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MRI 第1話



今年最初の「専門家に聞く」は,巨瀬(こせ)勝美博士にお願いしました。

巨瀬博士は1953年長崎県生まれ。1976年東京大学理学部物理学科卒業,1981年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了,東京芝浦電気(株)総合研究所入所,国産初の人体用MRIの開発などに従事。1986年筑波大学物理工学系講師,1994年同助教授,2001年同教授,現在に至る。専門は物理計測,中でも磁気共鳴イメージング (MRI )。




Ⅰ.人体を画像化する 4 種類の方法



荒田

人体を対象とする画像診断には,レントゲン撮影がこれまで使われてきました。現在では,技術的に大きな進歩があり,さまざまな方法が目的に応じて使い分けられているようですが,まずこの点からお話いただけますか。

巨瀬

画像診断には,X 線,放射性同位元素(Radio Isotope,RI ),超音波,磁気共鳴(おもに核磁気共鳴)を用いる4種類の方法があります。内視鏡や眼底カメラなどの,可視光そのもので見る手法は,伝統的には,画像診断とはされていません。また,ほかにも,生体を画像化する手法が実用化されているものもありますが,主なものは,上の4 種類です。順番に説明します。


X 線 CT

X 線を用いた撮像手法には,単に透過像を用いるいわゆる単純 X 線撮影,造影剤 (バリウム化合物やヨウ素化合物)を投与してから撮像する造影 X 線撮影,多方向からの投影像を用い,コンピュータで画像再構成を行って,断層像などを求める X 線 CT があります。

荒田

X 線 CT にはどんな特徴があるのでしょうか。

巨瀬

X 線が透過するときの X 線の強度の減衰率は,原子番号の4乗に比例するため,人間の体では,皮膚,筋肉,内臓はX 線を透過しやすく,骨の部分は透過しにくいため,主に,骨が描出されます。このため,骨折などの診断に,最も適しています。逆に,骨に囲まれた部位(関節や脊髄など)は適していません。

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X 線CT(東芝)



陽電子放出型CT(PET)  

放射性同位元素(RI)を使う場合にも,さまざまな方法がありますが,最もよく知られている方法は,陽電子放出型 CT (positron emission CT:PET)とよばれるものです。実際には,陽電子を放出する炭素11,酸素15,フッ素18 などの原子を含んだ薬剤(ブドウ糖など)を使います。このような薬剤を患者に投与して,それが患部に集まる様子を,陽電子と電子が合体して消滅する時に発生するガンマ線を検出し,画像化します。ガンの早期発見に役立つということで,PET と X 線 CT を合体した装置が,一時,ブームになりました。

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超音波診断装置


超音波診断装置は,超音波(高い周波数の音波)を,体表から体内に放射して,反射してくる超音波を使って,レーダーと同じ原理で画像化するものです。腹部や心臓などによく使われています。お腹の中の赤ちゃんの診断にも使われます。



MRI


MRI は,人体内の水と脂肪の水素原子核(プロトン)を観測します。MRI は,骨に囲まれた部位,すなわち,関節や脳の診断に,特に適しています。その他,造影剤を使うことなく,血管系を描出することもできます(MR Angiography)。また,脳梗塞の超早期診断や,腫瘍の診断,脳機能計測など,さまざまな用途に使われています。




つづく

by yojiarata | 2012-05-27 17:00
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