用されています。輸入量の 45%程度が液晶パネルを含む半導体,光ファイバー製造で消費されています。残念なことに,回収システムはコストの問題で採用されていません。現在の価格では回収装置に投資する半導体メーカーはありません。冷却用に使用するので比較的純度の高いヘリウムガスが,効率よく回収できる筈です。このガスを回収するだけでも,ヘリウム不足はかなり解消できます。今後,更にヘリウム価格が上昇すれば,事業(ニッチ産業)としても成立する可能性はあると思います。

問題は,半導体産業は短期的に景気が上下しがちで,設備投資を回収できるだけの,時間的な余裕が見込めないことでしょう。

MRI は,近年になり,ヘリウムをリサイクルできる冷凍機付の磁石に置き換わっていますが,まだ多くは大気中へ捨てています。1台の価格が億単位の投資なので,病院経営としても,おいそれと置き換えができないのが現状です。日本で約4000台程度のMRIが設置されています。磁石が大型なので,分析用NMRの数倍-10倍の消費量になります。これだけを維持するだけでも,日本に輸入される液体ヘリウムの半分以上を消費します。

BLMが予定している,2015年までの備蓄分売り切りで,需給バランスが崩れる恐れがあります。2003年から,毎年5000万㎥以上を備蓄から取り出して販売していましたが,2015年には,最低備蓄量(1600万㎥)を残して,販売を停止する予定です。新たな供給元に関しては,最も有望視されているのが,「カタール2」とよばれるプラントです。日本人にはサッカーで馴染み深い場所です。ここは,天然ガスを産出する広大な地層があり,ヘリウム含有率も高いので,以前からヘリウム生産を行っていました(カタール1)。主に,ヨーロッパへ供給しています。

新たなヘリウムプラントの権益を岩谷産業が20%落札して,2013年春には輸入開始する予定でした。実際は,プラントと輸送の問題で遅れています。LNGの輸出では,専用タンカーを沖合に浮かべて,パイプラインで充填すれば良いので,大がかりな港湾設備は不要です。しかし,カタールには,コンテナ船を着岸できる深い港が整備されていません。そこで,UAEを通って,陸路経由で出荷せねばならず,その分,時間と経費が掛かります。ヘリウムの場合,液体コンテナでの輸送が前提なので,時間の経過は,容器の圧力上昇を招き,輸送効率を落としてしまいます。岩谷産業は年間800万㎥を購入する契約ですが,需要の伸びが期待される中国,インド,東南アジア方面への供給を行い,これまでアメリカから転送していた分を日本へ振り向けて対応するようです。

需要の伸びは,半導体関連産業とMRIの使用量に依存します。光ファイバーを含む,日本の半導体産業は縮小傾向にあります。MRI は,ヘリウムコスト上昇に従い,再凝縮装置への置き換えが徐々に進むと思われます。


ヘリウム節約の方策



液体窒素温度に効率良く冷やす冷凍機も,ヘリウムガスを使用することになります。とどのつまり,極低温分野にはヘリウムガスが必須であることに変わりはありません。

現在ヘリウムガスを利用しているのは事実ですが,ネオンガスを利用したものを日本で開発しています。ヘリウムと窒素の中間の沸点なので,ヘリウム冷凍機の代替として有望視されています。

液体ヘリウムは専門のガス販売業者から購入しますが,ステンレスかジュラルミンで作られた真空断熱容器で配達されます。1 日に1-3 %程度の割合で蒸発します。

保持時間を長くするには,例えば,液体窒素のタンクをヘリウムタンクの周りに配置して,熱の流入を低下させることで可能となります。液体窒素層が重くなり,運搬に不便なので,大型容器(100 L 以上)では,あまり見かけません。

蒸発したヘリウムを,その場で液化する冷凍機を取り付けた製品も,実用化されています。消費量の大きなMRI 用の磁石では,数年前から一般的になっています。分析用 NMRは,振動が少しでもあるとデータに影響するので装着できませんでした。しかし最近の冷凍機の進歩と,振動を防ぐ技術も開発され装備が可能になりました。この冷凍機に関しても,日本の技術が大きく貢献しています。


ヘリウムの節約と国際競争


根幹に関わる部分を,100%外国,それも実質アメリカ一国だけに大きく依存するのは,脆弱と言わざるを得ません。この分野では,液体窒素で動作する高温超伝導体による,磁石の実用化が望まれます。現在,窒素温度で大電流を流せる線材及び関連技術の開発は,新しい送電線網への応用に向けて日本や始め,欧米各国で凌ぎを削っています。

この技術を応用できれば,希少なヘリウム資源の心配は大幅に減らせます。総発電量のおよその3分の1が送電中のロスで失われていると言われています。これを基幹線だけでも超電導線に置き換われば,電力線の低温維持のためのエネルギーを差し引いても,大変な省エネ効果が期待されます。しかし,ここで使用される線材はセラミック(焼き物)なので,コイルに成形する技術が必要です。磁石への応用は,線材を超伝導になるように接合する技術開発も重要です。これができないと,閉じた電気回路を作れません。

液体窒素温度を効率よく達成させる冷凍機も,ヘリウムガスを使用することになります。とどのつまり,極低温分野にはヘリウムガスが必須であることに変わりはありません。

ヘリウム供給に関して,更に懸念してされることは,最近の「シェール革命」です。残念ながら,シェール層には,高濃度のヘリウムは含有されていません。

もともと,ヘリウムは液化天然ガス(LNG)の副産物として生産されてきました。それが,ここ数年で,一挙に数分の一以下のコストで採掘できるシェールガスに置き換わりつつあります。こういう状況では,高濃度には含有されてヘリウムを目標に採取することになります。その際に,価格の高くなってしまったLNGの差額を,ヘリウムに転嫁することになると思います。価格高騰の一因です。ヘリウムは石油やその他の鉱物資源のように,先物市場は無いので,投機の対象になっていませんが,品薄状態が続くことは確実です。液体状態での保存がコスト的に見合わないので,備蓄も難しいガスです。高圧ガスボンベでの備蓄も,同じ理由で現実的でありません。





つづく

by yojiarata | 2013-06-27 16:43 | Comments(0)
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