MRI 第2話



2 MRI の原理


荒田

ここからは,MRI に話題を絞ってお話を伺いたいと思います。まずはじめに,MRI の原理を,易しく解説していただけませんか。

なお,説明に当たっては,機器メーカーの名称を明記して頂くようお願いします。


2.1 静磁場を用意する


巨瀬

MRI では,まず,均一で時間的に安定した静磁場を発生する磁石を用意し,その中に,位置に比例した磁場を発生する勾配磁場コイルと,共鳴条件を満たす高周波磁場を発生するRF コイルをおきます。そして,RF コイルの中に試料(人体)を入れます。そうすると,人体内の水素原子核(プロトン)が,静磁場の方向を向く傾向を示します。これは,プロトンは,小さな磁石になっており,静磁場の方向を向いた方が,エネルギーが低いからです。でも,分子の熱運動などがあるため,静磁場を向くプロトンの数は,平均すると全体の1/10000くらいと,ほんのわずかです。しかし,これらの多くのプロトンが作る核磁化(棒磁石)の大きさを,その歳差運動(首振り運動)によってコイルに誘起される電圧として検出することができます。これがNMR信号です。

なお,この歳差運動は,RF コイルを用いて,試料に,共鳴周波数の高周波磁場を加えることにより発生させます。この共鳴周波数は,静磁場強度によって決まり,1 テスラのときは,プロトンでは約42.58MHz で,静磁場強度に比例して変化します。


2.2 MRI 画像を如何にして作製するか?

荒田

MRI を経験した患者さんは,異口同音に,ガンガン変な音がして怖かったと話していますが,変な音の原因は何でしょうか。何故必要なのですか。

巨瀬

磁場の中に導線があって,それに電流が流れると,磁場と電流にそれぞれ垂直な方向に,ローレンツ力という力が発生します。昔のブラウン管テレビの左右に走る走査線では,電子に対しては,この力が使われていました。

さて,MRI では,一定の磁場(静磁場)だけでなく,位置座標に比例して増減する「勾配磁場」を使います。そして,この勾配磁場は,勾配磁場コイルという特殊なコイルで作られます。勾配磁場コイルには,最大数百アンペアの電流が流れたり切れたりしますので,これに伴って,ローレンツ力が変化し,勾配磁場コイルが激しく振動します。これが,すぐ後でお話しするように,MRI 検査の時の騒音の原因になります。

荒田

それが,MRI とどう繋がっているのでしょうか?

巨瀬

歳差運動の周波数は,均一な静磁場の中に置かれていると,全く同一ですので,NMR 信号の中で区別することはできません。しかし,場所毎に少しずつ異なる静磁場を加えてやると,歳差運動の周波数が場所毎に変化しますので, どの場所から,どれだけの量の信号が発生しているか,すなわち,どこにどれだけの量のプロトンがあるかを知ることができます。このために加えるものが,勾配磁場です。

勾配磁場は,位置座標に比例して変化する磁場です。通常,1cm あたり1 ガウスくらい加えます。ですから,静磁場(1テスラ=10,000ガウス程度)に比べると,撮像する領域全体(数10cmくらい)での磁場変化としてはかなり小さな変化です。しかし,勾配磁場を発生させるため,勾配磁場コイルに大きな電流を流したり切ったりするので,コイルに大きな力がはたらき,これが,MRI 検査を受けるときの大きな騒音の原因となります。


2.3 1次元のデータから3次元の画像を作製する


荒田

得られたデータをどのようにして,3次元の画像にするのでしょうか?

巨瀬

1種類の勾配磁場を加えただけでは,一つの方向に沿った核磁化の分布しか求められませんので,画像にはなりません。二次元ないし三次元の画像にするためには,たとえば,二つの勾配磁場(x と y)を組み合わせて,xy 面内でさまざまな方向の勾配磁場を作り,その方向に沿った核磁化分布を求め,X線CTと同じ原理(逆投影法)で画像再構成を行う方法があります。これが,MRI を最初に提案して,ノーベル賞を受賞したPaul Lauterbur による方法です。

ただし,現在は,x 方向,y方向,z方向の勾配磁場を,パルス的に独立して加えることにより,核磁化の位相を変調し,そのすべての組み合わせで信号を計測し,それらを多次元フーリエ変換することによって核磁化分布を求める方法が,広く使われています。これは,1991年にノーベル化学賞を受賞した Richard Ernst による方法です。

a0181566_22595585.jpg

MRI の仕組み。ノーベル賞のウェブサイトより。




つづく

by yojiarata | 2012-05-27 16:50 | Comments(0)
<< MRI 第1話 MRI 第3話 >>