MRI 第10話


2.15 今後の研究の発展に向けて


荒田

ほかに,お気づきの点を挙げていただけませんか。

巨瀬

MRI に関しては,日本の政府と学会は,その発展に対して,うまく対応(サポート)できなかったのではないか,という思いが大きいですね。たとえば,国際磁気共鳴医学会(International Society for Magnetic Resonance in Medicine)という磁気共鳴医学分野の国際会議があり,それには,毎年,5000人以上の科学者,技術者,医師が集まりますが,日本(人)の存在感は,極めて薄いと思います。私も責任者の一人でもありますが,日本では,in vivo NMR や MRI は,NMR 討論会などでも,全く傍流中の傍流で,大学で組織的に取り組んでいる研究室は極めて僅かです。

MRI の装置としての世界市場規模は,約3000億円/年,NMR分光計の世界市場規模は,約800億円/年ですから,MRI の市場規模に対応した研究者,技術者の養成が急務ですが,日本の大学/学界の態勢は,そうはなっていません。

一方,MRI 装置の世界シェアは,Siemens (ドイツ),GE (アメリカ),Philips (オランダ)がBig 3と言われ,80%以上のシェアを有しており,日本の東芝と日立は,合計しても10 数%程度です。NMR 分光計に関しては,BrukerとAgilent (旧Varian )が二強で,日本のJEOL の NMR は,国際的には苦戦しているようですが,MRI と同じ構図です。

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世界のMRIの2010年のシェア(金額ベース)。総額は約3,239億円。


いずれにしても,MRI とNMR のユーザーは多いのですが,装置や方式を開発する研究者・技術者は,研究にお金がかかり,論文が書きにくいこともあり,大学で生き残っていくのは難しい状況にあります。不平を言っても仕方がないのですが,客観的な情勢を踏まえつつ,日々努力していくしかないと思っています。

荒田

画像化技術の将来の進歩を,日本のサイエンスの将来像との関連で,お考えをお聞かせいただけませんか。

巨瀬

私自身は,画像化技術というよりも,装置の開発に興味を持って,研究生活を過ごしてきました。一つの行くべき方向が,MRI for everyone, everywhereというものです。すなわち,MRI を使いたい人は誰でも使うことができ,また,どんな場所でもMRI を使うことができるという意味です。ですから,1 台が何十億円もするような装置には,(野次馬的興味以外)ほとんど関心がありません。そのような装置は,ほとんど,装置産業化していて,予算獲得を目的とするメーカーや,国威発揚のための国策だったりするからです。ですから,今後も,個人的なアイデアが生きるような装置開発を目指していきたいと思っています。

荒田

巨瀬さんがおっしゃっていることには大賛成です。この点は日本のサイエンス全般に共通の根の深い問題と関連していると思います。巨瀬さんのようなお考えの研究者が少しでも増えれば,日本の科学行政の将来にも希望がでてくると思います。(⇒ 荒田洋治『日本の科学行政を問う 官僚と総合技術会議(薬事日報社,2010)』

なお,MRIについてさらに詳しく知りたい場合には,巨瀬勝美『NMRイメージング』(共立出版,2004)を読んで下さい。

文中に登場する方々には敬称を省略させていただきました。お忙しい日程の中,貴重な時間を割いてくださった巨瀬さんに深謝いたします。





by yojiarata | 2012-05-27 10:31 | Comments(0)
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