荒田 X線結晶解析を目的にしたビームラインは何本くらい用意されているのでしょうか。 宮野 タンパク質結晶構造解析ということでいいますと,BL26B1/B2理研構造ゲノムI,IIビームライン,BL32B2 創薬産業ビームライン、BL32XU 理研ターゲットタンパクビームライン, BL38B1 構造生物IIIビームライン,BL40B2構造生物II ビームライン,BL41XU構造生物Iビームライン, BL44XU生体超分子複合体ビームライン(阪大蛋白研)でしょうか。それ以外,BL45XU理研小角用ビームライン,BL02B1/B2の単結晶と粉末結晶解析ビームラインなどマテリアル向けの結晶解析ビームラインがあります。 荒田 X線結晶解析を行う場合,Spring-8が断然優れている点は何と何でしょうか。 宮野 結晶の大きさ,データ取得の早さ(損傷を低下させる), 細い上に強く,位置と強度が安定であることです。 荒田 膜タンパクなどの構造解析に使われている理由をお聞かせ下さい。 宮野 細く、強い光が安定して使えることです。強くないと,まず回折データを測定できません。 小さいマイクロ結晶には細いビームが必須で,細いビームには厳しい安定したビームの位置と強さの安定性が必須なのです。 清水信隆他 生物物理 50,306(2010) 五十嵐教之 日本蛋白質科学会アーカイブ#32 (2008) 荒田 専門家の意見をして,エッセンシャルなことを書いていただけないでしょうか。 宮野 結晶は,回折して強め合うことで初めて散乱光を観測できます。そのために結晶を使っているわけですが,膜タンパク質は,結晶が小さい。とくに最初の結晶は大きさがミクロン単位ですから,放射光ビームラインでないとそもそも評価出来ません。そしてビームが結晶の大きさに見合って細くないとバックグラウンドにしかならない部分での散乱が増えるだけです。だから,膜タンパク質の評価には,マイクロフォーカスビームラインが非常に良いのです。そのうえ,たとえ結晶がそれなりの大きさがあったとしても,均質な質を持つことはあまりない。つまり,良い場所で結晶回折データをとることができるほど細いビームラインであることが重要なのです。 また,放射線損傷については,これまで,電顕をやっていた元MRC—LMB所長のヘンダーソン博士が,ヘンダーソンリミットという生物由来物質の放射線損傷の限界を経験的に提唱してきましたが,これが実際的なマイクロフォーカスビームでは成立しないかもしれないということになりつつあります。つまり,損傷は,ビームが当たった後に生じる2次電子によるもので,その飛程より小さい1ミクロン程度の結晶ならばこれまで考えられていたより,長く持つという主張があります。 また,GPCRでよく使われる脂質の3次元構造であるキュービックフェーズを使った結晶化法では大きな結晶が育ちにくいのです。普通はせいぜい10ミクロンぐらいまでです。現在,SPring-8の理研マイクロフォーカスビームラインは実際に安定した1ミクロンビームを使うことができます。 荒田 今後,どのような方向に発展していくのでしょうか。X線結晶解析のほか,さまざまな分野の利用を含めて,知りたいのですが。 宮野 これは,何にでも使えるといえるのではないでしょうか。つまりは,強さと透過性そして,相互作用のユニークさをどう生かすかでしょう。エネルギーの低いところでは,水の構造を調べている辛教授のグループのような軟X線を使った励起のエネルギーを特定したスペクトロスコピーやいろいろなイメージングが可能です。できないことも多いですが,今では偏光X線を操ることができ,選択的励起と特異的観測ができるようになってきています。強度が強いとこれまで測定できなかったものまで可能になります。極限は,10億倍強い光が使えるXFELでしょうか。こちらは時間分解能が強い。最短時間はフェムトセカンド(10−15秒)ですから。 普通の結晶構造解析をすべきタンパク質はまだまだあります。結晶にならないと思われていたものも,結晶化して解けてきています。原子構造を基盤にした研究には,SPring-8のタンパク質結晶構造解析がずっと王道であると思います。
by yojiarata
| 2011-07-28 17:15
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