ヘリウムガスと液体ヘリウム 拡大する利用範囲とそれを巡る国際戦略



山本昭彦,荒田洋治

ヘリウム物語



これまでに,その時々の重要なトピックについて,その分野の専門家にお話をうかがい,一問一答の形式でこのブログに掲載してきました。

今回は,ヘリウムガスと液体ヘリウムを取り上げます。急速に拡大しているヘリウムの利用範囲,アメリカが一手に握るヘリウムの供給を巡る国際戦略について,ブルカー・バイオスピン(株)の山本昭彦・技術部門長にお話をうかがうことにしました。

ヘリウムに関して,膨大かつ広範囲にわたる中身の濃い情報をお持ちの山本さんとの問答を取り纏めることによって,これまでに類のない小冊が出来上がったと思っています。全面的に協力していただいた山本さんに厚く感謝します。


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山本さんは1981年 国際基督教大学卒業,日本ブルカー(株)入社,国内で,NMR,ESR,MRI,FT-IR のサービスを担当。1992年より,ブルカー USAで NMR 製造部門責任者。1997年帰国。現在,ブルカー・バイオスピン(株)取締役・技術本部長。


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ヘリウムガスの発見と液化



荒田

ヘリウムが発見されたのは,19世紀末のことです。アメリカのガス田で燃えないガスとして発見されました。Concise Oxford English Dictionary には,分光器のスペクトル分析で,ヘリウムが太陽と同じだったことから,ギリシャ語のヘリオス(太陽)から命名されたとあります。

19世紀の中頃までは,ヘリウム,水素,酸素,窒素などは “永久ガス” とよばれていました。Boyle-Gay-Lussac の法則に従い,いくら温度を下げても体積が減少するだけで気体のままであると信じられていたのです。しかし,酸素や窒素,続いて水素が次々に液化され,永久ガスの ”最後の砦” として残っていたヘリウムが1908年,オランダのライデン大学において Kamerlingh Onnes (1853-1926) によって液化されました。液体ヘリウムの大気圧での沸点は4.2 K(-268.8 ℃)です。

空気中に含まれるヘリウムは非常に少量です。現在では,天然ガスからメタン,窒素などを液化によって除いてヘリウムガスを得ています。しかし,20世紀の初頭,Kamerlingh Onnes が遭遇した困難は想像に難くありません。記録によれば,アメリカから入手した大量の鉱物(モナズ石)から分離した 360リットル(室温,1気圧)のヘリウムガスを用いて液化の実験が行われたということです。今日さまざまな分野で用いられている超伝導技術の原点は,Kamerlingh Onnes によって今世紀初頭に達成された業績にあります。


液体ヘリウムの性質


山本

金属の電気抵抗は温度の低下とともに減少します。しかし,それぞれの材料のなかに存在する不純物や結晶のひずみなどのため,電気抵抗をある有限の値以下に下げることはできません。1911年,Kamerlingh Onnes の研究室の G.Holst は,金属水銀の電気抵抗が液体ヘリウムの沸点の近くで消滅することを発見しました。その後,さまざまな金属や金属合金において,ある温度(臨界温度,Tc)を境として電気抵抗が消失することが確かめられました。この現象を超伝導現象,そのような現象を起こす金属,金属合金を超伝導体とよんでいます。

超伝導状態が実現されると,電気抵抗が限りなくゼロに近くなります。したがって,超伝導体によって作ったコイルを液体ヘリウムなどで冷却して超伝導状態にすると,いったん流れはじめた超伝導電流はいつまでも流れ続けます。すなわち,超伝導状態に達したコイルを用いれば,大電流を安定にいつまでも流し続けることが可能となり,これによって強い磁場を発生させることができるのです。

ヘリウムは,今日では意識する,しないにかかわらず,国民生活に必須なものとなりました。


ヘリウムを知る


荒田

筆者の永年の友である 核磁気共鳴(NMR) のような基礎科学の枠を超えて,いまでは, MRI は医療を受ける国民の誰一人として知らない人のいない非破壊的な人体の映像法です。MRI を抜きにして,現代の医療な考えられません。MRI では,巨大な超伝導磁石が使われますから,大量の液体ヘリウムが必要だと理解しています。

この点を考慮して,この対談では出来るだけ広い視点に立って議論をしていきたいと思います。

まず,ヘリウムガスについての一般的なことからお願いします。

山本

一般的な知識を得るには,岩谷産業のウェッブサイトが参考になります。

専門的な知識を得たい場合には,これに加えて,ブログの最終章(その4)で言及した広大なヘリウム採掘場所の映像天然のガス貯蔵庫もご覧ください。


戦略物質としてのヘリウム


山本

ヘリウムガスは軽く,不活性であることから,飛行船のガスとして軍事用として利用されました。
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日本へもやってきた,ドイツのツェッペリン飛行船は,当時のアメリカ が,ナチスドイツのプロパガンダ だとして,ヘリウム輸出を禁じたので,やむなく水素を使用しました。これが,ツェッペリン飛行船の爆発事故を引き起こした原因の一つとされています。

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アメリカは,このガスを戦略物資として,備蓄可能な地層へ戻して貯蔵するという政策を取りました。その後,巨大飛行船は,気象条件に影響されやすいことから,作られなくなりましが,アーク溶接やリークテストなどといった産業用で使われるようになります。東西冷戦時代には,熱伝導度が高いという性質から,ミサイルのエンジン冷却に使用されたので,完全な戦略物資となり,ポーランドやソビエト連邦でも生産されました。現在でも少量ですが,平和利用向けに生産しています。

冷戦終結後,アメリカは,備蓄した10億㎥ のヘリウムを販売することを法律で決定しました。この法案は1996年に成立しています。このことにより,ヘリウムの価格が低下して,多くの産業を生み出す結果となりました。しかし,この法律は2015年で終了する時限立法です。権利を有するBLM ( Bureau of Land Management )が,残っているとされている 5億 ㎥ のヘリウムをどうするか,今後の動向が注目されています。


BLM (アメリカ土地管理局)


まず,BLM (アメリカ土地管理局)のウェッブサイトを開いてみてください。BLM は,アメリカのヘリウムを管理する 総元締です。このサイトには,今からお話しする重要な点が手際よくまとめられています。

BLM は,100年近い歴史をもつ機関ですが,その一端を示す資料を引用しておきます。

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つづく

by yojiarata | 2013-06-27 16:44 | Comments(0)
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