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解説 原子力発電 - 原理,放射能,健康被害,風評被害 Ⅲ



日常生活と放射能

荒田

これまで説明いただいた事柄のまとめとして,私たちの日常生活と放射能の係わりについてまとめていただけませんか。説明が重複しても構いません。

馬場

この世の中のあらゆるものは,人工的に作られたものを除いて,水素からウランまでのわずか82種類の元素から構成されています。元素の一つ一つの粒子は原子と呼ばれ,原子は中心の重い核とその周囲を回る電子からできています。中心の核は,電子の約1800倍の重さを持つ陽子と中性子とよばれる2種類の核子から形成されています。陽子は,水素原子から核の周りを回る軌道電子をはぎ取ったプラスの電荷を持つ粒子で,原子核の中に存在する陽子の数は,原子番号を与えます。中性子は電荷を持たない核子で,陽子より僅かに重く,陽子と中性子の数の和は,原子の重さを与えます。

原子の陽子数が同じでも中性子数が異なるものは,同位体とよばれます。同位体は,互いに化学的性質は同じですが,物理的性質が異なります。同位体の中には,安定なものも不安定で放射線を出して壊れてしまうものもあり,数の上では不安定な同位体の方が圧倒的多数を占めます。

そもそもこれらすべての同位体は,太陽のような恒星の一生の中で作られました。それらの星が一生の終わりに,超新星となって爆発する際に,同位体たちは宇宙空間に放出され,長い年月の後,再び固まって星を作ります。地球もそうやって太陽と一緒に生まれました。

地球が形成されてから46億年が経ちました。その間に,寿命の短い不安定同位体は死に絶え,幾つかの長寿命の同位体だけが現在も生き残っています。ウラン- 238,ウラン- 235やトリウム- 232 はそれら生き残り組の放射性同位体ですが,その他にも注目すべき元素として,半減期13億年のカリウム- 40 などがあります。成人の身体には約140 g のカリウムが存在していますが,その0.01% は放射性の カリウム- 40 が占めており,私たちの身体の中で,毎秒 4300 ベクレルの放射能が発生しています。さらに,それと同程度の 炭素-14 の崩壊が体内で起きており,合わせて 9000 ベクレルの放射能を私たちは身体の中に抱えているのです。その上,私たちは宇宙線や地中の天然放射能に因るバックグラウンドを100 ベクレル程度,空間線量率にして400-800マイクロシーベルト/年の放射線を受け続けているのです。ベクレルとシーベルトとの換算は,の「シーベルト,ベクレルとは何か」の式(2)と式(3)で与えられます。

我々日本人の間ではラジウム温泉の人気が非常に高く,毎年大勢の人が訪れています。町中のあちこちに見られる人工のラジウム温泉はともかく,古くから知られている天然のラジウム温泉の含有放射能は1リットル当り数千ベクレルと非常に高いものが多く,中でも山梨県の増富温泉は,実に1 L(リットル)当り1万2千ベクレルと非常に高いラドンを湧出しています。しかもこれはアルファ放射能ですから,普通のβ,γ線に換算すると実に24万ベクレル/Lにもなります。そして人々は温泉に浸かるだけでなく温泉水を飲んでさえいるのです。そうやって人々は何百年もの間ラジウム温泉とつき合って来ているにもかかわらず,いまだかってラジウム温泉のせいで放射能障害にかかったという例は聞いたことがありません。

それとは別に,私たちには医療用の放射線や放射能との付き合いもあります。がん治療のためのコバルト照射や,すでに発病している患者に投与する診断用のテクネチウム-99m は,何らかの放射線障害をひき起こすほど強力ですが,これらはがん治療のためには止むを得ないこととして受入れられています。

問題は,健康な人が検査のために浴びている放射線です。国連科学委員会では,胸部(肺・心臓)の X線間接撮影で0.3 ミリシーベルト(mSv),断層撮影では8.6 mSvの線量を,また,胃・上部消化器官の間接撮影で2.8 mSv,透視では4.2 mSv,さらに頭部CTスキャンでは 6.9 mSv の被曝をするとされています。その他にも,歯の治療や骨折部の撮影など様々な場合に放射線が使われています。


つづく

by yojiarata | 2011-11-23 17:53
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