荒田 Spring-8の建設費,年間の運営費などは,すべて理研が面倒をみるのでしょうか。差し支えなければ,どれくらいお金がかかるものか知りたいのですが。 宮野 SPring-8の建設時と現在では,組織が変遷しています。最初は,理研と原研(当時は特殊法人)が共同チームを組んで作りました。できてからは,「共用法」という基本法により,(財) 高輝度光化学研究センター(JASRI)が設置され,運営と運用に当たりました。経営は,理研,原研そしてこのJASRIが三者で行ってきました。建設費はSPring-8 本体の建設費で1,000億円ぐらいと一口にいわれています。 運営費はそのほぼ一割,100億ぐらいでビームラインが増える中,減少傾向で推移しています。その後,原研が特殊法人改革の流れの中,経営から手を引き,2者体制になりました。さらに「共用法」が改訂され,理研1者体制になっています。JASRIはSPring-8に関する法律である「共用法」(特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律)改定により、登録法人となり,理研が行う毎年の契約の競争入札に応札して落札すれば運用を委託される立場になりました。組織論ははじめから複雑です。 そのために無駄になっているかどうか,それはなかなか難しいところですが,一般競争入札部分がどんどん増えてきています。それによる経費節減は進んでいます。どこまで絞ればよいかそれは難しいとことです。しかし,極論すれば国家存亡の危機の今,常に厳しく問われてしかるべき時代かもしれません。つまり,緊張して常に事に当たらなければ,国民の信頼をすぐに失いかねない,と言うことです。 この点からも,現在においても,共用ビームラインの課題選定は公平性と透明性を確保するために,運営を担当している理研とは独立したJASRIが直接,文科省から補助金を得て行っています。 独法化した理研の野依理事長のもとで,国家基幹技術の2つである「京」計算機とXFEL SACLAが大きな最初の関門を超えた今,真の存在価値が問われると思います。 注意すべきことは,ヒトゲノムの進展によって,10年たつ今,全ゲノム配列決定が医療などの発展の加速など、初期に期待した通りには応用開発に役立っていないと比較的ネガティブに評価されるように,SPring-8,SACLAによっていろいろな科学的事実が明らかになったからといって,社会の直面している課題を直接的に解決することにはならないだろうということです。なぜなら,解析的理解は進んでも,その現実的解決手段は別問題だからです。ゲノム解明により,遺伝子病がわかったからといって,満足のいく新たな治療法が見つかるかはほとんど別問題といっていいからです。病気の予測ばかりができて,治療法がない患者が増えることにもなり兼ねません。 つまり,これだけ企業ユーザー,そして応用研究が盛んになったSPring-8でさえ,短兵急な実用的産業上の成果を期待することは簡単ではないだろうと思います。その意味で,科学の社会的存在価値が問われると同様の疑問を大型科学研究施設であるSPring-8自身がまともに受けるだろうし,それに応えられないとしたら,まして答えるべき最大限の努力を払い続けないことには存続が難しい時代が続くのではないでしょうか。 荒田 宮野博士には,資料の収集,図の作成など,大変な時間と労力をおかけしました。また,この記事の作成の間, 多くのことを学びました。ここに宮野博士に心より御礼申し上げます。
by yojiarata
| 2011-07-28 17:10
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