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MRI 第4話




2.5 磁場の安全性について

荒田

磁場の人体への影響は確認されているのでしょうか。撮影の途中で,突然,磁場が失われることに伴う危険性などということは,心配しなくてよいですか。


巨瀬
静磁場の中でじっとしている限りは,特に問題となる短期的・長期的な影響はないとされています。ただし,強い静磁場の中に入ろうとするときや,その中で首を振ったりすると,人体に電流が流れますので,気分が悪くなることもあるようです。

撮像中に,超伝導磁石や永久磁石が破壊されたという例は,これまで公式には,報告されたことはないようです。ただし,夜中や,休日中に,超伝導磁石の磁場が無くなっていた(スロークエンチといいます)というのは,何度か聞いたことがあります。

それよりも怖いのは,強磁性体の吸引事故ですね。2001年7月,9.11の約2ヶ月前,ニューヨークの病院で,MRI 検査中に患者が呼吸困難となり,慌てた看護師が鉄製の酸素ボンベを持ち込んだところ,それが磁石に吸引され,患者の頭に衝突して患者は亡くなりました。このような極端な例は少ないですが,強磁性体の吸引事故は,たまに報告されています。


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磁性体の吸引事故の例:ネットには,さまざまな吸引事故の例がアップされていますが,中には,ヤラセのような写真もあるので注意。この写真も,MRI室で使われそうもない椅子が使われているので,やや不自然。


2.6 日本におけるMRIの稼働状況


荒田

全国の病院で用いられているMRIの装置は何台くらいあるのですか。

巨瀬

現在,約6,000台のMRIが全国の医療機関などで使われています。1984年以来,最近まで,設置台数は伸びてきていましたが,2008年に設置台数は,ピークを迎えました。人口あたりの普及率では,世界1位で,2位の米国の2倍くらいです。



2.7 器械の価格とメンテナンス


荒田

巨大な器械で,値段も巨大だと想像しますが,一台,いくらくらいするものですか。

巨瀬

全身用で,一番安いもので6,000万円程度,一番高いもので,2億円 くらいです。この他に,毎年1,000万円程度のメンテナンス料が必要です。すなわち,導入コストが1 億円だったとして,10年使用すると,トータルのメンテナンス料も同じくらいかかります。メンテナンス料の中身は,低温寒剤(液体ヘリウム)ではなく(冷凍機の更新に,2年に100万円程度を要しますが),迅速な故障への対応(24 時間対応)や,撮像法のアップグレード,RF コイルのチューニングなどがあります。医療機器ビジネスとして見た場合,高価な装置を売っていくというよりも,メンテナンス料を継続的に稼いだ方が,メーカーとしても収益が安定し,継続的な開発のための人員を確保できるなどのメリットがあります。


2.8 健康保険とMRI

荒田

MRIは保険の対象になっているのでしょうか。

巨瀬

国内では,MRI 検査はすべて保険が適用されます。検査料は,部位と静磁場強度(1.5テスラ以上と以下で異なる:高磁場加算),撮像手法によっても異なりますが,いずれも,1万円~2万円です。なお,他の医療費もそうですが,日本のMRI 検査料は,世界的に見れば,最低のランクにあります(米国では,400~500 ドル,インドでも75 ドルと言われていますが,生活水準を考えると,日本のMRI 検査料は,かなり安いと言えます)。





つづく

by yojiarata | 2012-05-27 16:00
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