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水の変容 Ⅲ


化学が作り出す水の構造の美しさ


前項では,「純粋な水」の構造について述べた。既に繰り返し強調したように,化学的に純粋な水はこの世には存在しない。ならば,積極的に,化学が介入すると,水の構造はどのようになるかをまとめてみよう。

結晶水の構造

次の一連の図を見ていただきたい。
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図(A)- 図(J)では,酸素原子が黒丸,図(K)では,酸素原子が白丸で表示されている。
(A)CrCl3・6H2O
(B)CuSO4・5H2O
(C)KAl(SO4)2・12H2O
(D)Na2SO4・10H2O
(E)SrCl2・6H2O
(F)SrCl2・2H2O
(G)SnCl2・2H2O
(H)HCl・H2O
(I)CaSO4・2H2O
(J)HPF6・6H2O(この図に限り,ステレオで表示)
(K)(CH3)4N+・OH・5H2O

図を最初から順番に追ってみると,H2O 分子の配列は,点から線,線から面,面から立体へ移って行く様子が見てとれる。この傾向が極端に現われるのが,あとで示すガスハイドレートの場合である。

無機錯体の中の水分子

無機錯体においても,水分子がさまざまな形で存在していることが知られている。
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(A)では,錯体の形成する層の間に水分子(黒丸で表示)が作る面が差し込まれているし,(B)では,Cu-Cu の結合軸に,水分子から成る12環の輪が巻きついているのも興味深い。

ガスハイドレート

19世紀の初頭,イギリス化学界では,「塩素ガスの結晶」について大議論が巻き起こっていた。イギリス化学界の重鎮・デービーは,実験助手であったファラデーに「塩素ガスの結晶」について詳しく調べるよう指示した。なんとそれから13年が経過した1823年,ファラデーは,問題の「塩素の結晶」は,湿気の高い環境のもとで成長すること,その結果できた結晶は,塩素のほかに多量の水を含むことをデービーに報告した。この結果は,後に,デービー,ファラデーが想像もしなかった方向へ発展し,ガスハイドレートあるいはクラスター・ハイドレートをよばれる水のかご型構造を持つ広い世界が開けることになる。

それから130年後の1952年,ポーリングはX線結晶解析により,「塩素の結晶」は,実は,塩素クラスレートとよばれるかご型をしていることを示した。
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水分子(酸素原子を黒丸で示す)が12面体を形成し,
その中心に塩素原子が位置する


その後,水分子が作るかご型構造のクラスレートが次々に見付かり,多面体構造も,12面体(A)に加えて,14面体(B),15面体(C),16面体(D)と,実に多様であることがわかった。
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深い海の底に,メタン,CO2 のハイドレート・クラスレートが大量に存在する海域があることが知られている。深海の高圧によって,ハイドレートが作られるのである。もしも,メタンハイドレートを大量に集めることが出来れば,エネルギー問題の大きな希望であるとされ,注目されてきた。メタンを気体として運ぶに比べて,大幅に圧縮できるからである。ただし,CO2ガスハイドレートは,地上で爆発すれは環境に甚大な被害をもたらすことは言を俟たない。

理屈の上では,極めて魅力的であるが,深海からメタンハイドレートを如何にして集めるかなど,技術的に問題をかかえて研究が続けられている。


つづく

by yojiarata | 2011-05-18 18:34
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